第75話 救世主の出現

 「えーーっ、それでは、次の講演の方をご紹介いたします。

  皆さん、よくご存知の火曜日先生、益田さんでーーす!」


司会者のマイクアナウンスで、何とか壇上に立つ所までは行けた。

原稿を準備してあったが、それを取り出すことも忘れた。


 一礼の後、会場を見てみた・・・。

血圧は多分、生涯の最高値であったろう・・・


「わたしは・・・」 まず、そこで言葉に、詰まった・・・・。

少しざわついていた会場が、静かになった・・。


少しの間を置いて、もう一度言った。


「わたしは・・・・」 そこでも詰まった・・・・。


会場は、水を打ったように静粛になり

誰もが壇上の広志に注目した。


「わたしは・・・・・・・・誰でしょう?・・・・」


 一瞬の沈黙の後、会場は、大爆笑となった!

一番前に陣取った小学生の男の子が腹を抱えて笑っている!


誰も彼もが、隣と笑いあい、割れんばかりの笑い声が

体育館の中に、こだました。


来賓席の偉い手さん達までもが大笑いである。

笑いすぎた司会者は、涙を拭いている。


 広志は、すーーーっと落ち着いて行く自分を感じた。


何やらホッとして、肩の力が抜けた!


 そこから先は、笑顔で話せた。

用意していた原稿は、不要であった。

何も見ずに自然に話せた。


剣道の話、ケガの話 愛犬の話 海の話 山の話・・・。


所々で、笑顔と笑いが巻き起こった。


終わりの拍手は、凄かった!


聞いていたお年寄りの何人かは泣いておられた・・・。


講演は、大成功で終了した!!


 広志の血圧と脈拍は、正常値に戻った。


目は、普段の輝きを取り戻した。


嬉し涙が、広志の傷んだ目を、潤してくれた・・・。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る