2話 異世界召喚

「……あれ」


 ぼくは仰向けのまま目を開けた。青く、綺麗な空が見える。……何で生きてる? ぼく、死んだんじゃないの? それよりも、ここはどこだろう? 天国かな。

 辺りを見渡そうと体を起こした。不思議な事に先程までの筋肉痛がすっかりなくなっている。


「なんだここ……」


 周りには、ただっ広い野原と生い茂る木々。そして所々遠くに高い山が見える。天国にしては、質素すぎやしないか? もう少しキラキラしてる所かと思っていたんだけどな……。


「とりあえず、歩くか」


 足を地に着ける度に、草のカサカサという音がする。風も無い。建物も見当たらない。しかも、日差しが強く暑い。今にも気を失ってしまいそうだが、ただ待って餓死とかするよりも、体力を使うが歩いていた方がよっぽど希望はある。



――――――――



 あれからどれくらい歩いただろうか? あれほど長い距離を歩いたのに、さっきからずっと景色が変わらない。太陽も沈みかけて、薄ら月が見えてきた。さすがに疲れきってきたので、少し休む事にした。

 ぼくは近くにあった木にもたれて座った。この時ぼくは、未来希の事を考えていた。せっかくまた逢えたのに。何でこんな事になったんだ……もういやだ。いつの間にかぼくは、涙を流していた。いいさ。どうせぼくは泣き虫ですよ。


「おい、あそこに誰かいるぞ!」


「ラミレイ様が召喚した他の世界の人間か?」


 誰だ? こんなところに人? ……助かった…………ぼくは安心して、気絶してしまった。



――――――――



 柔らかい……ふかふかのベッドに眠っているようだ……ぼくは、ゆっくりと目を開いた。


「あ、起きましたか!」


 綺麗な星空を背景に、こらちをのぞき込んでいる女の人の顔が見えた。髪は肩下くらいのロングで水色。青色の澄んだキレイな瞳をしている。


「え?」


 こんな近くに女の人の顔? という事は、今ぼくが枕にしているものは……


「うわあああ!?」


「きゃーーーー!!!」


 思いっきり飛び上がった。なんてことだ……未来希にもされた事がないひ……ひざ、まく……。


「良かった。大丈夫そうですね」


 女の人はにっこりと笑って言った。


「いやいや、色んな意味で大丈夫じゃないですから!」


「くそ……羨ましい……ルミナさんに膝枕なんかしてもらいやがって……」


 少し遠くから、そんな声がした。


 視線を移すと男の兵士のような人が二人いた。今にも飛びかかって来そうなくらいぼくをにらみつけている。この、ルミナさん? この人に膝枕されていたぼくが、そんなに憎いのだろうか? っていうか、顔が尋常じゃないくらい怖い……。ぼくはその人達に無理矢理笑顔を作って軽く頭を下げた。しかし男二人はまるで気持ち悪い何かを見ているような顔をした後にそっぽを向いてしまった。


神風裕かみかぜひろくんだよね?」


「なっ!? 君呼びだと!? 何故今初めて会ったこんな薄汚いやつにそんな資格が?」


 悪かったな。薄汚くて。


「私、『ブルーレイン』という国の女帝様の護衛兵をやっている、ルミナと言います」


 ブルーレイン? そんな国名は、地球儀でも見た事がないし、聞いたこともない。


「あの、ここはどういう場所なんですか?」


「信じてもらえないかもしれませんが、この世界は、あなたのいた地球という世界とは全く違う世界なんです。あなたは、ラミレイ女帝様にこの世界に喚び出されたんです。」


 ……という事は、ここは異世界なのか。へえー。なるほど。…………って、なるほどではない。異世界? そんなもの本当にあったのか?


「質問ばかりで申し訳ないんだけど、なんでぼくはこの世界に喚び出されたんです?」


 状況があまりつかめないからか、動揺して声が震えている。


「私も、詳しい事はよく分からないんです。とにかく、この辺は危険なので、一旦ブルーレインへ行きましょう」


「はあ、分かりました」


 ルミナさんは立ち上がると、耳にかかっていた髪をかきあげ、ぼくのやってきた方向とは逆方向に歩きだした。……今はこの人についていくのがベストだろう。悪い人達にも見えないし。


「なあ、お前」


 ルミナさんについていこうとすると、兵士に呼び止められた。


「えと、なんでしょう?」


「召喚されたとかなんだか知らないけどな、ルミナさんに変な事したら、ただじゃ済まさないぞ。頭をかち割ってやる」


 と、少し蔑んでいるかのような小さな声で銀色に光る剣をチラつかせた。


「ハハハ。そんな事するわけないじゃないですかー。勘弁して下さいよー」


 冗談ではない。異世界きて、すぐに殺されるなんて勘弁してほしい。やっぱり、会って早々こんな仕打ちを受けるなんてそんなに信用ないのかなぁ、ぼく。


「ちょっとナイラ、カイラ。意地悪したらダメでしょ」


「すみませんでした! 裕さん!」


 何なんだこいつらは。いくら何でも態度が変わりすぎだ。しょうがなく謝ってやるか、みたいな感じ。

 そんな事をしているうちに、帝国らしき場所に着いた。ここがブルーレインなのだろうか。随分頑丈そうな石の壁で囲まれている。


「入り口はこっちですよ」


 ルミナさんが指さした先にはすごく大きな木でできた門があった。数箇所キズがあり、汚れが染みているのか門全体が炭のように黒くなっている。作られて相当年月が経っているようだ。


「ナイラ、カイラ、お願いね」 


「承知しました!」


 二人が門の前に立つ。こうしてみると、彼らが米粒のように小さく見える。そんな彼らが、今から何をするのだろうか。

 少しワクワクしながら見ていると、門を思いっきり押し始めた。オイオイ、そんなんで開くわけ…………すると、ギィィーという重低音のような音を出し、門がゆっくりと開き始めた。


「え、すげー怪力」


「ふふ、やっぱりそう言うと思いました。実はこの門、ギリギリ敵が侵入してこれないまで軽量化してあるんですよ。それと、ちょっとした仕組みもあるんです。それについては後々お話しますね」


「へー。なるほど」


 どうやってそんな的確に重さを決める事が出来たんだろう? 水を染み込ませる? だけどそうしたら、木が腐っちゃうか。


「とりあえず、中へ入りましょうか。ようこそ、ブルーレインへ」


 ぼくは異世界にある国の中へと足を進めた。

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