第9話 嫉妬

深夜1時

お店の閉店時間はとっくに過ぎていた



店主は常連客のシリアスな場面に気を使っているのか?

こちらに来ないように片付けをおしていた



彼は時計を少し見て直ぐに私のほうを向いた



「それから忘れようと生きてきた

そうすることがお互いのため

というより彼女達のためだって思っていた



だけど数ヶ月前

元嫁さんが連絡してきた

「会って話したいことがある」って



何のことやら見当も付かない

悪いことではないことだけを願った



そして待ち合わせの日

彼女と会った



話は娘のことだった



15歳の誕生日

娘に出生の事実を教えたらしい



娘はたいして驚くこともなかったそうだ

それどころか

「でしょうね」というようなクールな返しに驚いたってさ



ご主人も本当の娘のように可愛がってくれていたから

その返しは少し傷ついたらしい



っで娘は「本当のお父さんに会いたい」って・・・



元嫁さんが言うには



「思春期真っ只中だからきっと好奇心から言っているんでしょう

今の生活に不満があるわけではなくそういってるんだから

だけど主人は娘の思いを尊重した言って・・・だからお願いに来ました

あなたに」



驚いたのと同時に戸惑ったよ



即答はできなかった

会ってどうすれば言いかわからなかったから」彼



私は彼から視線を外し



「っで会ったの?」



彼は深く三度頷いた



「はじめは何も話せなくて

無言のまま食事した

俺は少し気を使っていたが

娘は俺に似てるのか普段から無口な様で

たいして沈黙を嫌がっている様子ではなかった



緊張と戸惑いの中

あっという間に時間が過ぎて

ろくに何もないまま元嫁さんへ返す時間になった



「家まで送る」って俺が言ったら

娘は少し困った表情で

「駅にパパが迎えに来てくれるから大丈夫」って言われた



俺は駅まで送ることにしたが

それでも会話は特になかった



駅について

「じゃ」と俺は直ぐに背中を向けたら

「お父さん・・・また会ってくれる?」って娘が振り絞った様な声で言った

驚いたよ

「お父さん」って言う言葉に衝撃的な感情が走った

今までにない感情がこみ上げた

そして直ぐに

「また会ってくれる?」

俺なんかとまた会いたいなんて・・・父親の様なことはできなかったし

楽しい会話だって特になかった

ただ時間が過ぎただけなのにまた会いたいって・・・

「ああ」

としか返せなかった」彼



「なんだか可愛いね・・・娘さん」



彼は深く頷いて



「それから月に一度から二度

俺の家に泊まりに来るようになった

相変わらず会話は少ないけど

時々笑顔になることもある



父親らしくはまだなれていないけど・・・」彼



彼は少しはにかんだ

とても幸せなんだろうと思わせる表情は

私と居るときには見せたことのないものだった



私は大人気なく嫉妬した



しかし

直ぐに我に返り小さくため息をつき心を整えた



「っで?最近会ってくれなかったのね

お父さんは愛娘に夢中で・・・」



少し皮肉交じりで返すと

彼はにっこり笑って



「そうかもしれないな」彼



意地悪で素直な返し



普段なら何とも思わないけど

今日の私は・・・それを受けるほど心は大人ではなかった



私はしばらく握られていた手を静かに離した



彼は少し驚いたけど

また小さく笑って私から目をそらした



「今日は帰るね

そんな話の後に娘さんが眠るベットに入る勇気はないわ

ごちそうさま」



少し声が震えた



意地を張った自分がちょっとだけ情けない



彼を見てしまうと

引き止めてほしくなるから



見ないようにした



カウンターに一万円を置き

私はそそくさと出て行った



「ありがとうございました」店主

私が店を出ようとしていることに奥に居た店主が気付き慌てて声をかけた



私はお店の戸を後ろで手で閉めて

少し下を向いたら

ポツリと涙が一粒



何かに負けた後のような

胸の奥をギュッとつかまれた様な苦しい悔しさを感じた

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