第5話
銀狼族は、太古に起きた戦争の時に亜人の帝国を守るために奮闘した一族である。
しかしその戦争のせいで一族の戦死者は多数にのぼり、人手不足になっていた。
しかし、それでもそれなりに幸せな暮らしを送っていたのだ。その日までは。
だが、それを再び壊したのが、人間であったのだ。
教会はかつての対戦で軽くはない傷を負わされた銀狼族が弱っているのを好機と見たのだろうか。銀狼族に多大な懸賞金をかけた。
その額はゆうに家が2個立つほどの金額で、賞金稼ぎや賊は銀狼族を追い回し始めた。
最初のうちこそ種族の力の差で撃退できていたが、そこで諦めないのが人間という種族のずる賢いところだ。
次に彼らは人質を取り始めた。
子供や女を人質にとり、助けに来た者を殺し、あとに子供も女も殺し、虐殺を始めたのだった。
元々、基礎的なパフォーマンスは銀狼族の方が人間よりはるかに高かったのも一因だろうか、人間の僻みというか妬みというか、ともかくそんな負の感情から虐殺は更にエスカレートした。
そんな地獄の中、私の家族は命からがら追っ手から逃れようとしていた。三日三晩泣く暇もなく森の中を走った。
だが、奴らも一筋縄では行かず、ついに母親が捕まってしまう。
奴らは本拠地に母親を連れて行き、高いやぐらに処刑場を作った。そして、私をおびき出すために、大声で叫び続けたのだった。
出てこい。来なければ母親が死ぬぞ。
何時間も、何時間も叫ばれるその声に、行けばどちらも殺されるとわかっていると言うのに私は近づいてしまった。
親が殺されるのを、黙って見ていられなかった。
どうしようもなく、無力さをかみしめながら処刑場のすぐ近くに行った私の頭の中に、声が響いてきた。
「「逃げなさい」」
声がした方を向くと、母親が穏やかな目でこちらを見ていた。それは、いつもと変わらない日常を感じさせるとともに、もう取り戻せない尊い日々を感じさせた。
あぁ、もうあの頃には戻れないんだ。
泣きそうになる目を抑え、意を決して走り出した。それから暫くした時、日が暮れ始めた頃だったか、後ろで爆音が聞こえ、振り返ると奴らの本拠地が燃えていた。
その炎の含む魔力は、間違いなく母親のもので、それだけで母親が全ての力を使って爆発魔法を使ったということがわかった。
それをみて、母親の方へと反射的に走り出しそうになるも、反対方向へと駆け出した。
目にたまるのは、涙。
口にたまるのは、噛み締めたことによって流れ出した血だった。
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