第52話 フィナーレのとどめ

 剣道形の審査が終わった・・・。


たくさんの受験者が集められ、別室の筆記試験を促す。

行ってもいいのか?ここで帰るのか?

誰も何も言ってくれない・・。

わからないまま追従して試験を受ける。

「剣道の効果を述べよ」そういう設問だった。

何を書いたのか記憶が飛んでいる。


 再度、体育館中央に集合。

合格者の発表である。

正座して全員が待機する。

丁度、広志の前の列には、さきほどの大学生が座った。

うなだれる広志の眼に入ってきたのは、その学生の

足の裏であった・・。

皮がむけて、むけて、ボロボロになっている・・・。

自分は、ここまで稽古をしていない・・・・。


 案の定、56番は、呼ばれなかった・・・。

おおぜいの受験者がいたが

56番だけが不合格であった。


 役員の訓示、閉会の辞が終わり、大会は終わった。

針のむしろであった。居たたまれなかった。

体育館の全部の視線を背中に感じた・・・。

一刻も早く、消えたい。この場から消えたかった。


 せめて、対戦相手の大学生が合格したのが

広志の唯一の不安解消であった。

自分のせいで、その子まで落とされたら大変だと

心配していたのだ。

自分からみれば、その学生は、孫のような存在である。


 そそくさと防具袋に、面と胴を押し込んでいると

石丸先生が傍に来た。

先生は、さきほどの訓示で

全体的に剣道形が出来ていないことを話された。

うわべだけの動きになっているとの内容であった。


「あれだけ間違うたら、通らんわなあ」

グサッ!と刺さった!!

胸を千枚通しでグサッと突き刺されたと感じた・・。

言葉がなかった、返せなかった・・・・・。

堪えていた胸の何かが噴き出してきそうだった。


 袴のまま帰ることにした。

他の方につられるように正面玄関に出た。

前を歩かれる方の真後ろを歩く形になった。

前の方は、年配で背広姿。何も持っていない。

振り向きざまに言われた。

「追いかけてきてもいかんぜ。判定は変わらんぜ」

「???・・・・・・・。」

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