ドライト・オブ・ザ・デッド
一斉に駆け出した俺達だが、同時に一斉に転げる、俺も転びかけながら違和感を感じた足元に視線を向けると……ドライトがしがみついていた。
片足に一体づつドライトがしがみついている、よく見ると他の生徒達や教師の足にもしがみついていた。
「ち、ちくしょう!逃がさないつもりか!?」
「なんで、逃げるんですか?私はただ、バトルロワイヤルは名作ですよね?っと言いたかっただけですよ?」
「ほ、本当にそれが言いたいだけか?」
「ええ、それでですね?バトルロワイヤルはその後の映画に影響を与えたと思うんですよ?
仲間内や知り合いで殺しあう……そう、ハンガーゲームやリアル鬼ごっこなんかがそうですね?」
こいつ一体何が言いたいんだ?
俺はそう思い、朝日や梨花と視線を交わすが2人も首を傾げるだけだった。
「で、ですね?私はバトルロワイヤルも好きですが……それよりもゾンビやオブ・ザ・デッド系の方が好きなんですよ!
と言う訳で、ドライト・オブ・ザ・デッード!」
「皆!逃げ……は、離せ駄龍!」
皆に声をかけて逃げ出そうとしたが、俺の足にはまだドライトの分身体がしがみついていた。
周りでも不穏な空気を感じて、皆は逃げ出そうとしていたが、やはりドライトの分身体にしがみつかれていて逃げられないようだった。
そしてドライトが校門の方を指差し叫ぶ!
「あ!あれは……ゾンビです!ゾンビが校内に入り込みましたよ!?」
ドライトの言葉に釣られてそちらを見ると……青白い顔をしたドライトの分身体が、ヨタヨタと歩いていた。
……超低予算のゾンビ映画に出てくるようなゾンビだな、顔色はゾンビらしく青白いが体は健康そのもので、肩等に少しだけ血糊……ありゃケチャップだな、ケチャップが着いている。
俺はそれを呆れて見ていたが、横からバカにするように鼻を鳴らして、メルクルナ様が前に出てくる。
「はん!何よ、ゾンビって言うからどんだけ恐ろしいかと思ったら、ただの青白い顔をしたドライトさんじゃないの!
全然怖くないわ!?ホレホレ、噛んでみろ~?」
メルクルナはドライトゾンビをバカにして、口の辺りに腕を差し出す……すると。
[ガブ!]
今までヨタヨタ動いていたドライトゾンビが、急に素早く動いてメルクルナに噛みついた!
「ギャアァァァ……あれ?全然痛くも痒く……」
マルっと油断していたメルクルナはアッサリと噛まれる、そして悲鳴を上げるが痛くはなかったようだった。
噛まれた腕には薄っすらと噛み跡があるが、血は出ておらず怪我などしていないようだが、メルクルナは言葉を途中で止め固まる……
「ちょっとメルクルナ、大丈夫なの?」
そこに新たにマイクロバスから降りてきたエルナルナが、固まったメルクルナを心配して声をかけると。
「痒い」
「へ?」
「痒い!メチャクチャ痒い!なにこれ!?」
メルクルナは痒い痒い!っと、転げ回る。
それを眺めながらドライトが解説する。
「ドライトゾンビに噛まれても痛くありませんし、怪我もしません。
その代わりに……恐ろしく痒くなります!
それが例え神であっても!
あ、強さは普通のゾンビと同じに設定してありますから、安心して下さい?」
なんつー下らないゾンビだ……まぁ、普通の人間並の戦闘力しかないらしいから、皆で押さえ込んで……っと考えていた時だった!
「そ、そんな!ゾンビがこんな所にも現れるなんて!?」
「こんな所には居られません!アンジェ姉様、逃げましょう!」
「……このスーパーマッスィーンで……逃げる!」
そう言ってドライトの妹達にアンジュラは、ゴーカートに乗って学校の外に走っていってしまった。
周りの皆は何が起きてるのかついていけずに呆然としている、そこで俺は優雅にお茶を飲み始めたセレナ様に話しかける。
「セ、セレナ様!息子さんが暴走し始めてます!何とかしてください!」
だがセレナ様はチラリと俺を見ると、ため息をつきながら説明し始める。
「……ごめんなさいね?
そうね、1ヶ月かしら?1ヶ月位我慢して付き合ってくれる?」
「そ、それはなんでですか?」
止めてくれると思っていたセレナがドライトを止めずに、1ヶ月付き合ってやってくれと言うので驚いて香織姉が質問すると詳しく説明し始める。
「地球は魔法文明が存在しない代わりに科学が発達してるのと、様々な文化が発達してるから珍しい世界なのよ?だから複数の原始の神が守ってるの。
なのにあなた達、邪神に拐われたでしょ?それは普通はあり得ない事なのよ?
それで今、地球の神々と父や母達、龍神が原因を調べているのよ……それが終わるまで保護って事で、地球の時間で1ヶ月位待って欲しいの」
「は、はあ、なるほど……」
俺は納得しかけたが、横から円が疑問をぶつける。
「で、でも、それとドライト様を止めないのはなんの関係が!?」
するとセレナ様は―――
「ええ、1ヶ月位はドライトが創り直したこの疑似世界で暮らしてもらうのだけど、暮らすだけじゃ暇でしょ?
そうするとステラとルチルも飽きちゃうと思うのよ……これなら娘達の暇潰しにもなるでしょ?」
あかん、マトモだと思っていたけど、セレナ様はやっぱりドライトの母親だわ!
[ブロロロ~]
そんな事を考えていると、先程出ていったゴーカートがエンジン音を響かせて帰ってきた。
「来た来た来た!」
「いっぱい来た!」
「……シリカ姉様……急いで逃げる!」
そう言って3人は裏門から出ていった。
「来たって何が……わあぁぁぁ!?」
俺達がゴーカートを見ていると、円が校門の方を見て驚愕の声を上げる。
その声に俺達も何事かと校門の方を見る、そこには―――
「あー」
「うー」
「痒いですよ!」
ドライトゾンビが大量に湧いていた!
「ト、トレインかよ!?」
「ちょ、ちょっと星司!どうするのよ!?」
「どうするもこうするも、逃げるしかないだろ!?
クッソーなんの得にもならないのに、なんでこんな事を!」
俺がそう叫ぶと「あ」っとセレナ様が何かを思い出した様に声をあげ、俺達全員に聞こえる様に言ってきた。
「息子と娘達の暇潰しに付き合ってもらうから、逃げ切った人には願いを出来る範囲で叶えてあげるわよ?
……そこのあなた、他人の心はあげられないわよ?桐澤さんは心から朝日さんを愛してるから、諦めなさい?」
セレナ様の言葉に生徒達だけでなく教師達も色めき立つ、ってか岡田はなに考えたんだ?
「じゃあ、私達も参加するから逃げさせてもらうわね?」
「シリカ姉様、アンジェ達と合流しましょう」
「うーん、合流したらどうすっかな?シリカ姉、定番通りにどっかに籠る?」
そう言ってシリカ達は1メートル程の龍の姿になると、トラックからゴーカートを降ろして裏門からアンジュラ達を追って去っていく。
「私達はどうする?」
「天使族と竜人族の幹部と暇なのが参加してるんですよね?」
「町の方に散ってるらしいよ?」
「不様な様は見せられないね……でも、メルクルナ姉は見捨てられないわ、連れていきましょう」
エルナルナ達はそう言うと、痒みで悶えているメルクルナを回収して、自分の足で走り去っていった。
「俺達はどうする?」
「8人で逃げるか?」
「一応他の人達の意見を聞いてみる?」
「何にしろ早く決めないと、ドンドンこっちに来てますよ?」
俺の提案に弘志が8人で逃げるかと言い、桐澤さんは他に一緒に逃げる人が居ないか聞こうと言う。
だが梨花がドライトゾンビを指差し、早く決めた方が良いと言う。
そちらを見ると、ドライトゾンビ達がヨタヨタとこちらに向かって来ているのが見える。
その動きは緩慢で早くはない、だが近づくとそれなりに素早く動けるはずで、メルクルナに噛みついた時の事を思い出せば侮れないと思えた。
「あまり大人数で動いても、感づかれるみたいね?」
どうするか相談していると、ドライトが全員に話しかけてきた。
「皆さんにお伝えし忘れていたことが有りました、自分のポケットを見てください、スマホが入ってますか?
そこには大体の生存者の情報や町の地図、仲間内で話し合えるラインなんかが設定してあります。
それを活用して逃げ延びて下さい!あとこれも渡しておきます!」
そうドライトが言うと、先程まで足にしがみついていたドライト軍団が、リュックサックを持ってやって来て、1人に1つづつ渡していく。
「鞄の中には携帯食料や飲み物が1週間分に、町の地図にランダムで何かしらのアイテムを2、3個入れておきました。
これも上手く活用して下さい、それではドライト・オブ・ザ・デッド、スタートです![ガブ!]……へ?」
ドライトがスタートと言った瞬間に、ドライトはドライトゾンビに尻尾を噛まれる。
そのドライトゾンビはメルクルナに噛みついた個体で、メルクルナに噛みついた後はドライトの周りをウロウロしていた、今まではこの個体が何をしたいのか分からなかったが、これを狙っていたのだろう……
「……痒!なんですかこれ!?自分で造った薬ですけど、ドン引きの痒さです!」
ドライトはドライトゾンビに噛まれたことで全身が痒くなり、あまりの痒さに転げ回る。
「主催者がいきなりやられた!?」
「に、逃げるぞ!」
「とにかく私達は私達で固まって行動しよ!」
円が叫ぶように言い、俺達は朝日に桐澤さん、弘志と百合ちゃん、俺に円に梨花、香織姉の9人で逃げ出したのだった!
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