初めてのダンジョン


「なんで私はまた縛られてるんですか!?」


あれから1ヶ月経ち、アサセルム同盟の都市で起きた疫病は収まった、なのに何故か俺はまた縛られてギルドに連れてこられていた。


「ドライト様、次の指名依頼です。

平原の7号ダンジョンはご存知だと思いますが、最近急に成長したようでして。

その調査に「あそこは私が乗っ取って、学園の生徒達の訓練用に作り変えましたよ?」か、解決しました!」


デレシアの依頼を速攻で終わらせた俺は、縛られたまま依頼の貼られたボードに向かう、だが引っ張られてデレシアの前に戻されてしまう。


「な、なんですか!?もう終わったでしょう!?」


「あなた、あなたにやってもらいたい依頼は山の様に有るのよ?」


「旦那様、リティアさん達はデレシアさんに物凄くお世話になっているのです」


「だからデレシアの頼みを聞いてやってくれよな!?」


「……その間に……私達はセイネ達と……ダンジョンに潜ってる」


「な!?私だってキャロに着いていきたいんですよ!?」


「ドライト、デレシアさんの頼みを聞き終わるまでここから離れるのは許しません」


「か、母様までなんで!?」


「兄様、このお菓子美味しいんです」


「おやつによく、くれるんですよ?」


「ステラ!ルチル!」


どうやらステラとルチルは手作りお菓子で籠絡されてしまったようだった。


「それでは最初にこの件なんですが―――」


「私もダンジョンにぃー」


こうしてシリカ達とキャロリン達は、近場のダンジョンに向かうのだった。




【深緑のダンジョン】


深緑の森に有るダンジョンで、平原の7号ダンジョンが初心者向けなら、こちらは中級者向けのダンジョンだった。


「ここが深緑のダンジョンかぁ」


「アレナムちゃん、平原のダンジョンじゃなくって良かったの?」


「しょうがないじゃない、ドライト様が乗っ取って学園生の訓練用にしちゃったんだから」


「なんにしろ、サルファ様達も見てらっしゃるのです、不様な様は見せられませんわ!」


「そうですね、シリカ様達もそうですが他の冒険者にも不様な姿は見せられません、シリカ様達の祝福を持つ者として!」


「そうですね……皆、頑張ろう!」


「「「頑張ろう!」」」


キャロリン達はダンジョン内部に入り込む、深緑のダンジョンは外にも数件建物が有ったが中には10軒ほどの建物が有った。


「情報通りですね、冒険者の休憩用の宿や、装備を整えるための道具屋に鍛冶屋が有りますね」


「はぁ~商魂逞しいですわね~」


「冒険者ギルドは推奨してないんでしょ?」


「まあね?でも冒険者達はほとんど利用してるらしいわ」


「品揃えを見とく?」


「そうだね、宿はどうする?」


「このまま潜るんだから、宿はいいでしょ」


「じゃあ行きましょう」


リティアがそう言って歩いていくと……いきなりゴブリン現れた!


「わわ!?」


「この、おりゃ!」


「グェ!?」


リティアはいきなり現れたゴブリンに驚き仰け反る、そしてリティアのすぐ後ろを歩いていたキャロリンが慌てて槍で突き殺した。


「な、なんで……ってここダンジョンだったわね」


「街並になってますから忘れてましたわ……」


「これって宿の部屋とかどうなってるのよ?」


「ええっと、ドライト様のダンジョン攻略本によるとですね……結界を魔導士が構築するか、魔術陣で構築しているらしいですわ」


「それって結界が切れたら……」


「中にもモンスターが湧くとのことですわ……」


「「「……」」」




キャロリン達は宿の事は完全に忘れて道具屋に向かう、そして道具屋の中を見てさらに驚くのだった。


「て、低級回復ポーションが銀貨10枚!?」


「低級魔力回復薬なんか金貨1枚ですわ!」


「お、おじさん値段間違えてるんじゃ!?」


町の値段の10倍以上の価格にアレナムが驚きながら聞くと、道具屋の親父が答えてくる。


「ん?嬢ちゃん達、初めて来たのか?

ここはダンジョン内だからな、警備や結界の維持で金がかかるんだよ、だからこれ位するのさ」


道具屋の親父の言葉に、納得したような納得できないような思いをしながら道具屋を出る。


その後は鍛冶屋も寄ったが、やはり町の10倍以上したのですぐに外に出た。


「いやぁ……驚いたわ……ってナタリーが白目になってるんだけど!?」


「ちょ、ちょっと大丈夫なの!?」


「ふわ!?あ……す、すいませんあまりの事で固まってしまいました」


「気持ちは、分かるよ……

高いだけで粗悪品だったしね」


セイネがそう言ってナタリーにウンウン頷いている。


「もうここはスルーして下に行こうか?」


「いえ、一応全部見ておきましょう、まっとうな所が有るかもしれないし。

各階の探索はしっかりしとくようにシリカ様にも言われてますから」


キャロリンの提案はレイナの意見により却下され、他の道具屋や鍛冶屋に宿屋を見て回ったのだが、他もみな同じ価格だったので無駄足になるのだった。




「とんでもない所だね……」


「なんにしろもう良いでしょ?

早く下に行こうよ」


「そうすっか……あれ?

あれってアッシャーさんじゃない?」


「あら?本当ですわ、アッシャーさんですわよ!」


キャロリン達が見つけたのは、キャロリン達の馴染みの冒険者だった。


冒険者としてはかなり高齢な40半ばなのだが、現役の冒険者でBランクの確かな経験を持ち、人当たりのよさで兄貴と慕われている冒険者だった。


「お!嬢ちゃん達じゃないか!

嬢ちゃん達もダンジョン攻略か?」


「はい、アッシャーさんもこのダンジョンの攻略ですか?」


「まあな、ここは深緑の森の1番外側に有るダンジョンで攻略しやすいからな」


「それで、そちらの方々は……」


キャロリンがアッシャーの何時もの仲間ではなく、20歳位の若い冒険者と一緒だったので聞く。


「俺達はBランクのPT、宿星の絆さ、同じ学園都市の冒険者なら聞いたことあるだろう?」


そう言って握手を求めてきたので、キャロリンが代表して手を差し出すとその手の甲にキスをしようとして、アッシャーに殴られた。


「止めろこのバカが!この嬢ちゃん達は龍の踊り手だぞ!?」


「「「げ!ドライト様子飼いの!?」」」


宿星の絆の5人はキャロリン達のPT名を聞いて、10メートルほど逃げたのだった。




「へー!あなた達がドライト様にボコボコされた人達なんだ!」


「このチビ失礼すぎるだろ!」


セイネが失礼すぎる事を言って、アレナムに怒られている。


「いや、その通りだから何も言えないよ……ははは……」


そう言って面目なさげに笑うのは宿星の絆のリーダー、パトリックだった。


彼等は平原で、初心者の冒険者達の回りをドライトが飛んでいたのを見て、襲われてると勘違いして戦いを挑んだそうなのだ。


そしてあっという間にボコボコにされたのだが、自分に挑んでくるとは中々見所が有ると逆に気に入られて、今では色々目をかけてくれてるとの事だった。


「でも、仕方ありませんわよね?

ドライト様は見た目はベビードラゴンにしか見えませんもの」


「まあね?私達でもドライト様の事を知らなければ、そう思うだろうし」


「それでBランク皆さんがなんでこんなダンジョンに?」


中堅クラスの狩場に、若手とは言えBランクのPTで学園都市の期待の冒険者が来るのは変だと思い、レイナが質問する。


「ドライト様にボコボコにされた後、基本をもう少し見直した方が良いと言われてな、アッシャーさんを紹介されたんだ」


「それで俺達の実力的にここのダンジョンが良いと進められてな、アッシャーさんも着いてきてくれたんだ」


「彼等の実力だと、逆に邪魔かと思ったんだがな。

まぁ、将来の英雄達のPTに、短期間だけでも世話になってたと言えば、老後の自慢になるかとも思ってな」


アッシャーはそう言って笑うが、宿星の絆の面々は「そんなこと無いです!」っと真剣な目だ。


しかしキャロリン達は別の事が気にかかり、アッシャーに質問する。


「ア、アッシャーさん引退するんですか!?」


「冗談ですわよね!?」


キャロリンとリティアの言葉にアッシャーは言う。


「俺ももう45だ、体もついていかなくなってきてな……

俺1人なら暮らしていけるだけの蓄えも有るし、引退することにしたんだよ」


アッシャーはそう言って、「最後に有望な若者に何か残せれば、これ以上の幸せはないよ」っと寂しそうに言うのだった。


「そんな……な、なら私達も着いていって良いですか!?」


「え、えっと図々しいとは思いますけど、アッシャーさんには私達も色々教えてもらいたいんです!」


ナタリーとレイナの言葉にキャロリン達も「お願いします!」と、頼み込んでいる。


宿星の絆達も「そりゃ、良い!」「お嬢ちゃん達なら俺達も文句はないぞ!」と言ってくれた。


「もう1つの英雄候補に、何か残せるなら思い残すことはない……」


こうしてキャロリン達、龍の踊り手とパトリック達、宿星の絆に老冒険者のアッシャーという合同PTでダンジョンに挑む事が決まったのだった!




「ところで私達のPT名って龍の踊り手って言うんだ……」


「誰が決めたのよ?キャロちゃん身に覚えがある?」


「……ドライト様が決めました。

ごめん、言い出せなかったの!」


「嫌な名前ですわね……」


「何とか変えれないかな?」


「リア様達に相談してみる?」


キャロリン達の話が聞こえたのか、アッシャーが言ってくる。


「いや、そこまで嫌うほどじゃないだろうに?」


だがアッシャーにレイナが代表して言った。


「本当に何かを踊らされそうで嫌なんですよ……」


「……諦めろ」


アッシャーの言葉に、キャロリン達は項垂れて宿星の絆に着いていくのだった。

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