9日目・海岸地区


拠点となる寮を手に入れた俺達は、早速公園の仮拠点に居る面々に連絡を取り、その日の内にほぼ全員が寮に移動してきた。


ヒロさん達などの実力の高い教師と一部の生徒は残り、偵察や探索に出ていた者達が帰るのを待ったが、それも3日ほどで全員が戻ったのでこちらに移動してきた。


そして今はと言うと―――


「大分人が集まったな?」


「ええ、でも人数が増えたら増えたで問題も出てきましたが……」


ヒロさんが周りを見回して言う、それに対して俺は困って答える。


拠点となる寮を手入れ1週間、公園に居た者以外にも、信用できる者達を集めた俺達の集団は350人以上になっていた。


そして人数が増えることによる最大の問題点が―――


「ヒロ先生、星司、第5倉庫の食料が無くなりそうよ?」


これだった。




円に連れられ、俺とヒロさんに朝日とネイサン等、主だった面子が第5倉庫の前に集まる。


倉庫の前にはすでに、うちの高校の校長に教師達、クミさん達賢者の学園の教師も居た。


「計算だと後3日は持つはずだったんですが……」


「一昨日に50人は増えたからな、このペースだと全部無くなるのに2週間ほどじゃないか?」


「……食料倉庫は第1から第10まで、他は武器防具に雑貨なんかの生活必需品が入ってる倉庫が第11から第30まででしたよね?」


「ああ、そっちの減りも結構早いらしい、どうしても消耗品がな……」


教師達はこのペースで人数が増えた時の物資の減りを話し合っているようだ、そこに俺達が着くと教師達も気がつき倉庫を開けて中を見せてくれる。


2、3日前まで大量食料が入っていた倉庫内は、見事にすっからかんになっていた。


「やっぱり人数が増えすぎですよ……俺達生徒に先生達を合わせて350人位で、ドライトポリスが150人。

合わせると500人分ですからね……」


そう、ドライトポリスは150人も居て、しっかりと飯を食って糞をしているのだった!


最初、俺達はドライトポリスの飯は要らないと考えていたのだが、飯の時間にしっかりと席に着いて飯をくれと言ってきたのだ!


そこで俺が「いや、お前ら飯を食わなくってっも、平気だったろ?」っと言うと。


「私達だってご飯が食べたいです!」


「なんで私達は食べちゃダメなんですか!?」


「ご飯をくれないなら警備もしません!ストライキです!」


そう言われてしまったのだ。


この分身体共、結構食うので追い出そうと思ったのだが、警備や門の防衛に役立つんじゃないかとヒロさんが言ったのでお試しで置く事にしたが、実際こいつ等は役に立った。


150人を3班に分けた50人体制で、1日目に門の防衛と拠点内の警備をして、2日目は詰所に詰めて訓練をしながら非常時の即応部隊として待機し、3日目に休息を取って、次の日はまた防衛と警備に立つというローテーションなのだが、門の防衛については鉄壁だった。


しかし拠点内の警備については流石に人数が足りないという事で、城ノ内高校と賢者の学園の生徒が手伝っていたが、それでも守りはかなり固くなった。


何にしろドライトポリスはかなり役に立つと言う事で、3日目には拠点に居てもらう事が決まったのだが、拠点の安全性が高いとの事で最初は参加しなかった他の生徒や教師も合流したために、人数が一気に増えたのだ。




「校長、やっぱり生徒達にも食料やその他の物資集めに行ってもらうしか……」


賢者の学園の教師の1人がそう言うが、校長は難色を示す。


「それは生徒を危険にさらします、あなた方の世界を否定するわけではないですが、子供達を危険にさらすのは私としては許可できません!」


賢者の学園の面々だけでなく、俺達も困った様に校長を見る。

困った事に校長は本心からそう言っている、しかもその後に自分が生徒の代わりに探索に出ると言い始めたの皆で止めるのに苦労した。


「校長、やはり探索に出ないとこのままじゃ干上がってしまいますよ……」


「俺達を苦しめたり危険な目に会わせたくないという想いは本当にありがたいですが、このままではもっと苦しくなります、探索に出させてください!」


ヒロさんと朝日がそう言うと、校長は悩むが仕方がなさそうに全員に向かって言う。


「仕方がありません、探索に出ましょう。

ただしある程度のレベルになってる者だけです、それ以外の生徒はここで訓練と警備をしてもらいます」


「ヒロさんにメンバー分けしてもらえば良いですか?」


「そうですね、それが1番間違いがないでしょう。

ヒロ先生、申し訳ありませんが頼めますか?」


「任せてください!

おい、灰谷、10人位のパーティーを5~10編成するぞ!」


校長に言われたヒロさんは俺に向かってそう言ってくる。


「ヒロさん、人数が多すぎませんか?5人位にすればパーティーの数も増えて、良いんでわ?」


「普通ならそれで良いんだろうが、町には天使族と竜人族が彷徨いてるからな、人数が多い方が安全度が高いだろ?」


「なるほど……」


今回の目的はあくまでも物資の調達と、町の探索を進めることなのだ。

ならば敵を倒す事よりも物資を持ち帰る、情報を持ち帰る事が大切なのだ、だから人数を増やして安全にマージンを取ったのだろう。




「それで何時もの面子になったのか……」


「弘志、うるさいぞ?」


「けどよ、こうメンバーが代わり映えしないとなぁ」


ヒロさんによって分けられたパーティー編成は、俺に朝日、桐澤さん、弘志、百合ちゃん、円、梨花、香織姉にネイサン、エルケにケイティという、何時もの面子だった。


「そんなに言うなら2つに別けるか?」


「お、マジでか?言ってみるもんだな!」


「じゃあ、俺達のパーティーと弘志1人のパーティーって編成で」


「それは別けるって言わないだろ!?[ゴス!]いて!?」


俺の言葉に弘志が叫ぶ、そしてその直後に百合ちゃんに殴られる。


「弘志くん本当にうるさい、ゾンビに気づかれるでしょ!」


「ご、ごめん百合。

なんか緊張しちまって……」


探索に出た俺達は人通りの少ない住宅街を歩いていた。


大通りや建物の中にはドライトゾンビに噛まれた天使や竜人達がいて、俺達は警戒して声も出さずに歩いていたのだが、そんな時に弘志がグダグダと言い始めたのだ。


「話は違うけどよ、海岸方面の大型ショッピングセンターなんて、もう荒らされてるんじゃないか?」


「ああ、それなんだが捕虜の情報で海岸方面には、天使や竜人達は近づいてないらしいんだ。

これは感染ゾンビ達もらしい」


「へ~……捕虜?」


「あんた忘れたの?寮に行った日に天使の1人をロッテンドライヤー女史が倒したじゃない、あれよあれ!」


「あ~、アムブリエルって、言ったか?あいつの事か……」


俺達が拠点の寮にたどり着いた日に色々あって、アムブリエルという天使の幹部が捕虜になっていたのだ!


「でもさ、あの天使の話を鵜呑みにして平気なの?ハナエルさんが尋問したら裏切り者!ってわめいただけなんでしょ?」


円が心配そうに言うが、俺は安心しろと言って理由を説明する。


「それならロッテンドライヤー女史が尋問したら、即全部喋ったんだよ?」


「女史が部屋に入った途端に、ペラペラ喋ってたな……」


「何にしろそう言うことだから、海岸地区は安全らしいぞ?」


「問題はそこに着くまでかもね?」


エルケの言葉を最後に俺達はまた喋るのを止め、警戒しながら海岸地区に向かって歩くのだった。




「……本当に人の気配が無いな?」


「ああ、それに回りの店舗を見てみろよ、何処も荒らされた様子がないぞ?」


周囲を警戒しながら朝日がそう言ってくる、俺も周りの店を見回して感じた違和感を皆に伝える。


すると円が気味悪そうにしながら、俺のすぐ側まで来て言う。


「なんか逆に不気味ね?

……ねぇ星司、なんで天使達も竜人達もここに近づかなかったの?」


「それは……何でだっけ?」


俺も不思議に思い、回りの仲間に問いかけながら顔を見回すが、皆もあれ?っといった顔をしている。


その顔を俺は見ながら何かを思い出し始める、それは思い出したくないし、なるべくなら会いたくない相手の事だったが俺は1週間前の事を思い出してしまうのだった。




「次は港の方を探してみる?」



「そうですね……そうしてみましょう!

あ、皆さん、私達はユノガンド様達の捜索に向かいますので、ここでお別れです」




「ここにはあのアホが居た!

総員退却!逃げるぞ!?」


コンビニでのドライトの妻の1人、シリカとドライトの話し合いを思い出した俺はそう叫び、全力疾走で逃げ出した。


「クッソー、1週間も前の事だから忘れてた!」


「あの天使、この事を知ってて黙ってたな!?」


「善君、今は全力で逃げることに集中しなきゃ!」


「ってかユノガンド様達も居るんだろ!?

だから竜人達も近づかなかったんだろ!?」


「ネイサン!囮になってよ、リーダーでしょ!?」


「エルケが今良いこと言った!

ネイサン、恋人を助けるチャンスよ!?」


「エルケ!?ケイティまで酷いだろ!

と言うか今のリーダーは星司だ!」


「ま、待って皆!そんなに早く走れない……あら?あの人は誰かしら?お店の中から手を振ってるわ?」


「本当だ?……手招きしてないかな、あれ?」


全力で駆けてる俺達、するとなんとか食らいついていた香織姉がそんな事を言う、香織姉を心配して香織姉と同じペースで走っていた百合ちゃんも、その人物を見てそう言ってくる。


ちなみに梨花はすでにゼーゼー言って声も出せなくなっている、何にしろ香織姉達の指差す方を見ると、白銀の髪の毛の西洋美女と日本人美人が喫茶店の中から手を振っていた。


そしてそれは百合ちゃんの言う通りに手招きにも見えた、だが俺達は銀色の悪魔から逃げている途中だったので、無視して逃げようとしたがエルケが驚き叫んで、ケイティが皆を止める。


「が、学園長にマサミ先生!?

ずっと行方不明だったけどこんな所に居たのね!」


「皆、待って!あれは私達の学園の学園長に副学園長なの!

捕まってるのなら助けなきゃ!」


ケイティもそう言って店の方に向かう、それを見たネイサンも店に向かう。


「ッチ!……共同戦線を張ってるし、ネイサン達は大切な仲間だ!

皆、ネイサン達を追いかけるぞ!?」


「「おう!」」「「了解!」」


朝日の掛け声に、俺と弘志、円に桐澤さんが反応し、他の皆もエルケ達を追いかける。


「しかし、うちの校長も好かれているが、お前らの学園長も好かれているんだな?」


「当然よ!大賢者の称号を持ってて、ユノガンドで最高峰の学園の学園長を務めるし、生徒達にも親身になってくれる最高の先生だもの!」


駆けながら自慢げにそう言うケイティの話を聞きながら、喫茶店に突入するネイサンとエルケを見つめ、俺も金属バットを得物に店内に突入しようとした時だった、ケイティが不吉な事を言ったのわ。




「まぁ、2人とも熱烈なドライト様の信奉者なのが、玉にきずなんだけどね!」

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