最深部で待ち構えていた者


深緑のダンジョンの最深部で9人の謎の美女達が、お茶をしたり沸いて出るミスリルゴーレムを粉砕したりして、冒険者達を待ち構えていた。


「来たみたいね?」


「……なんか多くない?」


「他の方達と一緒みたいですわ」


「それにしても早かったわね」


「皆で協力してきたんだろ、ってか入ってこねえな?」


「緊張してるんじゃないの?」


「初めてのダンジョン走破だしね!」


「……セイネ……ちゃんと中の様子調べてる……誉めてあげないとだ」


「ここのボスのドロップ品で禿げ薬に役立つ物は無いわね!」


……謎の美女達が待ち構えるのだった!




セイネ達が開けたドアに先ずはナタリー達、壁役が殺到して中に入り込む。


斥候達が罠やドアの直ぐ向こう側に敵は居ないと確認してても危険な役目だ、だがナタリー達は恐れることなくドアの向こうに突貫する。


続いてキャロリンやレイナ達、剣士や槍使いが続く、ナタリー達壁役が押さえているモンスターを牽制するために。


そして続いてリティア達魔法使い達が詠唱しながら続いて行く、モンスターに強力な魔法を叩き込むために。


その周りはアレナム達回復役とセイネ達斥候達が固めて、揃ってなかに入る、これは多人数でボスモンスターや災害急のモンスターを討伐するために考えられた万全の布陣だった。


そして最深部のボス部屋に入り込んだ冒険者達が見たものわ!


「あはははは!もっと気合いを入れろ!」


「フンフンフ~ン♪」


ミスリルゴーレムにドッカンドッカン殴られるカーネリアと、その隣で鼻歌を歌いながら舞うように剣を振って、ミスリルゴーレムを細切れにするマリルルナだった。


「早かったわね?

他の冒険者達と協力したのかしら?

でも、それも戦略の1つだから問題ないわ」


呆然とカーネリアとマリルルナを見ていたキャロリン達と冒険者達だったが、突然横から声をかけられた、慌ててそちらを見るとシリカ達とエルナルナ達が優雅にお茶を楽しんでいた。


「シ、シリカ様にエルナルナ様、それに皆様もここで何を?」


キャロリンが驚きながら聞くと、シリカは戸惑いながら聞き返す。


「あら?そちらの方に伝言を頼んだのだけど、伝えてくれなかったのかしら?」


そう言ってシリカはセリオを指差す、そして指差されたセリオだけでなくキャロリン達と宿星の絆にアッシャーが「あ!」っと思い出した。


「さ、最深部って本当に最深部だったんですか!?」


「手前の待機部屋に居ると思ってました」


「ああ、俺達もだ、居なかったからまだ来てないのか帰ったのかと……」


キャロリン、ナタリー、アッシャーがそう言うと、シリカは心外そうに言う。


「ここが最深部でしょ?

それに待機部屋はホコリが多くて嫌なのよ」


そう言うシリカを唖然と眺める冒険者達だったが、オズオズとアレナムが前に出て質問する。


「そ、それはそれとして、リア様とマリルルナ様はいったい何を?」


「ああ、暇だったからリアはミスリルゴーレムを鍛えるとか言い出してね?

まあ、見ての通り殴ってるミスリルゴーレムの方が耐えられなくなってるんだけどね」


「マリルルナはどれだけ薄く切れるかに挑戦してたんだけど、今は飽きて舞いながら優雅に切るに挑戦してるわ」


シリカとエルナルナの言葉に慌ててミスリルゴーレムを見直すと、カーネリアを殴っているミスリルゴーレムの手は砕けていた。


そしてマリルルナは優雅に剣舞を舞っている様にしか見えないが、剣が振るわれる度にミスリルゴーレムの何処かしらが細切れになっている。


そしてそれをユッタリと見るシリカ達とエルナルナ達、冒険者達は驚きに身を固めてその光景を見ていたが、1人の冒険者が意を決して前に出てメルクルナに声をかけるのだった。




「博愛の女神メルクルナ様、お願いがございます!」


「……私の古い名を知ってるのですね……内容次第では聞いてあげます、おっしゃいなさい」


メルクルナに話しかけたのはセリオの妻、チェレステだった。


慌ててセリオは止めようとするが、メルクルナが願いを言いなさいと言うのでオロオロと成り行きを見守っている。


「メルクルナ様……どうか、どうかフェルデーモンに凍らされた人々をお助けください!」


その言葉に冒険者達は驚き、メルクルナは悲しそうにうつむく。


「メルクルナ、私が話してあげましょうか?」


「メリルルナ姉、これは私の責任で言わないといけない事だから……逃げてきた私の責任なのだから……!」


そう言うとメルクルナは立上がり、12枚の翼を出すと、完全に主神モードになって冒険者達の前に出る。


そして悲しそうに言う―――


「あなたの願いを受け入れましょう……」


「メルクルナ様!」


「やった!これエマの姉御も助かる!」


悲しそうなメルクルナに、最初は断られるかと思ったが、願いを受け入れると言われ冒険者達は歓声を上げる、だがメルクルナは沈痛な表情で続けた。


「あなた方の功績などを考えると10人の方を助けられます。

誰を助けるのか選びなさい……」


「「「……へ?」」」


冒険者達もキャロリン達も固まる、だがメルクルナは同じ言葉を続けた。


「あなた方の功績を考えた上での決定です、10人を選ぶのです」


「……な……そんな話ないです!」


「そ、そうです!何故ですか!何故10人だけなんですか!?」


あまりの話にキャロリンとレイナ食って掛かる、さらにリティアが前に出てメルクルナに食って掛かる。


「メルクルナ様!功績等を考慮するなんて聞いたことがありませんわ!

それに魔人は龍や神の敵なはずです、なのに助けるのに人数制限があるなんて納得できませんわ!」


リティアに責められるメルクルナはうつむいたまま、何も言わずにいる、それを見てさらに詰め寄ろうとしたリティアの目の前にチエナルナが現れて睨み付けてきた。


「あなたね、サルファさんの祝福持ちだからって生意気よ?

それ以上メルクルナ姉様をバカにするなら……滅するわ?」


チエナルナの目と雰囲気から本気だと感じたリティアは「ヒィ!」っと小さく悲鳴を上げると後ろに下がる。


「チエナルナさん、リティアの非礼は許してあげてくださいな……

リティア、私から説明してあげますわ。

何故メルクルナさんが全員を助けないのかを……」




「フェルデーモンは……魔人じゃない!?」


サルファの説明にリティアは驚き叫んだ、他の冒険者達も呆然としている。


「ええ、フェルデーモンはあなた達の考えでは魔人と考えられてますが、神々や龍達のなかでは自然災害、普通のモンスターと同じ範疇にあるのですわ……」


「邪神や魔神によって産み出された魔人は龍の産卵地や、神々の神域を狙うけどフェルデーモンは狙わないわ、ただ人々の魂なんかは餌になるから人里を襲うけどね」


サルファに続きチエナルナが説明してくれた、落ち着かせるためにメルクルナが後ろから抱きしめているのでご満悦だ。


「本来はここだってギリギリセーフなんだけどね……」


「エルナルナ様、ここはギリギリ大丈夫ってどういうことですか?」


ポツリと言ったエルナルナの言葉をセイネは聞き逃さず、質問した。


「不思議に思わない?

学園都市や近くの都市に町や村からそんなに離れてなくって、40層からは必ず焔のカケラが、最深部からは焔の結晶が。

フェルデーモンの被害の多かった地域の直ぐそばに、こんな都合の良いダンジョンが有るなんて……ねぇ、不思議に思わない?」


エルナルナの言葉にキャロリン達も冒険者達もハッとしてメルクルナに視線を向ける、メルクルナはチエナルナに抱きつくと言うよりも背後に隠れるようになりながらつぶやいていた。


「ごめんなさい、こんなことしか出来なくってごめんなさい……」


そのつぶやきを後ろから聞きながらチエナルナが言う。


「ここだって、ギリギリなのよ?

原始の神々のなかにはアウトだって言う者も居ると思うわ」


「メルクルナだからユノガンド様も他の原始の神々も何も言わないの、本来なら注意されてるわよ?」


「メルクルナは原始の神々や龍神様方のお気に入りだからなぁ」


突然の横からの声にそちらを見ると、ミスリルゴーレムを鍛えるのに飽きたカーネリアと細切れにしたマリルルナが居た。




「で、シリカの姉御もエルナルナも言わないけど、手がない訳じゃないんだぜ?」


「高レートのカケになるけど……挑戦してみる?」


2人はニヤニヤ笑いながらそう言ってきたのだった。

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