8日目・拠点


俺達は拠点となる寮の前で天使族と竜人族の戦いを見守っていた、天使族はウェルキエルを含めて11人、竜人族はファレグを含めて7人で、天使族はウェルキエルが木の角材を持っていたが、優勢なのは竜人族だった。


ウェルキエルの持っていた角材は早々にファレグに叩き折られてしまい、ウェルキエルは他の天使2人とファレグと戦っていたが、すでに天使の1人が殴り倒されていた。


竜人6人と戦っている天使8人も、今は拮抗しているが徐々に押され始めているようだった。


「あ、あの竜人強いな……」


弘志がそう言うとエルケが教えてくれる。


「竜人族はドライト様の眷族よ、それにあれはファレグ様って言う序列3位の幹部なのよ」


「竜人族は単純な戦闘能力だけなら天使族よりも強いって話だったが、ここまでとは……」


ネイサンがそう言って驚愕していると、百合ちゃんが話しかけてきた。


「星司くん、どっちも結構疲弊してきたと思うけど、そろそろしかける?」


「ああ、もう何人か倒れたら……待て、誰か来たぞ!?」


そう言って俺は隠れるように身振りで伝えると、皆は一斉に草むらや木の影に身を潜める。




「ファレグ、周りの偵察は終わった……あら?ウェルキエルじゃないの?

どうしたのよ、息があがってるわよ?」


「オフィエルか!」


それは竜人族の女性だった、その背後には10人ほどの竜人族が居る。

そのオフィエルと呼ばれた、竜人族の女性は殴り合いをしていた双方を見てファレグに向かって言う。


「ファレグ、あんた何してるの?」


「へ!オクが言ってただろ?

出来るだけライバルを減らせってな!」


「ファレグ……あんた本当にバカね?」


「あ?なんだよ、アラトロンも賛成してただろ?」


「はぁ……なるべく損害を少なくって言われたでしょ?なんで私達を待たないのよ?

……と言う事でウェルキエル、悪いけど殺らせてもらうわ?」


「………………殺れるものなら殺ってみな?」


竜人族の援軍が現れたにもかかわらず、ウェルキエルには余裕が有った。

ファレグは気がついていないようだが、オフィエルは不審そうに聞く。


「これからボコボコにされるのに、ずいぶん余裕が有るわね?」


するとウェルキエルは不敵に笑いながら言い放った。


「正直、ファレグのアホだけでも良いかと思ったんだよ?

だけどな?アスモデルが名指しで危険視していたお前まで釣れるとは、思わなくてな?」


「何を言って……!」


ウェルキエルの言っている意味が判らずに、聞き返そうとしたオフィエルは何かを感じたのか周辺を警戒する、すると周りから次々と天使族が現れる!


「アムブリエルにムリエル、アドナキエルと……バキエルも!」


なんと天使族は100人近く現れる!

さらに幹部も新たに4人も現れたようで、オフィエルは大分焦っているようだ。


「オフィエル、まさかお前がかるとは思わなかったぞ?」


「ウェルキエルも言ってたけど、アスモデルは知性派のオクとあなたを警戒してたのよ、こんな罠に引っ掛かるとは思わなかったけど、チャンスだから討たせてもらうわね?」




どうやらウェルキエルが1人で居たのは天使達の罠だったようだ。


ファレグは獰猛に唸っているがオフィエルはジリジリと下がっている、そんなオフィエルにバキエルと呼ばれた15、6歳位の歳にみえる女の子が話しかける。


「オフィエル、私とあなたの仲だから……楽に死なせてあげる!」


「バキエル、あんたこの間のおやつをがめたの、まだ恨んでるでの!?」


「当たり前でしょうが!カステラ一本丸ごとパクりやがって!」


どうやら私怨も含まれていたようだが、竜人達がピンチなのには違いはなかった。


何にしろ俺達は圧倒的な数の天使族が現れたため、飛び出すこともなく様子見を決め込む事にした。


そして竜人達は門の前で囲まれてしまい、天使達がいよいよ殴りかかろうとした時だった、門が突然開いたのだ!


「人の家の前でうるさいざますわよ!

新技の的になりたいざますか!?」


謎の淑女が現れる!


それを見たオフィエルは天使達を指差しながら、謎の淑女に向かって叫ぶのだった!


「ロッテンドライヤー女史!あいつ等が門の前で騒いでました!

私達はそれを注意していたのです!」


「「「な!?」」」


オフィエルの言葉に天使達は言葉を失う、だがアムブリエルが即正気に戻り、謎の淑女、ロッテンドライヤーに言い訳をし始める。


「ま、待ってください!

私達は竜人との戦いを有利にするために罠を張っていただけなのです!」


だがロッテンドライヤーは目を細目て、口元をオリハルコン製の扇子で隠しながら指摘する。


「角材で門を殴り付ける音が聞こえたざますが……その手に有るのはなんざますか?」


そう、ウェルキエルは折れた角材の一部をまだ持っていたのだ!


「………………逃げ[ドス!]ぐえ!?」


アムブリエルが逃げろっと命令しようとした瞬間に、ロッテンドライヤーは扇子を閉じて投げつけた。

扇子は凄まじい勢いでアムブリエルの腹に突き刺さり、アムブリエルは悶絶している。


「全員お仕置き……待つざます!

指揮官を捨てて逃げるとは何事ざますか!?それに新たな淑女の技、鉄鎖術の力を……待つざますわ!」


天使族はアムブリエルを見捨てて散り散りに逃げ出す、ロッテンドライヤーはエプロンドレスの両の袖から鎖を垂らすと、振り回しながら天使達を追いかけていく。




「た、助かった……」


「流石はオフィエル様です、ピンチを機転で回避しましたな!」


「そう言えば門も開いてますし、中を調べますか?」


竜人達は口々に助かったと言いオフィエルを誉めていたが、寮や城を調べるかと1人の竜人が質問する。


「ああ、調べて「撤退するわよ」んあ?」


ファレグが調べようと門に向かうが、オフィエルは撤退すると言い来た方向に向かう。


「なんだよ?ここは拠点に良さそうだろ?オクが出来たら調べろって言ってたし、調べないのか?」


ファレグはそう言うが、オフィエルは寮や城の方を嫌そうに見て言う。


「バカね、ロッテンドライヤー女史は“中”から出てきたのよ?

つまりここは彼女の領域、そんな所にノコノコと入って行って無事で済むと思ってるの?

第一、彼が侵入を許さないと思うわよ?」


そう言ってオフィエルは門の方を指差す、そこには門の影から様子をうかがうドライトポリスが居た。


「な!?い、居たのかよ!」


「彼の警棒は柔らかいって情報だけど、それも今はどうか分からないわね……そうだ!

ドライトポリスさん!どら焼をあげますから、こっちに来ませんか!?」


「「「どら焼!!」」」


オフィエルの呼びかけにドライトポリスが“ゾロゾロ”と現れる、どうやら隠れていたようでその数は100人以上居た。


「ください、ください!」


「私も欲しいです!」


「公平に1人一個にするべきです!」


ドライトポリスはワラワラとオフィエルまとわりつく。


「こ、こんなに居たんですね……

順番にあげますから、質問に答えてくださいませんか?」


オフィエルは背負い袋からどら焼を取り出すと、ドライトポリスに順番に渡していく。


「美味しそうです!

それで聞きたいことってなんですか?」


どうやら門から様子をうかがっていた個体が指揮官のようで、他とは違う階級章を着けていた。


そしてどら焼を全員が貰うと、その個体聞きたい事は何かとオフィエルに聞いてくる。




「はい、ここの施設は一体何なのですか?

それに何故、ドライトポリスとロッテンドライヤー女史が居るのですか?」


オフィエルがそう聞くと、ドライトポリスは困った様にどら焼とオフィエルを見比べてから、説明し始める。


「ここは灰谷さん達、人間用のセーフティーゾーンなのですよ……

私達はここを守るために配置されているのです。

ロッテンドライヤー女史は灰谷さん達の味方をするようですね、ちょっと前に来て城を造ったり壁を強化して、灰谷さん達が来るのを待っていたのです!」


ドライトポリスの説明を聞いたファレグが、ドライトポリスにズルいっと噛みつく。


「それは人間達が優遇され過ぎてませんか?

ズルいですよ!」


ズルいと言われたドライトポリスは困った顔でファレグに言う。


「それを私に言われましても……そう言えば竜人族さんや天使族さん達にも、セーフティゾーンを守るドライトポリスが居るそうです。

何が条件でガードを始めるかまでは聞いてませんが……」


「本当ですか!?」


「ええ、それとここの寮が最初から与えられるのと、ロッテンドライヤー女史が灰谷さん達の味方をしているのは、人間達が1番弱くて人数が少ないからじゃないですかね?」


「なるほど……ちなみに私達が門の中に入ってたら、どうなりますか?」


「このアダマンタイト製の警棒でボコボコになります!」


そう言ってドライトポリスは一斉に警棒を取り出す、それを見て竜人達は真っ青になるのだった!




「行ったな?」


「ええ、それでどうするの?」


オフィエル達は真っ青になると、ジリジリとドライトポリスから離れてから一目散に逃げ出した。


その後ドライトポリス達は門の前で警備に立ち、周囲を警戒し始めるのだった。


「とりあえず門の前まで行って話しかけてみよう」


俺はそう言うと万が一の時は朝日達に逃げるように言い、ネイサンとケイティに梨花と香織姉に着いてくるように頼み、門の方に向かう。


「む!?どなたですか!」


少し近づいたところで、ドライトポリスは俺達に気がつき武器を向けて警戒してくる。


「……ちょっと聞きたいんだが、この施設は何なんだ?」


そう言いながら俺達が姿を見せると、ドライトポリス達は警戒を解きニコニコと笑いながら門を開けてくれる。


「ここはセーフティゾーンです!

灰谷さん達、人間用ですよ、存分に使ってください!」


そう言って中に入るように手招く、俺達は誘われるままに門を潜り中に入るとそこには、高く頑丈な壁に囲まれた5階建ての建物が3棟有るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る