窓を開けて 4
これまでで窓ガラスが割れたような場面は思い当たらない。念のため、浩輔たちにいくつかの質問をした。
「誰が最初に見つけたんだ?」
「喜屋武と寿々木だ。『ちょっと何これ!』っていう喜屋武の声が聞こえたすぐ後に俺たちが教室に入ったから間違いない」
「その時には窓ガラスは割れていたってこと?」
俺は喜屋武と寿々木の方に向かって聞く。
「私たちが来た時からこんなだったよ」と喜屋武さんは言った。ということはガラスが割れたところを見た人は誰もいないってことか。
「その後は?」
一真が話をする。
「愛敬さんに仮谷先生を呼びに行ってもらっている。ただガラスには絶対近づかないようにはした」
「……ガラスの破片は?」
ガラスが割れて穴が開いているというのに破片すら見当たらない。誰かが片づけたのだろうか。
「外にあるんじゃないか?」
俺は隣の窓を開けてベランダを確認した。雑巾を干してあるラック以外には何も見当たらない。今日は風がないから粉々になったとしても飛ばされたということはない。
「あ、あった!」
彼女に場所を代わって見せてもらうと、中には紙テープにべったりと貼りついたガラスの破片が見えた。
「ガラスを割った人は掃いてゴミ箱に捨てたってことか」
「でもこれどうするの?」
御園生さんが聞く。
「まさか拾うわけにもいかないからこのまま捨ててしまうしかないね。確実に何か言われるなあ」
そう言って聖斗ががっくりと肩を落とした。そういえば2人は美化委員か。しかしガラスを拾う方が危ない。美化委員と仮谷先生には怒られてもらうしかない。
「でも割れた時も誰からも見られず、しかも掃除する余裕があったってことだよね? それって避難訓練でみんなが教室に出てから並び終えるまでの間くらいしか時間はなくない? なら犯人は教室を最後に出た人だよ」と御園生さんが言った。
クラス中がチラチラとお互いを見合っている。それに見合う人物がいればそいつが犯人だと言わんばかりに。
いや、教室を一番最後に出た人物は決まっている。
「避難訓練で一番後に教室を出たのは仮谷先生だ。担任は教室を確認しなければいけないし」
「まさか仮谷先生が犯人?」
「そういえば教室にまだ戻ってこないし」
クラスメートたちは本気で仮谷先生を疑っているようだ。普段の態度からしてだらけているから普通はそう考えるだろう。
「でも仮谷先生も結構早く来たよな」
浩輔がつぶやく。1年A組の避難が早かったのは、人数点呼が素早くできたことにもある。
「じゃあこんなのはどう?
犯人は勘違いのうっかり屋さん。ベランダから逃げると思って勢いよく窓を開けたら力が入りすぎて割れちゃったんだよ。そこの窓って開けるのに力がいるでしょ。で、訓練だとはいえ避難に緊張しちゃってベランダに出ようとしたら窓ガラスがバリン。証拠を隠そうとガラスを掃いてゴミ箱にポイ。後はそのままグラウンドに出て列に加わった」
「いや、
喜屋武さんが御園生さんに向かって言う。
「ベランダに向かった人はいなかったし、そんなに緊張しているならガラスを掃いておこうなんて考える?」
「じゃあ何のためかは知らないけれど教室に戻ってきた誰かがうっかり窓ガラスを割っちゃって、ばれるのを恐れてとりあえず掃いた。これならどう?」
「戻って来ちゃったか、確かに避難訓練中に戻ったとばれると怒られそう。でもどういう経緯で窓ガラスが割れたの? そもそも何をしに戻ってきたの?」
「え、えと……ベランダにあるものを取りに来たとか……」
御園生さんはしどろもどろになっている。やがて「
残念ながらベランダにはさっきも言った通り雑巾のラックがあるだけだ。戻ってくるにしても窓周辺には掃除用具入れがあるだけだから窓ガラスが割れる原因があったとは思えない。
「でも、戻って来るときにベランダを使おうとしたっていうのはどう? 1回グラウンドに出ちゃって上履きに砂がついているからベランダから入ろうとしたっていうことは考えられない? 教室内だけなら靴下で歩くのもまあいっかってなるし。で、開けたときか何かに割れたから上履きで上がるしかないと思って履いたまま教室に入り、痕跡を消すついでにガラスを片づけることもできるからほうきで掃いた。ね、できるでしょ」
「そもそも避難訓練で教室に出た後って無理があるよね。放送で避難指示が出てから3分半で全員避難ができちゃったんだから」
聖斗がつぶやいた。しかも1年A組はどのクラスよりも早く全員がグラウンドに集合している。
「わずか3分くらいでそこまでできるかっていうと、無理がある」
窓ガラスが割れたのはもっと前だ。そう確信した時、放送を知らせる電子音が鳴った。
「1年A組蓬莱元気君、1年A組蓬莱元気君、至急職員室に来てください」
ええー、と非難の声が上がる。いいところだったのに、ということか。
「元気……」
聖斗が寂しそうにこちらを見る。
「ちょっと行ってくる」
俺は教室を飛び出した。窓ガラスが割れたのが避難訓練の時でなければあの時しかない。
階段を1階まで降りて俺は渡り廊下の方に行く。昇降口の様子は嫌でも見ることができる。
「もしかして……」
誰があの窓に近づいたのか、見当がついてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます