砂川鉄道物語

久北嘉一朗

第壱章「目覚め」

第1話「はじまり」

ここはかつてオタウシナイ、アイヌ語で「砂の多い川」と呼ばれた地。石狩川と空知山地に挟まれ、周辺には空知炭田と呼ばれる豊富な石炭層がある。ヤマ(炭鉱)への分岐点として古くから栄え、市内を南北に貫く國鉄の函館本線、直線国道として有名な国道12号線があり、札幌と旭川のほぼ中心に位置する砂川市に一つの鉄道会社がある。これは近隣のヤマからの運炭輸送を柱とする鉄道会社の物語である。


ガラガラガラガラ……


始発前の砂川機関区、上砂川線の始発列車のアイドリング音が併設の職員宿舎にも響く。雪解け近い4月の北海道はまだ寒い。目覚めたばかりの白矢は、1人でコーヒーを淹れていた。

砂川鉄道の整備部門を担当する車輌整備課、通称『砂川車輌』に勤務する白矢は、週2回まわってくる当直勤務だった。とは言うものの整備職に朝の仕事は殆ど無い。仕業前の点検は担当の運転士が各自で行うし、工場は通常9時まで開けない。

しかし、今日は違った。コーヒーを飲み干して作業着にコートという冬服を着込み、夜の間に冷え込んだ外へと向かう。砂川駅4番線ホームに、赤い機関車が滑り込んできた。赤基調の車体に白帯を配した國鉄のDD51形だ。後ろには白色の気動車が繋がっていた。白地に黄緑帯と紫帯を巻く、砂川鉄道の標準塗装を纏った車両だ。

機関車からは60代の男が下りてきた。社長の久北だ。


「おはよう白矢君、泊まり勤務ご苦労様」


「おはようございます。仕業日程には砂川車輌送り込みと記載されていますが、この車両をどうするのでしょうか」


「細かいことは田辺課長から聞いてくれ、とりあえずこれを整備して走らせられるようにしてくれ」


「承知しました。お任せください」


久北社長は度々適当な事を言い出して動き出す。その反面、確かな交渉力を備えているらしく大きなイベントへの出展やいい車両の購入等を成功させてくる。

僕は指示に従い、入換動車を用いて砂川車輌へと押し込んだ。

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