2章 異世界滞在2日目
5話 初めの任務
『起きてください。朝です』
いつもの萌えキャラの目覚まし時計の音が聞こえる。ぼくは止めようと、目を閉じたまま手を伸ばす。
サワッ 何かに触れた。
ボタン押せたか?
『どこ触ってるんですか!寝ぼけないで下さい!』
まずい。これは一定時間ボタンを押さなかったら早く起きるよう
仕方ない。目開けるか。
「やっと起きましたか。起きて早々悪いのですが、手をどけてもらえないですか。小さいからって、そんな事しても大きくなりませんよ」
「ん?」
指先に柔らかいものを感じる。ふにふにしてる。……ええっと、これは……
「…………!!すみませんでした!」
ぼくは地面に頭をつけ土下座した。いくら寝ぼけてたとはいえ、女の子のあんな部分を触ってしまうなんて……ぼくは最低だ。
「別にいいですよ。無理に起こした私が悪かったです」
昨日より声のアクセントが強い。これは怒っていらっしゃる……?
「いえ、ホントにすみません。怒ってますよね。反省します」
「謝らなくても結構ですよ。怒ってもいませんし。では、朝食を食べに行きましょうか」
すごく笑顔がキラキラしている。その笑顔が逆に怖いんですけど……それに、態度も少し冷酷な感じ……
「では、昨日の宴のあった大広間でまた。着替えはそこにありますので。着替えてから来て下さい」
そう言って部屋の扉に向かい、部屋の外に出てバタン!と強く閉めた。
「……女の人に嫌われやすいのかな……ぼく」
少し気を落としながらも、隣にキレイに畳まれている服に手をつける。
なかなかかっこいいデザインである。赤いパーカーのような服と、黒のジーパンのようなズボンだ。こんな派手な色はあまり好きじゃないが、まあいいだろう。これはこれで結構イケてる。
ぼくはそれをいそいそと着た。……おお、サイズぴったし。こんな着慣れないものを着てたらテンション上がってくる。
「~♪」鼻歌を歌いながらそこにあった姿見を見て少し踊ったりしてみる。
「何してるんですか」
ルミナさんのその一言で一瞬で空気が死んだ。ていうか、何故居るんだ。
「早く行きますよ」
「は……はい」
ぼくは部屋から出た。
部屋の外は、幅広い廊下があり、その壁にある大きな窓から朝日が射し込んでいた。
その
この世界に来て一夜明けた。未来希はどうしてるかな。昨日もずっとその事を考えてた。未来希もぼくの事心配してるのかな。
「裕さん?聞いてます?大広間に着きましたよ」
「へ?」
いつの間にか大広間に着いていた。こんなに近かったのか。それとも、ぼくの考え事が長かったのか。
「もう皆集まってます。私達が一番最後ですよ。私は遅刻したことなかったですよ」
「マジ?ホント、ごめん。昨日からしょっちゅう手間ばかりかけてて……」
「ホントにそうですよ」
ぐはっ……他人から言われると結構精神的ダメージがくるな。
「でも、そんなおっちょこちょいなところ、私は嫌いじゃないですよ」
……なんて嬉しい一言なんだ。こんな事、一度も言われた事なかった。ただ一人を除いては。その人物は勿論、言うまでもない。
産まれた頃から親からほとんど愛情をもらっていなかったから、ぼくにとって褒め言葉を言われると満悦になれる。
「では、時間が少し押しているので、早く座りましょう」
ぼく達は昨夜と同じ席に座った。ずっと思っていた事なのだが、この椅子、木でできていてゴツゴツしてるから痛い。
「よお、裕。昨日は災難だったなあ。ラーブルの酒をあんなガブガブ飲みやがって。」
「そ……それには触れないで下さい。知らなかったんですから、仕方ないですよ」
「はっはっは!!先に教えておくべきだったな!」
ガルートさんは飯食べながら話してるから、色んなところに米粒が飛んでいる。
「もう!ガルートさん!食べながら話さないで下さい!」ルミナさんが困窮したような顔で言う。
「おー、それは悪かった!癖がついちまってるな」
そう言うと、また食べ始めた。ぼくも昨日はあまり食べれなかったので、少しお腹が空いていたから食べる事にした。
皿に盛ってある赤い木の実のようなものが目に入った。それに手を伸ばす。
「ルミナさん、これ何ですか?」
「これはチーレの実です。少々苦いですが、一度食べるとなかなかクセになります」
「へー」
興味深い。ぼくは早速それを口に入れた。……苦い。だけど、ほんのり甘い。その絶妙な味が更に美味しさを引き立てている。グレープフルーツに近い感じ。確かに、これはクセになるな。
次はその隣にあるピンク色の実を食べた。……うげ。イチゴみたいな味がする。ぼくはイチゴ苦手なんだよね……
そのままたくさんの食べ物に手をつけて、お腹がいっぱいになるまで食べた。
「ふぅ~、食った食った」ガルートさんがよくおっさんが言いそうなありきたりな台詞を言う。
「では、これから仕事の発表があるので二階の広場に行きますよ」
「あ、はい。分かりました」
他の席に座っていた人達も、一斉に大広間から出ていく。異世界の人達は、思っていた事を行動にするのが早いな。
ぼくもルミナさんに連れられ大広間を後にした。
たくさんの人がお喋りをしていてとてもにぎやかだ。元々人混みは苦手だが、今はそうでもなかった。むしろ、何故か楽しかった。
短い距離の廊下を渡り、そのまま階段を登ってゆく。
「それにしても、神風裕って名前なんか変わってますよね」
「そうですか?日本ではこういうのが普通ですよ」
「へぇー。知らなかったです。やはり地球は奥が深いですね」
「こっちからすると、この世界の方が変わってる名前だと思いますよ」
「お互い様ですね」
そんな話をしていると、時間が短く感じる。もう階段を登りきっていた。
「ここが仕事を受託する場所です」
そこは、簡単に言えば学校の教室のようだった。広場の奥には黒板のようなものがあって、それを取り囲むように長い机が並べられている。一つの机に三人ぐらい座れそうだ。
「任務は、そこに立ててあるボードから自分宛の任務用紙を取って、そこの任務受付係の人に渡すと受けられますよ」
「ほう。結構ちゃんとしてるんだな。さて、早速任務とやらを受けてみるか」
ぼくはボードを見た。たくさんの紙が貼られていて、どれが自分のなのか分からない。しかしそれ以前に文字が分からない。歴史に出てくるくさび形文字みたいだ。
「あの、ルミナさん。どれがぼくのですか?」
「えっと……あ、ありました」
ボードから一枚紙を剥がすと、それをぼくに渡した。
「えと、なんて書いてあるんですか?」
「えっと、『カミカゼ ヒロに与える。 自己防衛の基礎を学べ』だそうです」
「え?それだけ?つまりは、ぼくは敵から身を守る方法を学ぶと?」
「はい。そのようです。私も初めて任務を受けた時はこれでしたよ」
はは、なんだか本格的だな。ぼくは他の人から援護してもらえるのかと思ってたよ。
「あれ?私のもある……?」ルミナさんはボードからもう一枚剥がした。
「えっと……『カミカゼ ヒロの訓練の支援』?……え?私が?今まで人を手伝う任務なんてなかったからな~……出来るかな」
「なんだよ!楽しくねーな!俺のは無いのかよ」
ガルートさんの雄叫びのような声が聞こえた。何で皆そんなに任務をしたがるんだ……神経おかしいんじゃないか?
「では、任務用紙渡してきますね」そう言ってルミナさんは小走りで任務を受付する場所へ向かった。
ルミナさんはすぐに戻って来た。そして、判子の押された任務用紙をぼくに渡した。
「これは任務が遂行するまで、無くしたらダメですよ」
「分かりました」
ぼくはその紙をボタン付きのポケットに四つ折りにして入れた。
「三十分後に訓練所に集合ですね。私は準備をしてくるので、訓練所でまた。あ、ヒロさんは時間まで暇をつぶしてて下さい」
「は、はあ」
ルミナさんはとてとてと可愛らしい走り方でこの受託室を出た。
「さて、時間まで何をしようか。城の中でも見て廻るか」
そしてぼくも受託室を出た。
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