11日目・ショッピングセンター


「な、なんだここ?なんで荒らされてないんだ?」


「星ちゃん、服とかの物資だけじゃないわ、食料品コーナーも手付かずみたいよ?」


「お菓子とかもそのまま棚に有る……あ!プリンが有る!」


「百合、流石に腐ってるだろ?」


「……クンクン、大丈夫みたいだよ?」


「百合ちゃん止め時なって……そっちの焼き菓子なら大丈夫だろうから、それにしときなよ」


「えー、円ちゃん大丈夫だって」


「どうしても食べたいなら、後で喫茶店で出してもらいなよ?」


「ぶー……あれ?円ちゃん、これ冷蔵庫が動いてるよ?」


「へ?……本当だ、冷たい」


百合ちゃんはプリンを戻そうとして、陳列棚に電気が来ていると気がついたようだ、円も商品を手に取り冷たいと言い、俺の方を見る。


「……停電してたよな?

朝日、こーいった大規模施設は停電した後、電気が復帰したら勝手にシステムが再稼働するのか?」


ドライト・オブ・ザ・デッドが始まって10日経つが、数回停電が起こっていた、長い時だと半日は停電していた。


「うーん……ブレーカー、安全装置が有ると思うんだけどな?

自動で全部はダメでも、冷蔵庫なんかは復旧するのかもな?」


朝日の言葉に俺は回りを見回しながら言う。


「バックヤードに行ってみるか?

こっちにこれだけ残ってるんだから、裏にはかなり残ってるんじゃないか?」


「行きたいが、こう暗くちゃな……」


俺の言葉にネイサンがそう嫌そうに言う。


「なんだよネイサン、男の癖に暗い所が怖いのか?」


弘志がバカにしたように言うと、ネイサンは真面目な顔で弘志に言う。


「ああ、怖いな。

俺達の世界で冒険者の死亡理由の上位に必ず入るのが、暗い所での奇襲や罠だ。

だから俺は怖いし出来れば行きたくない、行くなら明かりなんかをしっかりと準備してから行くな?」


ネイサンの至極全うな言葉に、俺と朝日は頷いていたが弘志のバカは笑いながら言う。


「ハハハ!本当にバカだし、臆病者だぜ!」


弘志の言葉にネイサンは目を細めて、殺気だつが弘志はヘラヘラ笑いながら言う。


「暗いから見えなくて怖い?なら……チャクラを使って第3の目を開けば良いんだよ!」


弘志はバカではなく、アホだった。


そんな弘志の前に百合ちゃんが立ち、睨み付けている。

それを見たネイサンが横で「言ってやれ言ってやれ!」っと、百合ちゃんを応援する、そして百合ちゃんは―――


「弘志くん!チャクラで開眼するより夜目を習得する方が早いよ!2~3時間もあれば習得できるはず!」


「「「出来てたまるか!」」」


百合ちゃんもアホだった。




「でも、こんなに明るいのに、見えないなんて不便ね?」


「そりゃエルケは獣人族、しかも狐人だからなぁ……」


「狐人だと何か違うのか?」


「大体の獣人族は種族特性で夜目を持ってるんだよ、んで狐人族は上位の暗視を最初から持ってるから、この程度なら昼間と変わらんはずなんだ」


「へぇ~」


「ブィ!」


俺が珍しそうに見つめると、何故かエルケはVサインをしてきた。

誰だ変なこと教えたの……


「まぁ、そう言うことならエルケ、頼んだぞ?」


「……何が?」


俺がそう言うと、エルケは何を頼まれたのか分からずに、首をかしげるのだった。




「ちょっとちょっと!乙女を盾にするっておかしくない!?」


「盾にはしてないぞ?ちょっと先頭を歩いてもらってるだけだろ?」


「ああ、しょうがないよな?

暗視を持ってるのはエルケだけだし」


俺達の少し先、5メートルほど前を歩くエルケが文句を言ってくるが、俺とネイサンが反論して文句を封じる。


「クウゥゥゥ……私にも暗視が有ったら……!」


「百合っち!あんた変な力で見えてるでしょ!?

弘志、あんたもよ!」


「チャクラの調子が悪くてな、全然見えんのだ!

……あ、百合、そこに竹刀が転がってるから気をつけろ?」


「あ、弘志くんありがとう……本当に竹刀だ、何でこんな所に落ちてるんだろ?」


弘志はそう言って俺達には何かの棒が落ちてる?っと言った感じにしか見えない物を指差し、百合ちゃんは指差された物を見て何で竹刀が落ちてるんだろ?っと、呟く。


「やっぱり見えてるんじゃないの!

あんた等も前に来い、前に!」


エルケが何故か怒って叫んでいる、ドライトゾンビや感染者に天使や竜人が居るかもしれないのだから、静かにして欲しいものだ……


「武器になりそうな物とかチラホラ落ちてるよね?」


そんなエルケを無視して円は周りを見回してそう言うと、梨花が何かを見つける。


「うん、あれは背負い袋かな?」


「ん?……本当だ、俺達が貰ったのと同じ物だな?」


「善君、ここにも誰かが探索に来たのかな?」


「ああ、その可能性が高いな」


桐澤さんと朝日の話を聞いて全員が警戒を強めるが、学園長とマサミさんが大丈夫だと言い警戒を解かせる。


「ここのショッピングセンターもそうだけど、海岸地区は最初かなりの人数が入り込んだのよ?」


「で、デコトラを盗まれたドライト様が猛り狂って来たら、蜘蛛の子を散らすように逃げて……今では誰も近づかなくなったのよ!」


「だから武器っぽい物とか、ショッピングセンターには普通は無い物とかが転がってるのね……」


香織姉がそう言って周囲を見回す、するとエルケがまた叫ぶ。


「だから、あんた等も前に来いっての!

絶対に暗くても見えてるでしょ!?」


「「「……暗くて全然見えない(わ)!」」」


「嘘つくな―――!」




エルケの叫び声を聞きながら、俺は真っ暗な店内を見回していた。


「靴か……色々有るな、作業用の安全靴?へぇー爪先の方に鉄板が仕込んであるのか……こっちは靴底にも鉄板や特殊な素材を入れて踏抜き防止をしているのか、お!?結構軽いんだな?」


「星司、それって靴なの?

って言うか、よく読めるわね?私でも薄っすらとしか読めないのに」


そう言いながら隣に立ったエルケが、俺の持っている安全靴を覗きこんでくる。


「うむ、感だ」


「そんな訳あってたまるか!

こんな暗い所でそれだけ読めるなら、私と一緒に前に立ちなさい!」


そう言ってエルケが俺の腕を掴んだ瞬間だった!

辺りが一気に明るくなったのだ!


「すいません、忘れてました。

私達クラスだと生活魔法位は使えるんでした……」


「初歩の初歩クラスの魔法までは、制限されてなかったんですよ……」


そう言ってクリスティーナ学園長とマサミさんは、自分達や辺り一面に生活魔法のライトで作った光玉を浮かべていたのだった。


「私の苦労は一体……」


「エルケ、諦めなさい。

ドライト様に関わった以上、何時かは理不尽な目に会うんだから」


「円ちゃん、それはそれで酷いと……あら?あそこからバックヤードに入れるのかしら?」


「お?この規模の商業施設なら、冷凍倉庫なんかも充実してるんじゃないか?

最後にあそこだけ見ていこうか?」


「そうだな、学園長、良いですか?」


俺は朝日にそう答えると、学園長の方に視線を向けて問いかける。


「ええ、どうせなら仮の宿としてここに泊まっていっても良いですよ?」


「いや、そこまで……物資を集めておくだけでもしておくべきか?」


学園長の返答に俺は朝日やネイサン達にどうするか問いかけながら、バックヤードに向かうのだった。




「あそこが冷凍倉庫だな、向こうに有るのは商品の一時保管用の倉庫か?」


俺はそう言って、施設の大体の位置を拾ったノートに書き込んでいく。


「服なんかがメインみたいだけど、スポーツ用品や雑貨なんかも結構あるな?」


「ダメだダメ、生鮮食品は全滅だったわ」


朝日は周辺に散らばっているダンボール箱の中を見て言い、弘志は少し離れた所に有った、キャベツと書かれた箱の辺りを調べて戻ってくる。


「ちょっと、ちょっと!

こっちのペットボトルのは全部大丈夫みたいよ!

持って帰りましょうよ!」


エルケはそう言って、ポカリの箱を嬉しそうに抱えてくる。

食料品売り場を出る時に、飲料水売り場が有ったので水分補給にそれぞれ好き勝手に選んで飲んだのだが、エルケはスポーツ飲料にハマったらしい。


「スポーツ飲料か……腐りにくいし水分補給と同時にカロリー接種出来るから持って帰りたいが、水物は重いしかさばるんだよな……」


俺が微妙な顔をしていると、ネイサンが別の箱を抱えてくる。


「朝日、これお前が言ってたやつか?向こうにいっぱい有ったぜ?」


「お!それは確保だ、皆で持てるだけ持ってくぞ?」


ネイサンが持ってきたのはカロリーメイトの箱だった、その側に似たような箱が有るとネイサンが言うので、何種類かの栄養補助食品が有るようだ、朝日と弘志が嬉しそうにそちらに向かう。


「はぁ……2人とも子供ね?」


「まったくだよね~」


「ポカリ……」


桐澤さんと百合ちゃんは朝日と弘志を子供だと言うなら、両手に抱えたポッキーやらのお菓子をどうにかした方が良いと思うぞ?


あとエルケ、ポカリは諦めろ。


朝日達に追いつくと、円と梨花も到着しており、栄養補助食品を箱ごとリュックや背負い袋に入れていた。


このリュックや背負い袋、魔法の袋になっていて、ダンボール箱で10~15箱位入るようになっていた。


ただし入るだけで時間と重さは変わらないために、長時間入れていれば劣化したり腐るし、ポカリ等の水物は重くて入れすぎると背負えなくなる微妙な物だった。


ただ今回の様に栄養補助食品だと、軽いしかさばらないので、見つけたら積極的に回収していたのだ。




「あれ?香織姉は?」


「ああ、香織姉なら向こうで学園長達と、トラックを調べてたわよ?」


「車付けの方に居るのか……皆、大体回収したか?

よし、香織姉達と合流して、ここに今夜は泊まるか喫茶店に帰るか決めようぜ?」


俺がそう言って確認すると、皆は頷きリュックや背負い袋を背負い直し、トラックが停まっている場所に向かうのだった。

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