第35話「盆踊り(我が心の原風景)」

もう歳なので 


行こうとも思わないが


家の前を


下駄の軽い音が


通り過ぎていくと


生ぬるい風が


けだるさを醸し出す 闇の中


山の背に囲まれた 


片田舎の 夜のしじまに 


太鼓の音が 鳴り響く


ドドンガ ドンドン


ドドンガ ドンドン


すると すかさず


月が でたでたぁ


月がぁ でた


アー ヨイヨイ


三池炭鉱のぉ


上にぃ でた・・・


大音量の歌声だが


風の向きによって


聞こえたり 聞こえなかったりしていた


盆だなぁと 


あらためて思うが


今では 昔のような 


信仰心のかけらも 見当たらないように思う


下手をすると


騒音だ なんだと言われて


いつ打ち切られても 不思議のない行事だが


それでも人は


広場に櫓を建て


電球の入った提灯を飾り


櫓の中央に太鼓を置いた 


そして 老若男女が 


四方八方から集うと


三日三晩 


太鼓と大音量の歌声の中で


夢中で踊る


私も 昔は 


夢中で踊った方だ


古くて なつかしい


私の記憶の一ページ


ああ この日本の原風景との言える行事は


いつまで続くのか


時代の流れは


どこまでも 残酷だ



 

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