それはいつもの日常に
パンプキンヘッド
ウソツキ
「セイ! あたしたちいつも一緒だよね!」
セイはあたしよりも一つ年上。
でも少し頼りない。
いつもあたしの言いなりになって、なんだか情けないとは思うけど、でも……
「うん。いつまでも一緒だよ」
その静かに微笑んでくれる笑顔が、あたしはなにより大好きだった。
あたしたちはそうして数年の時を過ごし、そして、一緒に幾つもの思い出を作った。
春には一緒に土手沿いの桜並木を歩いた。
セイったら、花に見とれてばかりで、道から外れそうになる。危なっかしいと思って手を引っ張ると、
「あ、ごめん」
そうやってすぐに謝る。
謝る必要なんてないのに。あたしたちはいつも、そうやって助け合っているのに。
夏には一緒に花火を観にいった。
セイは背が高いけど、ちょっととろいので、すぐに人波に飲まれちゃう。
だから、そのたびにあたしが手を引っ張って連れていかないといけなくなる。
本当、世話が焼ける。
でも、人波に押されている中であたしが手をつないであげると、少しほっとした表情をするセイが、あたしは妙に可愛かった。
秋は一緒に山に登った。
セイはとろいけど、運動神経がないわけじゃないので、あたしよりも早足で山道を登る。
そのたびにあたしが呼び止めて、セイの足を止めなきゃいけない。
「もう! 少しはあたしの速度も考えてよ」
あたしはそう言ってちょっと怒ったふりをすると、セイは申し訳なさそうに、
「ご、ごめん……つい楽しくって……」
そんな風に申し訳なさそうな情けない声を出す。
もう。だからいつまでたってもいい人ができないのよ!
冬。
その年、セイとは遊べなかった。
なんでもちょっと用事があって、あまり会えないんだと、セイのお母さんが言っていた。
でも、セイはあたしに電話はくれていたから、多分忙しいんだろうな、と思っていた。
そしてまた春がきた。
「ごめん……もう会えなくなる……」
4月1日。
セイがいきなり切りだした言葉。
あたしには何のことかわからなかった。
会えないって?
「え? どういうこと? ちゃんと説明してよ」
あたしは混乱して、少し声を上ずらせながら問い詰める。
セイは少し困ったように、
「君にウソをついていた」
そう言いにくそうに応えた。
「ウソってなに? あたしにどんなウソをついてたの!?」
あたしは興奮して問い詰める。
するとセイは諦めたような笑顔を浮かべ、
「ごめん……今までの全部……」
その一言にあたしは切れた。
「全部、ってなによ! 今までのこと全部ってなによ! まさか二股かけてたの!?」
あたしは今まで溜まった気持ちをぶちまけた。
でもセイはそれを静かに受け止め、
「違うんだ……違うんだ……」
そう独り言のように繰り返す。
「なにが違うのよ!」
あたしは興奮を抑えきれずにセイの胸を叩いた!
でも……
「え?」
あたしの手は空を切る。
セイの体をすり抜けて。
「え?」
あたしは混乱した。
でもセイはあたしを見つめ、
「ごめん……君を悲しませたくなかった……」
そう言葉を紡いだ。
あたしはセイの瞳を見つめると、セイは瞳に静かな色をたたえ、
「実は、数年前にもう、死んでいたんだ……」
『え?』
突拍子もない言葉にあたしは声を出すこともできなかった。
「数年前、すでに病気で死んでいた。でも、どういった作用でかは知らないけど、期限付きで命を与えられていたんだ。それが今日、4月1日で切れる」
その言葉にはまるで現実味がなかった。
話があまりにもファンタジーすぎる。
でも、あたしの目の前でセイの体が、すでに消えかかっていることは、疑いようのない事実だった。
「君を悲しませたくはなかった。だから少しでも多くの思い出を君と一緒に作って、そして笑って別れたかった」
そこでセイは言葉を切る。次の言葉を探している。
あたしの顔を見つめ、表情を読んでいる。
「でも……結局こうなるんなら、あの時、死んだことを告げておけばよかった」
セイは消えゆく中、あたしの顔に浮かんだ表情を見て、苦笑気味に、
「我がままだよね。結局、君を悲しませただけだった。ただの我がままだよ」
そして目を閉じ、静かな声で、
「だから……ごめん……」
その一言と共に、セイは消えた。
そしてただ一人立ち尽くしているあたしは、誰に言うこともなく一人ごちた。
「……ごめんじゃないよ……ウソツキ……」
それから数日後、あたしはセイの家を訪れた。
家ではセイのお母さんが話を聞いてくれた。
するとお母さんは、
「そう……やっぱり、そうなったの……」
そう一言もらすと大きくため息をつき、
「たしかにあの子はあなたにウソをついたかもしれない。でもそれは、あの子があなたのことを思ってしたことなんだと思う」
そして少し考えるように口をつぐみ、また開いた。
「でもね、これだけは信じて」
そしてあたしの瞳を見つめ、
「あの子があなたを想っていたことだけは本当よ。それだけは信じて」
そう、私の手を握り言葉を紡ぐ。
私はその言葉に小さく頷き、そしてようやく言葉を返した。
「はい」
そしてまた、春がくる。
あたしはまた、あのウソツキのことを思い出していた。
とろくて、馬鹿で、そしてどうしようもなく不器用なウソツキのことを。
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