第6話 ひきこもり娘登場

 カランカラーンと入口のベルが鳴った。本日2人目の冒険者だ。黒いフードを深く被っていて、顔が見えない。首からは髑髏どくろのデザインがあしらわれた不気味なネックレス。指にも髑髏デザインの指輪がいくつもはめられている。長い杖の先にはやはり髑髏を模ったガラス細工がついている。全身黒づくめの髑髏ファッション。


 そして何よりも全身から醸し出される負のオーラ。天性のネガティブオーラといってもいい。暗い情熱を感じる姿だ。フードからちらりと見える髪の毛からすると女だ。


「あのぉ、冒険者の登録をしたいんですけどー」


 髑髏女は消え入りそうな声でアルテに話かけてきた。


「う、うむ、ではこの登録用紙に記入してくれ」

「は、はぁ……」


 アルテは緊張しているが、それ以上に髑髏女の方が緊張しているようだった。挙動不審、オドオドしている。明らかに何かを隠している仕草だ。


「えっと、得意分野って何書けばいいんですか?」

「そ、それはじゃな……」


 必死でレモネードのセリフを思い出すアルテ。


「わ、わからないところはとりあえず空欄でいいのじゃ」

「……はぁ」


 アルテの話を聞きながらも、キョロキョロと周りを気にする髑髏女。酷く人目を気にしているようだった。


「できました。これでいいでしょうか?」


◆ ◆ ◆


名前:ソリティア

住所:スピネル ネフェリン通り221-A

職業:家事手伝い

年齢:17歳

性別:女

家族構成:父、母

使える魔法:生活魔法、攻撃魔法

使える武器:杖

得意分野:ネクロマンサー(死霊使い)

緊急連絡先:父、母


◆ ◆ ◆


 内容の良し悪しはよくわからない。だが一通りはそれらしく書けている。今のアルテには登録手順のことしか頭になかった。数字を組み合わせたハンコをカウンターの引き出しから取り出す。アルテの登録番号に1を足したハンコを組合せて揃える。「1400-9879」だ。


 ――― ダダン! とレモネードの真似をして押してみるが、少しズレて斜めになってしまった。見事な失敗である。


 レモネードが手を伸ばし、登録用紙を取り上げた。内容を一通り見ると、眉間に皺を寄せた。アルテは自分に何か不手際があったのかと、ドキドキしていた。


「ちょっと待って。何なのよ、この”ネクロマンサー(死霊使い)”ってのは。あなた、禁忌の死霊魔法が使えるの?」


 死霊魔法は死体を操る専門の魔法。魂を死体に入れ込んで操り、使役する魔法である。操る死体の生前の能力と術者の魔力によって、有能な下僕を得ることが可能だ。特に強力な魔物の死体や達人レベルの人間の死体であれば、彼らの能力を丸ごと操ることができる。


 けれど操るのは死体。忌み嫌われる魔法である。スピネルの街では禁忌とされている。使っても罰せられることはないが、村八分になるのは目に見えている。加えて、死体を操るには見た目以上の魔力を要する。同時に2体、3体と展開するためには、普通では考えられないほど膨大な魔力を消費する。だから死霊魔法を使う人間は、ここスピネルの街にはほとんどいない。


「い、いえ……その、私ネクロマンサーに憧れて独学で勉強してたんですけど、挫折しちゃって。でも知識だけは人に負けないっていうか……」

「ああ、そういうこと。実際には使えないけど知識だけの”頭でっかち”ってことね」

「レモネード、その言い草は酷かろう」

「アルテ、あんたは黙ってなさい」

「ご、ごめんなさい。嘘を書くつもりはなかったんです」

「まぁいいわ。でも冒険者になったらネクロマンサーの話はしない方がいいわね。誰もあなたとパーティーを組みたがらなくなるわ」

「は、はい、アドバイスありがとうございます!」


 髑髏の真っ黒娘ことソリティアは両手をぐっと握り締めて、レモネードのアドバイスを噛みしめていた。その時アルテは、カウンター下に潜って焦っていた。必死で1400-9879番が刻印されたプレートを探していたのだ。ようやく該当の番号を見つけると、ソリティアに渡した。プレートを手に取ったソリティア。今度は感動に打ち震えていた。


「こ、これで……私もこれで冒険者を名乗っていいんですね!」

「まだじゃ。登録料金貨20枚を払ってもらおう」

「……そう、でしたね。金貨払わないとダメなんですよね」

「もちろんじゃ。これはビタ1文負けられぬぞ」

「わ、わかってます。でもちょっと細かくなっちゃうんですけど、いいですか?」


 そういうとソリティアは、背負っていた重そうなバックパックをドサりとアルテの前に差し出した。パックを開けると、そこには銅貨がたっぷり詰まっていた。銅貨だけでなく、それよりも細かい鉄貨もちらほら見える。


「な、なんじゃこれは?」

「ですから金貨20枚分の銅貨と鉄貨です。ちゃんとあるか数えてくださいね」

「……う、うむ」


 さすがのレモネードもアルテも開いた口が塞がらなかった。金貨1枚は銀貨10枚。銀貨1枚は銅貨10枚。銅貨1枚は鉄貨10枚となる。すべてが銅貨だったとしても2万枚を数える必要がある。が、鉄貨も混じっている。数える枚数はもっと多そうだ。考えるだけで気が遠くなりそうだった。ビタ一文負けられないと言ってしまった手前、数えないわけにもいかない。


「あなたねぇ、ギルドに対する嫌がらせのつもりぃ?」

「そんなことありません。引きこもりの私がコツコツと貯めた小銭貯金です」

「小銭貯金で冒険者登録されちゃたまったもんじゃないわ、ったくぅ。じゃあアルテちゃん、後はよろしくね」

「う、うむ。とにかく数えればよいのじゃな?」

「そうよ。終わったら呼んでね」


 面倒な仕事はすべてアルテに押し付け、レモネードは速攻でカウンター裏の控室に引っ込んでしまった。一方のアルテは思案していた。これだけの枚数を正確に数えるには、かなりの時間がかかる。何よりも大ざっぱで豪快な性格のアルテには、最も向いていない作業だった。


 そこで悪知恵を働かせることにした。創造魔法の応用である。創造魔法は錬金術と呼ばれることもある。物を変化させる魔術だ。目の前にあるのは貨幣とはいえ、素材は銅と鉄である。アルテの魔力を注げば、他の金属へ転換できる。ただし、硬貨としてのデザインは再現できない。あくまで素材から素材への転換しかできない。


(銅と鉄から金を作るのは簡単なんじゃがのー。金の塊に価値がないのなら意味がないの)


 金塊になってしまえば硬貨としては使えない。ギルドの規則には反してしまう。


「髑髏女(どくろおんな)よ、お前、金塊がいくらになるか知っておるか?」


 アルテが生きていた時代、もちろん金塊も金貨はあった。両方とも価値あるものとして認められていた。が、その時代は金貨も金塊も同等の価値として扱われた。どんな形の金貨であっても、重さで価値が決められていたのである。


「いくらって……金貨1枚が20gですから、20gの金塊と同じ値段ですよ? そんなの子供でも知ってますけど」

「わ、わ、我だって知っておったぞ、そのくらい!」


 アルテの生きていた時代から1800年後の今。貨幣と金属の流通は同じシステムが保たれていた。


「おい、髑髏女」

「ど、髑髏女じゃありません。ソリティアです……もちろん髑髏は好きですけど、やっぱり名前で呼ばれないとアレですし、私のこと根が暗いから”ネクラマンサー”とか変なあだ名つける人もいるし、もう本当に嫌なんですよ」

「何をブツブツ言っておる。お前の銅貨と鉄貨、我が両替してやる」

「えっ!? ギルドは両替商も始めたんですか? でも私手数料なんて払えませんよ」

「今日はサービスじゃ。まぁ見ておれ」


 アルテが軽く右手を振ってから、銅貨鉄貨の山に両の掌をかざす。青い光がバックパック全体を包む。数秒もすると、あれだけ膨れていたバックパックが萎んでいた。


「へ? わ、私のお金は? ど、どうなっちゃったんですか?」


 慌ててバックパックの中を覗き込むソリティア。自分の引きこもり人生をかけて貯めた小銭は、命の次に大切な物だ。


「……あれっ? どうして私のお金は金塊になっちゃったんですか?」

「ふむ、数えるのが面倒なので我が両替しておいた。20枚分の金貨、400gの金塊じゃよ」

「て、手品 ……ですよねぇ?」

「何を言っておる、初歩的な創造魔法じゃぞ、こんなの」

「またまたぁ、冗談キツイですよ。創造魔法は大昔に滅んだ術ですよ? ギルドの受付さんなんかが使えるわけないじゃないですか」


 創造魔法は今や失われた魔術。使い手はこの時代には存在しなかった。ソリティアが存在を知っていたのも、頭でっかちになるまで様々な専門書を濫読(らんどく)したからだった。魔法使いであっても、普通は知らない術なのだ。


「そ、そうじゃな。手品じゃよこれは」


 一方のアルテは、事を大袈裟にしてはいけないと、この件には触れないことにした。騒ぎになればレモネードやギルドに迷惑がかかるかもしれない。そして、自分は受付嬢をクビになってしまうかもしれない。それだけは何としても避けなければならない。


「じゃあ、私の銅貨と鉄貨、返してください。そしてちゃんと全部数えてくださいね」


(うう、……困ったの。どうすればいいんじゃ)


「いや、お主はもう冒険者じゃ。我が認める。胸を張って堂々と名乗るがよい」


 アルテは適当に誤魔化すことにした。細かくて面倒なことは大のニガテ。魔王時代には、煩わしいことはすべて下級魔族達がやってくれていた。自分は専ら殲滅魔法や攻撃魔法を炸裂させるのが専門である。硬貨を数え、場を取り繕うなど土台無理な話。


「ギルドの受付嬢さんが認めてくれたってことは、これで私も晴れて冒険者ですね。……やった、私、もう無職じゃない。ついにニート卒業だわ!」


 ソリティアは大いに喜んでいた。彼女は天性のネガティブオーラのため、友人が1人もいなかった。まぁ、単に暗くて口下手、人見知りが激しいだけなのだが周りは不気味がって近づかない。しかも趣味はネクロマンサーの知識を蓄えること。どう逆立ちしても嫌われる運命だった。裕福な家庭に生まれたにもかかわらず、学校は1ヶ月で辞めてしまった。イジメられて馬鹿にされたからだ。


 それから8年間、ひきこもりのニートだった。が、心配した両親が、ついに彼女を部屋から引っ張り出した。それが昨日の話だ。両親が彼女に将来何になりたいかを聞くと、迷わずに”冒険者”と答えた。


 ひきこもっている間、彼女がずっと思っていたことはただ一つ。「有名になって皆を見返してやる」これだけだ。が、少し魔法が使えるだけのニート少女にそんなチャンスはない。だから冒険者を目指した。常に危険と隣り合わせ、いつ命を落としてもおかしくない職だが、ひと山当てれば一躍有名人になれる。


 一発逆転、人生勝ち組だ。もちろん多くの冒険者がそれを狙っているわけだが、少なくともチャンスだけは平等に与えられる。だから、コツコツと毎日小銭を貯めていたのだ。もちろん、大好きな魔術の勉強も忘れてはいなかった。


 両親の猛反対を押し切り、こうして彼女は久々に街の空気を吸いながら、朝一番でギルドに登録に来た、というわけだ。


◆◇◆◇


「あの、受付嬢さん。聞いていいですか?」

「なんじゃ」

「私、この後、どうすればいいんでしょう?」

「……は? それは冒険者じゃから、ぼ、ぼ、冒険するに決まっておろう!」


 アルテは冷や汗をかいていた。自分が冒険者だったのは大昔のこと。ギルドでの出来事などおぼろげな記憶しかない。ましてや、依頼の受け方や普段の活動など細かいことを覚えているわけがない。


「冒険するのはわかりますけど、結局依頼をこなさないと一流の冒険者として認められないんですよね?」

「う、うむ、そうだな、何しろ冒険者じゃからの」

「だから私、依頼を請けようと思います。どうやって請ければいいんですか?」

「……えっ、と、あの……おいレモネード、ちょっと来てくれぬか!」

「何よ、もう硬貨は数え終ったの?」


 あくびをしながらレモネードがカウンターまで出てくる。


「あら? あの銅貨の山は?」

「そっ、それなら我がもう金庫にしまった」


 面倒なので咄嗟にウソをつく。創造魔法の事を話していたら、ソリティアの相手をするどころか、突っ込まれて大騒ぎになってしまうかもしれない。


「あそう、ならいいわ。時間が空いた時に私もチェックしておくから。それで……今度は何?」

「い、依頼の請け方を教えて欲しいんじゃ」

「ああ、髑髏の子が何か請けたいってわけね」

「そ、そうじゃ。頼む」

「”髑髏の子”じゃありません、ソリティアです!」

「いいじゃない。髑髏好きなんでしょ? それに”髑髏”なんて通り名、不気味でなかなか素敵よ~」

「で、でもちゃんとした名前が……」

「とりあえず依頼の話ね」


 ややこしことになる前に、素早く話題をすり替えるレモネード。本来の彼女は、口は悪いが世話好きで話好きである。とくに女性の冒険者とは、お喋りで盛り上がる事が多い。だが今は連勤で疲労がピーク。仕事はさっさとこなして休みたい。


 カウンターを出て掲示板の前へ行くと、3枚ほど依頼票を剥がしてソリティアに渡す。


「その中から1つ好きなの選びなさぁい。全部初心者用だから安心して」

「ありがとうございます!」


 初仕事の喜びに食い入るようにして依頼票を読み始めるソリティア。が、その顔は直ぐに曇ってしまった。


「依頼ってこれだけですか?」

「あなたにはそれくらいが無難よ。初心者でしかもお一人様だもの」

「ふむ、どれどれ……」


 ソリティアから依頼票の束を奪って読み込むアルテ。


【依頼番号14089:薬草採取。オリビン平原でオリオン草を1kg(通年)/銅貨25枚】


「オリビン平原? どこじゃそれは」

「スピネルの街の中にあるちょっとした原っぱね」

「ふむ、そこで薬草を採る……かなり貴重な薬草なのか?」

「そんな訳ないでしょ。裏庭に生えてる薬草採りみたいなもんよ」

「そ、そうか……」

「まぁ、お一人様の初心者にはおあつらえ向きね。この依頼をこなしながら、コツコツお金を貯めて良い装備を揃えて次に行くとか、仲間を見つけるとかすればいいのよ。通年依頼だからいつでも何度でも請けられる依頼よ。まさにお金稼ぎと基礎体力づくりにはうってつけよね」


 不満そうな顔をするソリティア。彼女のが狙うのは一攫千金だ。一発目からそうは行かないのはわかっている。だが、少なくとも両親を見返すくらいの依頼は達成したい。薬草採りでは子供の使いだ。


【依頼番号13002:犬探し。商人の大切なペット。行方不明になった犬を探す/銅貨35枚】


「犬探しか。割と厄介な仕事かもしれんな」

「でも命の危険はないし、これも初心者定番の依頼よね」

「じゃがのぉ……冒険者というよりよろず屋じゃな」

「しょうがないじゃない。だって経験がなくてろくに戦い方も知らない素人なのよぉ。そうポンポン簡単に死なれちゃこっちとしても後味悪いからね」


【依頼番号12170:護衛。登下校時、貴族の子息の護衛/銀貨5枚】


「ふむ、護衛か。貴族の子……。命を狙われる要人のボディガードじゃな」

「いいえ、単に金持ち貴族が見栄で依頼しているオマケみたいな形だけの護衛よ。学校と貴族の屋敷はたったの100メートルしか離れてないし」

「やりがいはないが、楽にこなせそうじゃな」

「でしょ~。これは結構お得な依頼だと思うのよ。髑髏の初心者ちゃんでも簡単にお金儲けできるわよ」


 ソリティアは大いに不満だった。冒険者といえば討伐依頼。魔物を斃して人々から感謝されるのが基本だ。自分も直ぐに討伐モノの依頼を請けたかった。せめてゴブリンくらいは斃したい。そう強く願っていた。薬草採りや犬探しでは、両親に笑われるのがオチだ。貴族の坊ちゃんのお守など、恰好悪くてやれたものではない。


 そして……掲示板から彼女が剥がした依頼は、討伐モノだった。


【依頼番号7866:オークの討伐。ダンジョンに出没するオークの群れ30体を斃す。証明部位はオークの目玉/金貨20枚】


「受付嬢さん、私、これやります!」

「……あのねぇ。初心者にオーク30体なんて無理に決まってるでしょ。しかもダンジョンよ。オーク以外の魔物に遭遇する危険も高い。あなたにはお奨めできないわ」

「でも私、どうしてもこの依頼を請けたいんです!」

「請けるのは勝手だけど、もし達成できずに放りだしたら罰金よ。まぁそれよりもあなたの場合、生きて帰って来られない方が心配だけど」

「大丈夫ですよ。少しですけど私、魔法が使えますし!」

「攻撃魔法はどれくらい使えるのかしら?」

「ファ、ファ、ファイヤーボールとか使えます」


 眼が泳いでいる。明らかに嘘をついている。


「別にギルドに止める義理はないんだけどね。死んだら登録抹消の処理をするだけだしね」


 冷たく言い放つレモネードだったが、その顔はひどく辛そうだった。言葉とは裏腹に心配しているのだ。


 討伐系の依頼を扱う冒険者の死亡率は高い。特に初心者だ。自分と魔物の力の差を読むことができない。冒険者になって一旗揚げようという強者は、大抵が自信家だ。野心が前に出過ぎて焦るタイプが多い。魔物の方が多少強くても無理をしてしまう。


 目的の魔物を討伐できたとしても、帰りに別の魔物に襲われたり、山賊や盗賊に狙われたりする。初心者へのお奨めは低レベルの採取系なのだ。もしくはベテランの冒険者のパーティーに入れてもらうかだ。ソリティアに仲間はいない。単独で成果を焦って突っ込んでしまうタイプだ。何万人という冒険者を見てきたレモネードにはそれが直ぐにわかった。


「はい、責任は全部自分で持ちます。私、7866番の依頼を請けます」

「……わかったわよ。ヤバいと思ったら直ぐに引き返すのよ。撤退も立派な戦術、恥ずかしくなんかないんだから」

「ご心配ありがとうございます!」


 ソリティアの目はやる気に満ちていた。暗いネガティブオーラは相変わらずだったが、それでも前向きな表情をしている。説得して止めることはできないだろう。


 カウンターの引き出しから「依頼請済み」のハンコを出し、ソリティアの依頼票にバンッと力強く押す。これで7866番の依頼はソリティアのものだ。


 足取りも軽く、ギルドを出て行くソリティア。その後ろ姿を見てため息をつくレモネード。初心者が陥る典型的なダメなパターンだと知っているからだ。が、止めることはできない。冒険者はすべてが自由意志と自己責任の世界なのだ。


 が、1分もしないうちにソリティアはギルドのカウンター前に再び立っていた。


「どうした、髑髏の小娘。何か忘れ物か?」

「……あ、あのー」

「何じゃ?」


 言いにくそうにモジモジしている。顔が赤い。羞恥の表情だ。


「ダンジョンって何処にあるんでしょうか?」

「……それを知らずして依頼を請けたのか。おまえ本当に大丈夫か?」


 さすがのアルテもあきれ顔で固まってしまう。


「ダンジョンは、城門を出て西じゃ。歩けば丸1日はかかる。食料を忘れずにの」

「あ、ありがとうございます!」


 そういうと、再び弾丸のような速さで駆け出て行った。

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