月下草を探せ!
モンスターから冒険者に転職して1ヶ月、俺は元気に薬草採集やドブ掃除をしていたのだが、早朝にシリカ達に捕まると冒険者ギルドに連れてこられていた。
「何で私が縛られてるんですか!悪いことはしてませんよ!?」
「あなた、あなたの冒険者のランクは何?」
「変なこと聞きますね、私のランクは最下級のIですよ?
それよりも縄を解いてください!」
「あなたがIのわけないじゃなの!
私達と同じSになるのよ!」
「そんなランクだとキャロ達と冒険出来ないじゃないですか!」
「なんにしろデレシアさんの頼みを聞いてあげなさいな?」
シリカはそう言うと、縛られたドライトを持ってデレシアの前に行く。
「ドライト様、申し訳ありません!
今回は指名依頼となります、お願いしたいのは月下草を探してもらいたいのです!」
デレシアの話ではアサセルム同盟のある都市で、疫病が発生したとの事だった。
そしてアサセルム同盟が調べたところ、その疫病の特効薬になるのが月下草との事だった。
月下草を専用の薬液に浸けるとその疫病の特効薬になるのだが、冒険者ギルドなど全てのギルドを動員しても肝心の月下草が見つからず、デレシアがドライトなら何とかなるんではないかと思いシリカ達に相談したのだ。
「月下草はダンジョンみたいな魔素の濃いところで、1ヶ月に1度月の光を受ける事で育つ植物よ」
「たまたま私達も持ち合わせがないのですわ?
エルナルナさん達も慌てて探しに出ていますが、発見の連絡はまだないのですわ」
「ダーリン、探してきてやれよ!」
「……夫……お願い」
シリカ達に頼まれたドライトだが、逆に聞き返してきた。
「なんで皆してデレシアさんの肩を持つんですか?」
「レイナ達が世話になってるのよ……
だからレイナ達も必死になって探しているわ」
「はぁ……」
「はぁ……じゃないだろ!
確かにレアな薬草だけど、エルナルナ達に私達が探しても見つからないから、あとはダーリンに探してもらうしかないんだよ!」
「でもですね?」
「……夫……隠し持ってる?」
「いや、持ってあひゃひゃひゃ!?
や、止めてください!」
アンジュラが隠し持ってないかと、聞くと同時にシリカ達が襲いかかりドライトをまさぐった、だがドライトからは月下草は出てこず、ドライトは逃げ出して部屋の中を飛び回っている。
「シリカ様、ただいま帰りました」
「デレシアさんすいません、やはり見つからないです……」
「あ!ドライト様だ!」
キャロリン達がギルドにトボトボと帰ってくると、シリカ達が龍の姿に戻りドライトを追いかけ回していた。
それにセイネが気がつき叫ぶ、キャロリン達も気がつき慌てて逃げ回るドライトを捕まえようとし始めた。
「ドライト様!おねがいですから止まってください!」
「月下草を探しているのです、どうか一緒に探してください!」
キャロリンとナタリーに言われてドライトは、シリカ達を警戒しながら部屋の真ん中辺りに浮いて止まった。
「探しに行くんですか?
嫌ですよ、めんどくさい……」
ドライトのその言葉にシリカ達は怒り、キャロリンは泣きそうになる、だがキャロリンは涙をこらえながらドライトに別の頼みを言い出した。
「ドライト様、せめてヒントかなにかを教えてくれませんか?」
「ヒントですか?
月下草ならドライト教授の指導で賢者の学園で栽培中ですから、学園に有りますね?
この位しかヒントは……あれ?」
ドライトのヒントをすべて聞く前に、キャロリン達や他の冒険者にギルドの職員達は学園に向けて走り出したのだった!
「月下草ですか?有りますよ?」
「ほ、本当ですか!?」
学園に着くと、学園長のクリスティーナがたまたま居たので、捕まえて聞くとあっさりとあると言った。
「ええ、月下草は絶滅寸前まで数を減らしていましたが、ドライト様が貴重な薬草なのだから栽培することで存続させていたのです」
「魔素の量と特定の条件下でなければ育たない薬草は他にも有りますが、ドライト教授の指導の元次々と栽培に成功しています」
そう言いながら現れたのは副学園長のマサミだった。
「1年位前から、ドライト様が温室などの施設を造って色々育てていたんですよ?
気づきませんでしたか?」
「ぜ、全然気づきませんでした……」
「ならなんで有るって言ってくれなかったんでしょうか?」
「失礼ですね、私は無いとは言ってませんよ?
探すのはここに有るのにめんどくさいと言ったのです」
「「「ドライト様!」」」
ドライトがパタパタと飛びながらやって来た、そして全員を先導するように飛んでいく。
「この先に私の造った植物園が有ります、結構色々育ててるんですよ?」
そう言って飛んでいく先にキャロリン達は覚えがあった。
「この先って、学園長の魔境じゃ?」
「先輩達が何人も行方不明になったって言う……」
「っと、言いながら現れたのは去年だよね?」
「いきなり現れて学園長が侵入禁止って言ったから、学園長の魔境って言われてるんだよね?」
「普通に考えたら、こんなのをいきなり造るなんて、最低でもエルナルナ様達とかシリカ様達クラスじゃないと無理だし」
「こんな事するのはドライト様しか居ませんよね……」
キャロリン達がため息をつきながらドライトの後を追っていると、争う声が聞こえてきた。
「くぅ!?姿を見せなさい!」
「この辺りに月下草が有るはずなのに!
なんなのですかここは!?」
「そこ!……避けた!?」
「は、早い!姉様達、どうするのよ!?」
「一か八かで突っ込みすか?」
切羽詰まった5人の女性の声は聞き覚えがあった。
「エルナルナ達よね?
なにと争ってるのかしら?」
シリカがそう言って手を振るとその方向の草木が2つに別れて、その先にエルナルナ達が居た。
「あなた達何してるのよ?」
「シリカさん!この辺りに月下草が有るんです!
でも、このジャングルに入ってから何者かに妨害されていて、シリカさん達も手伝ってください!」
エルナルナがそう叫ぶと同時に雄叫びが響いた!
「あ~ぁ、あ~あああ?」
蔦を掴んで木から木へと移っていた者を、シリカが捕まえたらドライトの分身体だった。
「全員出てきなさいな!」
シリカの声にぞろぞろと分身体が出てくる、そしてエルナルナを威嚇し始める。
「なんでエルナルナさん達を襲っていたのよ……」
「この人達、正門以外から入ってきて貴重な薬草を根こそぎ奪おうとしてました!」
「普通に分けてくれと言えば分けるのに、全部持ってこうとしてたのです!」
「あとは暇だったから暇潰しです!」
「それがメインでしょう!?」
分身体達はつい本音を洩らしたために、シリカに怒られている。
そこにエルナルナ達がやって来て焦りながら言うのだった。
「そんなことより、月下草よ!」
「早く持っていかなきゃだわ、病で倒れている者達が居るのですから!」
「そ、そうでしたわ!
あなた!早く月下草を持ってきてくださいな!」
サルファが焦りながらそう言うが、ドライトが不思議そうに皆に聞いてきた。
「ところでなんで皆さん焦って月下草を探しているんですか?」
「ダーリン、何を暢気なことを言ってるんだよ!?
アサセルムの都市で発生した疫病の事を知らないのか!?」
「知ってますし、月下草も送ってありますよ?
ドライト大将が直々に護衛して、転移で持って行きました」
「……夫、でかした……ご褒美に舐めてあげるね?」
「人前で止めてください!?
なんにしろ何かの手違いじゃないですかね?
疫病は収まりつつあるはずですよ?」
ドライトは止めてくれと言ったが、アンジュラはドライトの頭にしがみつきペロペロ舐めている。
そんな2人を見ながらエルナルナが聞く。
「な、なら私達の苦労は……?」
「いや、ちゃんと調べたんですか?
管理システムを使えば現状が直ぐに分かるはずですし、月下草の有る場所も特定出来るはずですよ?」
「いや、今月の担当者から酷い状況で月下草の場所も分からないって……」
「その担当者は?」
「ユノガンド様……あ、あの野郎!?」
エルナルナが剣を取り出して走り出す。
「言って良い冗談と悪い冗談が有ります!」
「本気で焦ったんだから!」
「ボコボコにしてやる!」
「これから剃髪式だ!」
続いて他の4人も走り去ってしまった。
「まったく、ユノガンド様にも困ったものですね?」
「ところであなた?
疫病の事や月下草の事を知っていたなら、なんで私達かキャロちゃんに連絡しなかったの?」
「簡単に手に入ったら面白くないじゃないですか!」
「あなたもユノガンド様と対して変わらないじゃないのよ!」
「ちょっとお待ちなさいな!
お仕置きさせなさい!」
「ダーリン待て!」
「……もっと……舐めさせる!」
シリカに、怒られたドライトは慌てて逃げ始め、シリカ達も龍の姿に戻って追いかけていってしまった。
「帰ろうか……」
「結局また、ドライト様の手の平の上だったね?」
こうして月下草探しは終わったのだった。
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