27話 疑い

ブルベの宝物庫から奪った宝物を全て売ってみた。いや、全てではないな。

いくつかの物は、売り物にならないほど汚れていたし、そもそも買い手のいない場合もあった。しかし、さすがは王城付近である。売れるような品はほとんど、城付近に集まる金持ちによってなかなかの値段で売れた。

全部で1万2千ドル、なかなか悪くない。

というわけで、今日の俺はかなり機嫌がいい!

だから、俺は気分のいいまま今日が終わってくれることを期待してるよ。




ハンターに近づいた瞬間、胸を締めつけるほどの覇気を感じた。あれが邪悪なるものの力、ダークフォースってやつか?

でも、あれがダークフォースならば、あの底知れぬ力はどこから湧いてるんだ?確実にライトストーンではあるまい。逆に力を吸収されてしまうからな。生身?でもないよなぁ。……であれば、まさかダークストーン!?ダークストーンが本当に存在していて、奴はダークストーンによってあの力を発揮しているとでも言うのか!?

なるほど、いい伝えが正しければ、ダークフォースはダークストーンによって力に変えられる。邪悪な奴ほど強くなるってことだ。

ダークストーンが奴をあそこまで…?そうかもしれないな…ハハッ!


「ハハ…」

……って、ダメだなオレ。余計なこと考えて、昨日のショックを忘れようとしてる。子供っぽすぎるよな。いやなことから無理矢理目をそらすのは。

ジーマ…。薄暗くて顔はよく見えなかったが、あの横顔は確かにジーマだ。

ジーマがハンター…?

ならば、オレがとるべき行動はひとつ…!




俺が職場に着く頃には、既に1時間以上遅刻していた。

1時間で済んだだけまだマシかもしれない。俺の予想では、あと2時間くらい遅刻する予定だったから。

まあ遅かれ早かれ遅刻は遅刻だし。1時間で済んだという結果に満足してはならんね。


俺がトレーニングルームに入室するとノーガが、黒い韋駄天のようにぶっ飛んできた。

「おい、ジーマ!遅えじゃねえか」

突然ラリアットしてきたので、俺はそれをヒョイッと避けると、そのまま荷物を部屋の隅に置きに行った。

「すまんね、ちょっと用があって」

「んだよそれ…」

プックリと頰を膨らませながら彼が文句を言ってきたので、俺は苦笑するしかなかった。

俺は首に引っかかりを感じて首でも回そうと思い、ぐるりと回してみると、見えた周囲に何か違和感を感じた。

……あれ?誰かいないような…。

「なあ、俺以外に…いや、まだ来ていない奴はいるのか?誰かいないんだよなぁ」

「…ジョセフじゃないのか?俺はここに1番最初に来たから、それ以来ここに来た奴の顔を来る度覗いていたんだが…でもジョセフのことは、今日一度も見てないな」

……ジョセフが?昨夜のあの一撃で大怪我したってんじゃないだろうな?…やりすぎちまったかな〜。

大切な仲間だからな。俺が奴と出逢ってからずっと。

「ジョセフ、あいつが…」




「どうしたんだ?」




ゲッ、後ろから声が!

……!?ジョ、ジョ、

「ジョセフ!後ろにいたのかよ!」

「ぬ、ぬわぁー!!?」

ノーガも驚いていた。まあ、あの言い方をしたばかりだから当然か。

それに外見が一晩で大きく変わってた。

昨日までの男にしては長かった髪が、とてもさっぱりしていて、目にはくまができ、180センチの巨体と合わさって非常に不気味であった。何があったんだよ、マジで!

「お前こそどうしたんだよ、その顔はよ!」

「別に…」

ジョセフはそう冷たく言い残すと、プイッと顔を後ろに向けて、スタスタとどこかへ向かって歩きだした。

「本当に、あいつは…」

どうしちまったんだ。と言ってしまう前に、さすがにしつこいと思ってやめた。

しかし、ノーガもジョセフの冷たい言動に気づいたらしく、心配の色を隠しきれていなかった。

「ジョセフが、俺に冷たかった」

「き、今日は機嫌が悪いだけじゃないか?」

「そうだといいのだが…」

俺は眉間に皺を寄せながらそう言った。

心配だ…。


昼休憩になると、俺は昼食を食べるためにリュックサックの中を覗いた。しかし、どれだけ探しても、堅パンと水筒は見つからなかった。

「あちゃー…。忘れちまったよ」

しまったなー。朝ちゃんと入れたか確認すべきだった。

頭を抱えながら解決策を考えていると、ノーガが隣にドサッと座った。

「どうしたんだ、ジーマ。頭なんか抱えたりして」

「ノーガ…。昼食持ってくるの忘れちまった」

「ハッ!バカだな、お前も!」

ノーガは腹を抱えて笑いながら床を転げまわった。

「人が昼食を忘れたのが、そんなに可笑しいかね…」

失礼なヤツだ。昼食忘れて大爆笑するとか子供かよ。

俺は頰をプッと膨らませながら頭の中でそう言った。

「俺の昼飯を見よ!ジーマ」

ノーガはリュックサックから昼食を取り出して、それを俺に見せつけた。

…ほうら、昼食を自慢するあたり、やっぱり子供だ。

ノーガは普通の昼食を、いつも以上に美味そうに食べていた。が、ある時昼食を膝の上に乗せていたからか、バランスを崩して床にひっくり返してしまった。

「ゲッ!」

「ざまぁみな?俺に自慢するからこうなんのよ」

「床に落ちた物は流石に俺でも食えんぞ…。どうするか…」

俺の悪口など聞く耳持たぬと言わんばかりの無視。しかし、俺の方はそこまで腹が立たなかった。多分、昼食ひっくり返すのを見て、心が晴れたからだろう。

「まだ食い足りねぇ。これじゃ午後から動かないぜ」

「それならすぐ近くのパン屋で買ってくるといいや。俺も昼飯忘れたとき、いつもそこで買ってんだよ」

「しょうがねぇ、そうするか…」

ノーガは嫌そうな顔をして立ちあがると、スタスタとパン屋に向かおうとした。が、

「イテッ!」

ノーガは何か柱のような物に鼻をぶつけると、鼻を真っ赤にして涙を浮かばせた。

「ンン!チクショー…」

「ノーガ、すまん」

その声を聞いた途端、ノーガはハッとしたような表情で見上げた。

「ジョセフ…!」

ジョセフは、そんな驚かんでいいだろうと言いたそうな顔をした。まあ、しょうがないだろう。あいつの一晩のうちに激変した外見を見れば…。

ジョセフはポリポリと頭を掻くと、俺の方を見て、複雑そうな顔をして言った。

「ジーマ、ちょっといいか?」

「え?いいけど、ここで話すようなことか?」

「いや、皆にはなるべく秘密にしたい」

「…わかった。行こう、ジョセフ」

俺がジョセフのあとをついて行こうとしたその時、ノーガが俺を呼びとめた。

「おーい、ジーマ」

「…なんだよ?」

「お前のぶんのパンも買ってこようか?」

「そうだな…。頼むよ」

ノーガは親指でグッドサインを示すと、俺とジョセフとは逆の方向に向かって歩きだした。


ジョセフと俺は、人があまり出入りしない訓練用器具庫まで歩くと、倉庫を薄暗くしたままジョセフが話を切り出した。

「昨夜、嬉しいことがわかった」

そうは言っているものの、彼の顔は以前暗かった。

今日のジョセフは何かおかしい。

「なんだ?その嬉しいことってのは」

俺は彼の顔から滲み出る闇を振り払うように、笑顔で言った。

すると、ジョセフはすごい形相をしてこちらを睨んだ。

──なんだ、今のジョセフの表情。俺が関係してるのか………?日にち的に今日または昨日…まさか!

「その嬉しいことってのは…単刀直入に言うぜ」

悪魔の瞳のように鋭い眼光は、悪魔のようと例えたがそのような邪気はなく、正義を貫くという強い意志が読み取れた。

「ジーマ、お前は」

ジョセフが口を開いた途端、俺の胸は一気に締めつけられた。

──グッ!なんだ、この押し潰されそうな空気は!

血の気がサッとひき、さっきまで彼に見せていた笑顔は急に引き攣りだした。そして俺は彼の次の一言に恐怖した。

ジョセフはもう一度、若干乾いた口を開いた

そんなはずはない、そんなはずはない、と心で繰り返し唱えた。しかし、もう一度俺を襲うのはやっぱりあの一言だった。


「ジーマ…ハンターはお前だったんだな」


………!?

あまりのショックで言葉が出なかった。


じ、ジョセフが…知ってしまった!俺の、正体を…!!


しばらく俺の頭の中は真っ白になったが、すぐ我にかえると、このくそったれな状況を打破する方法を考えた。

──クソったれ!クソったれ!どうすればこの状況を抜けられる!


必死に考えること、何秒だろうか。こういう危ない時間ほど、効率良く考えが巡るのは皮肉ってもんだ。

必死に考えて、思いついた策。シンプルだが、無難だ。やってみせる!

「し、証拠…。俺がハンターだっていう証拠はあるのか?」

どーだ、畜生!やってやった!流石に証拠はあるまい!これで証明されたようなもんだ、一般人だってな。

いや、一般人じゃなかった。俺ってハンターだった。忘れてしまうとは…!

だが、これでこの件は解決したようなもんだ。どんなもんだい!

「証拠か…証拠もあるが、まずは聞いてくれ」

「え!?」

あるのかよぉお!

「昨夜、オレはハンターに殴られ気絶しちまった。そうして目が覚めた頃には、オレは奴を探していた。で、見つけてそいつをつけてみたんだ。そしたら、ハンターが変身をといて、お前の後ろ姿と横顔を見た」

「そ、そんなの──」

「確かに、それだけであれば何の根拠にもなるまい。事実、お前の後ろ姿や横顔に似た奴なんてこの国だけでも大勢いる。お前を見たとき周りは薄暗くてよく見えなかったから、もしかしたら、オレの見間違えかも…けどな」

ジョセフはそう言うと、俺の目の前に何かを突きつけてきた。

──こ、これは!

「言ったろ?証拠もあるって…」

これは俺のライトフォースの使われていないトマホーク!?いつの間に!

「あっ!」


「どうしたんだ?」

「ジョセフ!後ろにいたのかよ!」

──まさか、あのとき!


さっき俺の後ろに立っていたときとったのか!畜生、気づかなかった。

「ハンターってのは、人を殺すことで生計を立て、金のためならば誰でも殺すそうじゃないか」

「し、知らない。俺はハンターのことを詳しく知らないから…」

「…へぇ、飽くまでもシラを切るつもりなんだな」

ジョセフは意地悪そうにそう言うと、俺の顔色を伺った。ひどい顔をしていたに違いない。顔面の筋肉がとても硬直していたからな。

「まあいい。それで、そんだけ人を殺していれば、きっととんでもないダークフォースを秘めているに違いない」

「それが!?」

「ダークフォースはライトストーンに、持ち主の力ごと吸収される。簡単に言うと、悪人にはライトストーンを扱えないってわけだな。お前がハンターだったとして、それではフォースの力どころか本来の自分の力さえも発揮できない」

「……!?」

「だが、このライトストーンレスのトマホークであれば、力は吸収されず、本来のお前の力が使えるってことだ。……ウォーリーを救出しに行ったとき、お前は相手に向かって兵士用のトマホークを迷わず投げ、そのまま素手で戦っていた。その戦闘力は凄まじく、オレは唖然としてしまった。…そのときは嬉しかったさ。お前が強くなった!ってね。けど、それはライトストーンにお前の本来の力を吸収させないためであって、オレはそのカラクリをといてみてガッカリというか、残念だよ」

……!ショックだった。いや、それ以上に、もう言い逃れ出来ないほど辻褄の合った根拠を前に、俺は諦めかけてしまっていた。

どうしようもねぇ!終わったも同然だ!

そんな俺に追い打ち…いや、とどめをさすようにジョセフは続けた。

「オレは誓った筈だ。例え親友のお前がハンターだったとしても、オレはオレの責任を果たすと。今こそその時なんだ。だから、オレはジョセフではなく、ハンター討伐隊隊長としてお前を殺す」

その言葉に嘘偽りはなさそうだった。力強い言葉、鋭い瞳。

ダメだ…!もう詰んだ。こんなことって…!

このままでは、


俺はジョセフに殺される!または、俺がジョセフを殺す!



「……だが、一つお前に、お前がハンターではないとオレに証明するチャンスをやる」


………!!!!????ジョセフ!?

な、なんだって!いま、チャンスをやると?

考えてはいられない!ジョセフのいう通りならば、これが最後のチャンスだ!そのチャンスをモノにすれば俺は!

「そのチャンスって!?」

「……ンン!焦るな?…焦る必要もないからな」

突然顔を近づけてきた俺に対して、ジョセフは少し鬱陶しそうな態度をとった。が、そんなことに気をかけていられるほど暇じゃないんでね!

「さあ、早く言えよ!頼むから」

「………。わかったよ。ここにお前の兵士用のトマホークがある。丁度俺も兵士用の剣を持ってる…。そこでだ。これを使った決闘をする。もしお前が勝てば、お前はオレにハンターではないことを証明できる」

「ええ?!」

「なぜなら…さっきも言ったとおり、ハンターならとんでもない量のダークフォースを秘めているはず…。奴が兵士用の武器を使うということは、自らの首を絞めるということだ。だが、あのとき見たお前の戦闘能力が健在、そしてダークフォースを秘めていなければ、お前はオレに勝てるかもしれん。まあ、お前がハンターならば、ダークフォースが足を引っ張って手も足も出ないだろうけど」

「……ぐっ!」

そういうことか…!確かに奴に証明できるチャンスだ。けど、それは難しい!

勝てる目処は極めてない。もしかしたらやるまでもないような既に決まった結果なのかもしれない。

だけど、

「…やろうか」

その瞬間、空気が変わった。

俺の返事を待っていたかのように、ジョセフはニコリと口元だけで笑うと、トマホークをこっちによこした。

こっちはダークフォースの宝庫、対するあっちはライトフォースの大型船!

だが、可能性が1もなくても、俺はその0.000000000…に賭ける!

ジョセフは白く輝く剣を抜きとると、その剣先を俺に向けて構えた。

「行くぞ!」

「オオッ!」

俺たちが2人同時に前へ踏み込もうとしたそのとき、

何やらドサッと荷物を落とす音がした。

「何やってんだよ…ジーマ、ジョセフ!」

「ッ!?」

突然の声に驚いた俺たちは、床を必死に踏み込んでブレーキをかけた。

「誰だ!」

その声の主の胸倉をジョセフは掴むと、壁に思いきり叩きつけた。

荷物の中身は…パンだ!

「やめろジョセフ!ノーガだよ!」

俺がそう叫ぶと、彼は顔を一度確認するようにしてから手を放した。

「ン…。すまない。薄暗くて顔を確認出来なかった」

「…いいよ。謝らなくて」

「それで…」

ジョセフは剣を拾うと、それをおさめた。

「どこから聞いてた?始めあたりから?それとも終わりあたり?」

「…途中辺りだが、お前がジーマをハンターと疑っているのは分かったよ」

「じゃあ、オレとジーマが戦う理由は知っているはずだな?何故止めた?」

ジョセフがノーガを睨みつけると、ノーガは少し身体を縮めた。

「兵士同士の戦いは、あるときを除いて原則禁止だ。お前ならわかってるだろう?」

「無論だ。だが、オレはハンター討伐隊隊長だ。ハンターを倒すためならば、規則を多少破っても、大して罰せられはせんよ。…罰なんてものも、それほど恐れてはいないしな」

「その言い方だと、本気でジーマを疑ってるんだな…」

ノーガが悲しそうな表情をした。それを見た俺の心は、ギュッと締めつけられた。

──こんなにも、俺を大切にしてくれているのか?…そうであれば、今俺がしているのは、裏切りだ!

情けない!不甲斐ない!そんな俺は2人が口論している少しの間、一粒二粒涙を流した。

殺人を悪だとは思っちゃあいない。だから、何故こんな風に、俺が追い詰められているのかもわからない。

だけど、裏切りに対する俺の罪悪感はしっかりある!…それが苦しいのだ。


ジョセフがもう一度剣を抜くと、ノーガは彼の前に立ちはだかった。

「…さがってろ。お前まで巻き込んじまう。ジーマだってそれは望んでない筈だ」

「ダメだ!兵士同士が戦っては!」

「だから!罰は恐れてねぇって!」

「だったら!」

ノーガは必死に叫んだ。その叫びがジョセフにも通じたらしく一度動きを止めた。

「10日後に開催される『イギリカ兵大会』、そこで戦えば良い。あの大会なら、兵同士の戦いも許されている。お前だって、なるべく罰を受けるのは避けたい筈だ」

「……イギリカ兵大会か」

イギリカ兵大会とは、イギリカで1番の兵士を競い合う大会である。優勝者には富と名誉、そして次期魔団帝候補に入れる。

ルールは簡単。自分の好みの兵士用武器訓練仕様(木製)を使い殴り合うだけ。もちろん訓練仕様とは言ってもライトストーンが埋め込まれているため、俺が不利であることには変わりないのだが。

試合は相手が意識を失うか、降参するかで決まる。

開催日時は今日から丁度10日後の12月31日である。


時間をくれるのは大いにありがたい。その時間を好きに使えるからな。まあ、とんでもなく無謀な勝負を挑む訳で、死刑を待つ気分にはなるだろうけど。

だがしかし…果たしてジョセフは、それだけの猶予をくれるだろうか?

10日もあればどこか遠くへ逃げることも可能だ。そうなればどうなる?彼が俺に情けをかけるには、リスクが高すぎる。

だが、10日もあれば!10日もあれば!

俺は運命を変えることができるかもしれない!

今やってもほぼ確実に負けるだけ!俺の命運はこれにかかっているのと同じだ。せめて時間をくれ!

「さあ、どうする?」

ノーガがさらに攻める。それにジョセフが頭を抱えながら考えている。当然のことであるが…。

「…あまり長く考えるのはよくないよな。考えが深くなりすぎると、頭の中が整理しきれなくなっちまう。だから、決めたさ」

「!?」

決まった!今ジョセフの中できちんと決まった。ジョセフは頭も良く、短時間での考え事は得意だが、短時間で決まらない場合、彼はすごい思いきる。彼の思いきり方は大胆である。ざっくりと自分へのリスクの高さだけに注目して決めたに違いない!

「じ、ジョセフ…!」

俺は悲鳴にも似た声でそう叫んだ。するとジョセフの眉がピクリと動いた。

「…そうだな。ジーマ、


お前に10日やる。10日後のイギリカ兵大会でオレに勝ってみせろ」


ジョセフ…!!

ありがたい!これで、俺は運命を変えてみせる。

「さあ、もうタイムリミットは1秒1秒近づいているぞ。せっかくやった時間だ。無駄にされては困る」

「お、おう!」

そう言うと俺は、倉庫から飛び出した。

「………」

ジョセフの視線が俺の背中を突いても、俺は構わず走り抜けた。




「…ハァ!」

オレはため息を一つ吐くと、床にドサリと崩れた。

悪人を演じるのはキツい仕事だな。いつだって人間は、自分を変えるために苦労してきたものだが、最終的にも別人になりきれないのは途中で疲れてしまったからだろう。

「いや、お前は悪人だよ、ジョセフ」

「…そんな言い方でも、否定出来ないのが今のオレの痛いところだな。ノーガ?」

オレはノーガを見上げるようにして言った。

「何故ジーマなんだ!あんな仲間思いの奴が殺人なんてする訳…」

言いかけたところで彼はハッとした。きっと何かを思い出したのだろう。彼は目をオレからそらしていた。

「…お前がオレの立場なら、お前はジーマを疑わないのか?」

「あ、当たり前だ!」

「そいつは間違いだよ…。もしジーマがハンターだったらどうする?そのままでは犠牲者が増えるだけだ。ジーマを疑わなかったお前の責任なんだぞ。…オレだってジーマを疑いたくないさ。けどな」

オレは精一杯息を吸うと、その先を続けた。

「ジーマがたまたま、ハンターの可能性が高いからだよ。オレが奴を疑うのは」

「!!」

ノーガは一度驚いたような顔をしてから、さっきのような悲しそうな顔をした。

「…俺、もういくよ。また明日な」

「ああ」


…ジーマを疑っちまった。でもしょうがないことだ。あれだけ辻褄の合った根拠があれば、誰だって彼を疑うだろう。

昨日の深夜、何度唱えたかも知らない。「あいつはハンターじゃない。きっとオレの見間違いだ」と。

そうするたびに、オレは思い出したものだ。オレはオレの責任を果たすと。

…さっきこそそのときだった。だが、


オレは奴に時間を与えた。


「友情とは恐いものだ」

そう小さく呟くと、オレは1人笑った。

オレはジーマの前では、ハンター討伐隊隊長とカッコつけたことを言ったが、結局なりきれてなかったってことだ。

何故今さら友情を感じるのだろう。

「ほうら、やっぱり悪人と言われても否定出来ない」

オレは自分自身に向かって言った。

おそらくジーマとは、今後今までのような関係には戻れないだろう。だが許してくれ。

敵に情けをかけた隊長としての、せめてもの償いだ。




〜今さら設定説明〜


この物語は、もちろんパラレルワールドである。「もし、この世界にダークストーンが存在していたら」


そのため、1700年代という時代設定だが、その時代には存在していない発明品や武器があったりなかったりする。

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