第5話 告白

時計の針は十時を過ぎ

彼は日本酒から焼酎へ切り替えた



いつもよりも多く飲んでいるように思えるのは

私の驕りだろうか?



「娘さん・・・よく来るの?

って言うか子供居たんだね」



私は平然を装って精一杯明るい声で返した



彼は渋い顔をして話し始めた



「お前に何も話してなかったよな

俺・・・過去に結婚経験があるんだ」彼



そんな事は知っている

私はそれより子供が居たことに驚いているんだ



彼は続けた



「相手は大学2年の夏

合コンで知り合った隣の大学に通う子だった」彼



合コンに行く人だったんだ・・・今の彼からは想像付かないほど

普通の学生像に少し新鮮さを感じた



「彼女は大学に入ったばかり19歳だった

彼女とは付き合うとか好きだとか言うよりは

・・・その場ののりのような関係で・・・

求め合うばかりで決して大切になんてしてなかった」彼



『・・・その場ののりのような関係で・・・』って

何故だろう彼の口からそんな事聞くと

私が言われたわけではないのに傷つく



「そんな関係も3ヶ月過ぎ

彼女から妊娠を告げられた

信じられなかった

俺達は毎日のように会って言い合いをしてた

そうこうしている内に彼女はつわりが始まって

気が付くともう判断するにはギリギリの時まで来ていた」彼



私は彼が話し出した思いもよらない物語に聞き入った

上手に相槌を打つ余裕はなかった



「彼女は日々おなかの中の命へ愛情を募らせていった

一度たりとも『中絶』という言葉を口にしたことはなかった

俺はどんどん進んでいく現実にいつも取り乱していた

俺がウダウダしているから彼女は一人でも産むと言い出した

そんな頃になっても

俺はまだまだと逃げ方を考えたけど

どれも卑怯で身震いがするほど格好悪くて

そんな事はできなくて

最終的に一番折り合いがついたのは覚悟を決めて

二人で力を合わせて生きていく事だった」彼



大学生の頃の彼は

とても頼りなくてずるくて情けなくて・・・

マダマダ自分達も子供だから

命に責任を持つなんて軽い気持ちでは言えない

言っていない彼は少なくとも誠実だと私は思った



「親たちからは死ぬほど罵倒されたよ

だけど中絶するにはもう遅すぎる頃にまでなっていて

親たちは認めざる得なくなっていた

お互いに勘当された様な形だった

子供を産むという現実だけ伝えて

家を出たんだから・・・」彼



知らなかった

親・兄弟の話しは聞いたことなかったから

こういったことがあって今も家族とも距離を置いているんだって

何となく分かった



時計は十一時を過ぎて彼は私の好物な板わさを注文した

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