20日目・VSドライト2


「さぁさぁさぁ!かかってきなさい!?」


ドライトは鼻息も荒く青竜刀をブンブンと振り回す、それを見た俺達とセイネ達は真っ青になり、一歩一歩ドライトと距離を取り逃げの姿勢になる。


それを見ていたシリカが呆れてドライトに言う。


「あなた、青竜刀なんか出したら星司さん達はもちろん、レイナ達もドン引きよ?

手加減してあげなさいな?」


シリカに言われたドライトはシブシブ青竜刀をしまい、代わりにハルバートを取り出して、カーネリアとアンジュラにブーイングをされてまたしまっている。




「今のうちに言っときますが、ドライト様はちゃんと手加減してくれます。

でも、その手加減の仕方が絶妙すぎるので、とんでもなく痛い目に合う可能性が大です、なんとしてもその被害を少なくするのですわ!」


リティアは拳を握りそう力説するが、何が言いたいのか分からない俺達が微妙な表情なのに気がついたアレナムが、追加で説明してくれる。


「さっきも見たでしょ?サルファ様がハリセンでマネキンを叩くのを、それでリティアがドライト様に叩かれた時のとを、比べてみなさいよ?」


言われて俺達は思い出す、サルファがハリセンを振るった時はマネキンが吹き飛び、離れたところの壁に亀裂が入った。

それに対してドライトが振るった時は、リティアの尻を叩いた音がして、リティアが悶絶しただけだった。


「いい?サルファ様はかなり力のコントロールが上手い方なのよ?

そのサルファ様ですら少し失敗しただけで、あんな惨状になるほどの力を持ってるの。

でもドライト様はより力が有るのにコントロールが凄く上手いのよ?」


「……何が言いたいんだ?」


アレナムが何を言いたいのか分からないので俺が質問すると、アレナムは真剣な顔で俺達に伝えてくる。


「つまりドライト様は……絶妙な手加減で、私達に最大限の痛みを与える事が出来るのよ!」


「「「そんな情報聞きたくなかったわ!」」」


聞きたくない情報を与えられてしまい、マスマスやりたくなくなった俺達だったが、ドライトの準備が終わったようでハリセン片手にドタドタと走り回っていた。


「相談は終わりましたか?初めて良いのですか!?」


どうやら、走り回って準備運動しているようで「体が暖まってきました!」等と言いながら、模擬戦を初めていいか聞いてくる。


良くはないが何時までも引き伸ばせるわけでもないので、俺達はお互い頷き合うと、審判役らしいシリカに視線を向ける、そして―――




「模擬戦、始め!」




模擬戦が始まった。


まず最初に動いたのはセイネだった、俺達の側に居た彼女はスゥーっと、俺達の目の前から音もなく静かに消えていく。


すると少し離れていた所に居たドライトも消えていく、ラッパを吹いて太鼓を叩き、背中に[私を見て!]と書かれたノボリを背負ったままで。


そしてドライトが走っていく、消えているのに何故分かるのか?

ドライトはそこらに落ちてる物を吹き飛ばしているからだ、なんにしろそれを見ていた俺達、アンジュラとアレナムが慌ててセイネに声をかける!


「……セイネ……それは、悪手!」


「バカセイネ!ドライト様に絶影が効くはずないだろ!?

逆に孤立するから止めろ!」


続けてアレナムがそう叫ぶと、セイネが姿を表す。

俺達に背を向け全力疾走で非常口に向かう姿を!


「あ、あいつ一人で逃げる気かよ!?」


「な、なんて奴だ、仲間を見棄てるなんて!」


「でも理解は出来る!」


俺、弘志、百合ちゃんがそう叫ぶ横で、アレナムがため息をつきながら言う。


「あのバカ……絶影なんかドライト様に直ぐに見破られるに決まってるだろうに……

おーい、セイネ!逃げるのは良いけど、頭にしがみついてるのは良いのか!?」


そう、セイネの頭にはドライトがしがみついていたのだ!

しがみつくのに邪魔な太鼓とラッパは何処かに捨てたようだが、ノボリはまだ身につけている、だが書いてある字が変わっていた。


[スコティッシュフォールド]……確か猫の種類だったよな?


等と考えていると、セイネの逃走劇が終わる。

ドライトが背負っていたノボリが天井から吊り下げられたポップに引っ掛かり、セイネは[グキ!]っという音と共に盛大に首を仰け反らせて倒れ、ピクピクと痙攣している。


「おおお……えらい目にあった……

あれ?ドライト様、何で私の頭を見て頷いてるんですか?」


なんとか回復して起き上がったセイネは、ドライトがじっと自分の頭を見てるのに気がつき質問をする。


「似合いますよ!」


ドライトはセイネの質問に答えずに、ビシ!っと親指を立てグッジョブっとポーズをとりながら似合うと言ってウンウンと頷いている。


その視線にセイネは恐る恐る自分の耳へと手をやる、そして―――


「わ、私の耳があぁぁぁ!?」


「……セイネ!……わ、私の可愛いセイネに……なんて面白い事、んん!……酷いことを!」


そう……セイネの猫耳は、スコティッシュフォールドの様にペタンと折れ曲がってしまっていたのだ!


「ウソウソウソ!倒れてて戻らないよ!?

どーしよ、どーしようアレナム!アンジェ様、助けて!」


そしてセイネはと言うと、ピンっと立った耳が誇りだったので驚き泣いて、オロオロとするばかりだった。


そんなセイネにアレナムが駆け寄りながら叫ぶ。


「バカ!戦闘は終わってないのよ!あ!セイネ、後ろ!」


「ア、アレナム……後ろ?」


セイネはorz状態になって泣いていた、そしてそんなセイネにアレナムは後ろ!っと緊張した声で呼び掛ける。

アレナムの声と背後、お尻の方から感じる殺気に振り向くセイネ。


そしてセイネが見たものはハリセンを振りかぶるドライトだった。




[パシーン!]




「………………!!」


セイネは尻を抱えて声も出さずに悶えている、そんなセイネのそばにドライトが行くと喋りかける。


「ダメじゃないですか、あんなタイミングで独りで逃げたら、狙ってくれっと言っているようなものですよ?

逃げるにしても、もっと他の人を利用して絶妙なタイミングを作るのです!」


「……耳……私の、耳!」


セイネは倒れ、うわ言で耳の心配をしている。


「耳ですか?ハリセンで叩かれたショックで、元のピンっと立った耳に戻ってますよ?」


「よ、良かった……ガク……」


セイネは自分でガクっと言って、気絶してしまう。

そんなセイネの元にアレナムが駆けつける。


「セイネ!気絶したふり……ほ、本当に気絶してるわ!」


「次はアレナムが相手ですか?

良いでしょう、かかってきなさい!」


「へ?……わあぁぁぁ!?レイナ、リティア!支援して!」


そう、セイネの近くにはまだドライトが居たのだ!

そしてそんなドライトは、駆け寄ってきたアレナムを次の相手と考えたようだった。


アレナムはタイマンでドライトの相手をしたくないようで、レイナとリティアを呼ぶ、だが肝心の2人はと言うと。


「ア、アレナム!何よこれ!?」


「商品が邪魔して……ドライト様の仕業!?」


レイナとリティアがアレナムの元に駆けつけようとしたが、ドライトがセイネを追って吹き飛ばした商品や物が点在していて、移動の邪魔をしていたのだ。


「ッチ!星司さん、アレナムを支援してあげて!」


「お、俺!?……し、仕方ない、フン!」


指名された俺はシブシブ近くに転がっていた何かを拾い、ドライトに向けて投げつける。


「てい!」[パシン!]


だがドライトは俺の投げた何か、マグカップをハリセンで叩き落とし、バカにしたように、ニヤリと笑ったのだった。




「このこの!このぉ!?」


「星司を援護だ!ハァ!」


「よ!は!そりゃ!」


「あぶね!?ハリセンで器用に打ち返しやがって、てい!」


俺は全力でそこらの物をドライトに投げつけていた、左右では朝日と弘志が俺と同じ様に投げつけているが、ドライトはそれらを器用にハリセンで打ち返していた。


「い、今のうちに!」


ドライトがバッティングに集中した隙にアレナムは逃げ出そうとしたが、ドライトに気がつかれてしまう。


「む!?逃がしませんよ!」


ドライトは素早くアレナムに近づくと、アレナムに組み付いて投げの姿勢になる。


「捕まえましたよ!投げ飛ばしてあげます、そおい!?」


ドライトはアレナムの腕を取り懐に飛び込むと、一本背負いを仕掛けたのだった!

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