焔のカケラと焔の結晶


「違うんだ……違うんだよ!」


アッシャーはひざまずき違う違うと言う、その姿に冒険者達にキャロリン達は戸惑ってしまう。


「ア、アッシャーのアニキ!違うってなにが違うんだよ!?」


たまらずセリオが叫ぶと、アッシャーは説明し出した。


「焔のカケラじゃ、ダメなんだ……ダメなんだよ……

リティアの嬢ちゃん、嬢ちゃんに見せてもらったろ?」


「わ、私が何かを見せたんですか!?」


リティアは突然自分の名前が出たので驚き問い返す。


「ドライト様のダンジョン攻略本、【ヤンバルクイナにも出来るダンジョン攻略方法】だよ」


意外な名前が出てきたので、周りで聞いていた全員が驚く。


だが、言われたリティアは慌てて自分のアイテムボックスにしまっておいた、攻略本を取り出すとアッシャーに差し出したのだ。


「こいつは貴重な原本の1つなんだってな……神器になってて、触ってる者の知りたい事を教えてくれるんだよな?」


「……あ!持ち主が認めた人と同時に持つと、より強い思いを願った方の知りたい事を教えてくれるのですわ!」


「あの時に触って見てたのは、俺にリティア嬢ちゃんに……アッシャーのアニキ!」


パトリックがそう言うと、キャロリンが思い出す。


「アッシャーさんの様子がおかしくなったのって、攻略本を観た時からじゃ……」


「「「あ!」」」


キャロリンの言葉にセイネとアレナムにレイナ、ナタリーが反応するが、リティアは攻略本を取り出して何かを必死に調べている、そして何かを見つけて必死に読むとガタガタと震えだした。


「リティア様!何を見つけたのですか!?」


「黙ってたら分からないでしょ!教えてよ!?」


ナタリーとアレナムが詰め寄ると、リティアがポツポツと喋り始めた、その内容を聞いてキャロリン達に冒険者達は呆然としてしまうのだった。




【焔のカケラ】


ダンジョンから産出される鉱石の一種で、火や炎の系の魔石の一種と考えられている。


投げつける事で敵に火属性のダメージを与えるが、火や炎の魔石より威力が弱く火傷などの特殊効果も無い。


その反面、回復などに効果を発揮して、凍傷や凍結などの特殊効果を打ち消す力が有る、しかしダンジョンの30~50より深く潜らなけれ得られる事が少ないために、価格は高く希少価値はそれなりに高い。


ここまで呼んでリティアは1度息を吐く、周りの冒険者達は何を当たり前の事を?っと考えた、何故ならばここに居るほほ全ての冒険者達はそれが目的で集まったからだ。


鉄腕と言われるPTの者達は、深緑の森のさらに奥にあるダンジョンに潜って幾つか見つけた事も有るが、効率を考えるとここが良いとなって、より稼げるダンジョンではなく数年前からわざわざここに潜っているのだ。


そんな視線を受けながらリティアが続きを読む、震える声で……


【ドライトの解説】


焔のカケラについてですが、火炎石などよりも下の物と思われてますが全然違います、何故なら焔のカケラは魂にも同時に影響を与えているからです。


例えば人間に爆裂石を投げてダメージを100与えたとします、次に焔のカケラを投げて50のダメージを与えたとして、数字だけ見ると爆裂石の方が使えると思えますが、実は焔のカケラは魂にもダメージを50与えているのです。


50+50は100なので爆裂石と同じでは?と思うかもしれませんが、魂への影響は肉体への影響とは比べ物になりません、なので焔のカケラの方がなかなか見つからないのです。


そして焔のカケラで1番利用されているのが凍結などの治療ですが、これは氷のブレスや魔法が魂にも影響して魂を凍らせているからこそ、魂に影響を与える焔のカケラが治療に使われるのです。


冒険者達に笑みがこぼれる、だがリティアがさらに続きを読むとその笑みが凍りついた。


ただし、焔のカケラでの治療は中級クラスのモンスターによる凍結までしか効果が有りません、亜神クラスのフォレストジャイアントや氷属性のフェンリルに中級以上の竜、そしてフェルデーモンなどに50%以上凍らされた者には効果が無く、凍結の進行を遅らせることは出来ますが治すことは出来ないので注意してください。


ドライトによる焔のカケラの解説を説明した後、リティアは座り込んでしまう、その表情は悲しみに満ちており言ってはならないことを言ってしまったと後悔していたようだった。




「な、治らない……?」


「け、けど、アッシャーのアニキは治ったじゃないか!」


「肉体の7割が凍ってても、魂が3割凍ってなければ50%になりません、だから治ったんですわ……」


「そんな……じゃあ、何のためにここまで来たんだよ!?」


「エマ姉さんは助からないの!?」


「ははは……ははは!」


「ア、アニキ!?」


話を聞いていたアッシャーが突然笑いだしたので、セリオ達はギョっとして見る。


「おめえら、諦めるのか?

さっき俺に言ったじゃねえか、諦めるなって。

……俺は諦めねえぞ!?

それに焔のカケラは凍結の進行を遅らせるって書いて有るそうじゃねえか、ここのボスは必ず落とすからな、とりあえず焔のカケラを持って1度学園都市に帰ってから次の手を考えるぜ!」


「け、けどエマの姉御が「バカ野郎!」ア、アニキ!?」


「エマだけが苦しんでるんじゃねぇんだ!他のやつに使って時間が稼げれば、何かしらの手が見つかって助かるかもしれねえだろが!

それに……ここで諦めたら、それこそエマに顔向けが出来ねえだろうが!」


「アニキ……」


「アッシャー……」


アッシャーの決意に全員が驚く、そして冒険者達はお互いに顔を向け会うと頷きあい闘志をみなぎらせる。


「ちょっとリティア!何かしらの手はないの!?

【ヤンバルクイナにも出来るダンジョン攻略方法】は神器なんでしょ!あなたすみずみまで読んでるんでしょ!?」


アレナムがリティアの肩をつかんで揺さぶる、だがリティアは悲しそうにうつむくだけだった、それを見たアレナムは【ヤンバルクイナにも出来るダンジョン攻略方法】を奪い取ると、叫んだ!


「教えなさいよ!フェルデーモンに凍らされた人を治す方法を教えなさいよ!」


だが攻略本に変化はない、それを見てアレナムはさらに叫ぶ。


そんなアレナムをアッシャーが止めようとした時だった!


「別のダンジョンでも凍ることが有るって聞いた!

そして治す方法もあるって、それを教えなさいよ!」


[デロデロデローン]


【質問についてお答えします。

ダンジョンのエリアでコキュートスエリアと言うのがあり、そこに現れる高位のモンスターにより凍結させられた人を治療する方法は焔の結晶を使います】


変な音とともに、攻略本の内容が変わる、それを見ていた全員が驚くと共にリティアが叫んだ。


「そういう事でしたのね!」


「な、何よいきなり!?」


驚くアレナムから攻略本を奪い取ると、リティアは叫ぶ。


「ここ、深緑のダンジョンに焔の結晶が有るのか、教えてくださいませ!」


【有ります、ただし最深部のボスが複数居る時にのみドロップします。

ちなみに焔のカケラと見た目が似ているので注意して下さい】


「答えた!」


「リティアちゃんどう言うことなの!?」


「この本はあくまでも“ダンジョンの攻略本”なのですわ、つまりダンジョンに関することなら答えてくれると言うことですわ!」


リティアの答えにアッシャーが納得して言う。


「そうか……俺はあの時に、焔のカケラの事を考えてた。

今回は出るのかと、出るのなら幾つかと……」


「この“ダンジョン”で、幾つでるとかを考えていたから攻略本は反応したのね……」


レイナがそう言うと、全員がダンジョンの攻略本をしげしげと眺めるのだった。




そんな時だった、他のPTの斥候とボス部屋のドアをしらべていたセイネが、声をかけてきたのは。


「ねえねえ、それよりさ?」


「セイネちゃんどうしたんですか?」


「今は大事な話をしてるんだから、ちょっと静かにしててよ」


アレナムに注意されたが、セイネはリティアの方を見ながら言ってくる。


「いやさ、複数のボスが居る時に焔の結晶って出るんでしょ?」


「そうですわよ?それがどうかしたのですか?」


「このドアの向こうがボス部屋なんだよね?」


「アッシャー様もパトリック様も言ってましたし……間違いないですよね?」


重厚なドアを指差し言うセイネに答え、ナタリーがベテランの冒険者達を見ながらそう言うと、冒険者達も「ああ、間違いないぞ?」や「ダンジョンが成長したならともかく、間違いなくここがボス部屋だ」っと口々に言う。


するとセイネは、ドアを調べていた他の斥候と顔を見合わせてから言った。




「中から複数の気配を感じるんだよね……」




その言葉に冒険者達は一瞬固まると、即座に武器を構えて突入体制を整えるのだった!

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