異世界召喚と歌姫の小夜曲
めもたー
1章 異世界滞在1日目
1話 日常の終わり
「眩し……
顔面に太陽の光が直撃する。3ヶ月ぶりに家を出た。別に学校が嫌いという訳じゃないが、ただ、本当に勉強が面倒くさいだけ。自分で言うのもなんだけど、これでも結構頭良いんだ。だから勉強なんてする必要ないかなーって。でも3ヶ月は流石に休み過ぎたらしい……。
「っ!? ……痛ででででで!!」
全身から一気に痛みが込み上げてきた。筋肉痛だ。こんなひどい痛みは味わった事ない。しかも、暑い。こんな日射しが強い日に学校行くなんて、どうかしてるよ。って、これじゃあ本物の引きこもりじゃないか。
……やっと着いた。息が切れている。ぼくの家から学校まで、300mあるかないかなのに、こんなに疲れるなんて……大袈裟かもしれないけど、マジで倒れそう。早く中行こ。そう思って一歩を踏み出した時、後ろから聞き覚えのある、女性の声が聞こえた。
「ひーくん?」
「え?」
そこには、ぼくの彼女の
「や、やあ。久しぶりだね。なんでここに?」
「最近この辺に引っ越して来たの。それより、あんなに長い間どうしたの?」
「あ、いやー。ちょっと訳ありでね……ハハハ……」
まさか、勉強が面倒くさかった。なんて、言える訳がない。もっと嫌われてしまうかもしれない。
「え、えっと、髪伸ばした?」 会話も思い付かない。
「あ、気付いてくれた? 会った瞬間に何も言わなかったから、気付いてないのかなーって思ってたけど」
「いや、流石に気付くって」
前までは肩にもつかない程の短さだったのに、今はもう少しで腰の辺りまでに届きそうなくらい長い。これはこれで結構可愛い。未来希の小柄な体型に良く似合う。
「あ、遅刻しちゃう。行こ」
「お、おう」
あれ?なんか普通に積極的じゃないか? ……もしかして、ぼくの事、まだ恋人としてみてくれてる……?
――――――――
もう下校時刻。久々の学校はなかなか楽しかった。友達はいないが、便所のトイレットペーパーを補充するとか、廊下を雑巾だけで光が反射するくらい磨いた事とか。筋肉痛が悪化した。今考えると、馬鹿馬鹿しすぎる。周りの生徒はぼくを軽蔑するような目で見てたし。
「帰って昨日やってたゲームの続きでもやろうかな」
「ねえ、ひーくん」
「にょわっ!?」
鞄を持って立ち上がろうとした時、いきなり未来希に話かけられたから、びっくりして変な声が出てしまった。恥ずかしい。
「今日なんか用事ある?」
「いや、特にないけど」
「じゃあさ、帰りにちょっと行きたい所があるんだけど、一緒に行かない?」
「え」
なんてこった。ぼくに、まだそんな権利が。今のぼくの顔は、嬉しすぎてすごいニヤケ顔になっているだろう。
「全然いいよ! むしろ大歓迎っていうか……あ」
つい本音が。これは引かれただろうか?
「いいの? やった! たまにはデートとかしないとね」
……へ? 今、なんて言った? デート。そう聞こえたが……という事は……
「なあ、未来希。ぼく達、まだ付き合ってる?」
「え? 付き合ってるんじゃないの?」
ををををををを。あんな長い間会ってなかったのに、まだぼくを……
「じゃ、行こう?」
「おう!」
僕達は学校を出た。久しぶりに未来希との下校。胸が高鳴る。どこに行くのか尋ねてみたが、「ついてこれば分かるよ」と教えてくれなかった。
未来希とは小学生の頃からの幼なじみ。それまではただの仲のいい気が合う友達に過ぎなかった。しかし、5ヶ月前に付き合い始めて、未来希を初めて女性としてみるようになった。
未来希に告白したのはぼくからだった。あの時は緊張のあまり告白した後心臓が止まりかけて病院送りになった。
そんな5ヶ月前の出来事をずっと昔のように回想していると、未来希が足を止めた。
「ここって……」
着いた先は、喫茶店だった。
「覚えてる? ここで食べたショートケーキ、美味しかったよね」
この喫茶店は、ぼく達が付き合いはじめた頃、ぼくが紹介した店だ。そういえば、また今度一緒に来るって約束してたっけ。未来希がドアを開ける。
「懐かしいなぁ。あの日以来来てなかったからなー……痛っ!?」
「どうかした?」
「いや、なんでもないよ……」
嘘をついた。本当はすごく頭が痛い。急になんだ?これも引きこもってたせいなのだろうか?こんなに鋭い痛み、いままで味わった事がない。
「顔色悪いよ? 帰ろうか?」
「いや、大丈夫だから」
折角の未来希とのデートだ。こんな頭痛ごときで、妨害する訳にはーー
そのとき、悲鳴が聞こえてきた。何事かと思い、悲鳴のした方を向いた。そこに見えたのは、変に蛇行している大型トラックだった。この道はガードレールがない。歩道を歩いていた人が轢かれるのを見た。
運転手は、なにをしてるんだ? こんな大事件を起こしているのに、何故ブレーキをかけない? まさか、飲酒運転? それなら
「ひーくん! 逃げなきゃ!」
まずい。ぼーっとしていた。トラックがもうすぐそこまで迫ってきている。この時、ぼくは初めて死という恐怖をおぼえた。逃げている時間はもう無い。二人とも助かる事は、無理だろう。
ぼくは彼女を喫茶店の中へ押した。死が迫り来る中、ぼくは一言、こう残した。
「ごめん、未来希」
その瞬間、視界が真っ白になった。
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