陽のあたる道を on the sunny side of the street

南 薫

1

小刻みに吐く熱い息が後ろへ後ろへと流れてゆく。

聞こえて来るのはせわしなく繰り返す自分の呼吸音だけ。

三沢菜摘なつみは朝の冷気の中、旭川沿いの道を南に向けてロードバイクで走っている。


前方に見える相生橋のたもとの信号機が点滅している事に気づくと、ふと時間が気になった。

サイクルコンピューターの時刻表示は5:35

大丈夫、間に合う。


菜摘なつみは相生橋を横目にいつもの練習コースを進んだ。

先ず右手に旭川を見ながら土手道を河口まで走ると、そこで県道に道を移して岡山港へと向かう。

そこから児島湾大橋に乗って対岸へと渡れば目的地の金甲山きんこうざん貝殻山かいがらやまは目と鼻の先である。


その児島湾に架かる大橋の急な坂を上り切った菜摘なつみの眼下に湾内の景色が広がる。

化学プラントの光が水面みなもに映り静かに揺れる光景は以前のままで何一つ変わってなどいなかった。


ただいつも横に居た航介の姿が見えない事を除けば…


今からちょうど一年前の12月25日、この先の金甲山きんこうざんで加川航介の事故は起きた。


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