第16話 左と右
藤井先生が麻耶子の手を包み込んでから数分後
時計をチラッと見た
「そろそろ帰ろうかな
渋澤の分も一緒に計算して」藤井先生
「もう帰るんですか?」バーテンダー
バーテンダーはにやりとしながら名残惜しそうに精算の紙を渡した
二人は一緒に店を出た
少し周りを気にしながら
藤井先生はまた麻耶子の手を握った
麻耶子は少し照れ笑いを浮かべる
少し歩いた先で藤井先生は立ち止まった
右に行けばホテル街
左に行けば大通り
「どうする?帰る?それとも・・・・・・一緒に居る?」藤井先生
”藤井先生が誘っている”
そう思うだけで麻耶子のドキドキが止まらない
しかし
こんな時に栞の事が頭に浮かぶ
栞を裏切っていいのか?裏切ることになるのか?
私達はもう終わっている
だって もう数ヶ月連絡はない
由香とイチャイチャしてたし
きっと栞のほうが先に違う道を進んでいると思う
本当に終わっている?ちゃんと確認はしてない
もし 終わっていなかったら・・・・・・
頭の中をぐるぐる栞が巡る
「渋澤 困ってるね・・・・・・ごめん」藤井先生
そう言って手を離した
麻耶子は慌てて
「困ってなんかないです
ただ この状況を予測していなかったもので・・・・・・正直戸惑っては居ます」麻耶子
藤井先生は髪の毛をぐしゃぐしゃっとかき上げて
小さくため息をつく
「俺 駄目だな・・・・・・帰ろう」藤井先生
そう言って左側に歩き出した
大通りに出て直ぐにタクシーを止めた
こんな時にはすぐに捕まるタクシー
もっと手間取ればもう少し考える余裕もできたのに
藤井先生は
すんなり麻耶子をタクシーに乗せた
行き先を告げ
ドアを閉める前に
「渋澤・・・・・・ごめん
今夜のことはなかった事にして!」藤井先生
そう言ってドアを閉めた
藤井先生はバツが悪いからか?
あからさまに目をそらした
”バタン”
という大きめの音で夢から覚めた
一瞬だけ見れた夢だった
叶わなかった恋が時間をかけて実りかけた
だけど
現実が見えたとき
冷静さが目を覚まさせた
終わった
長い時間がかかったけど
この恋が完全に終わったのが分かった
これで良かったんだ!
その場の欲望に任せて突き進んでも
良いことは一つもない
だってこれから始まろうとしていたのは
”不倫関係”
ドラマの様には綺麗ではいれない
好きなだけで進めば
傷つくのは自分たちだけでは済まない
家族・友人・上司・部下・奥さん・・・・・・栞
皆を失望させる
そんな覚悟は麻耶子にはなかった
きっと
藤井先生にも・・・・・・
”今夜だけの思い出”
とは行かない
きっと後戻りはできなかった
何度も言い聞かせる
これで良かったんだ!
これで良かったんだ!!
タクシーをマンション下で降りて
部屋に入ると灯りがついている
恐る恐るリビングへ行くと・・・・・・栞
”えっ?”
栞は白いソファーで眠っていた
携帯を確認する
何も入っていない
どういうこと?
麻耶子は栞の横に座って声をかける
「栞」麻耶子
肩を揺さぶるとやっと目を覚ました
「麻耶ちゃん遅いよ!今 何時?」栞
目をこすりながら時計を見る栞
時計は24時を過ぎている
「ごめんね
来てるなんて思わなかったから
って言うか
もう来てくれないのかと思った」麻耶子
栞は麻耶子に顔を近付けて
「お酒?」栞
麻耶子は小さく頷く
栞は少し下を向いて
「誰と?」栞
麻耶子は小さな声で
「一人・・・・・・部屋に帰っても時間をどう使っていいかわからなくて」麻耶子
栞は微笑んで麻耶子を抱き寄せた
「ごめん 一人にして・・・・・・淋しかった?」栞
麻耶子は小さく頷く
「色々と思ってて
一人で怒ったり勘ぐったり嫉妬したり
そしたら ものすごく疲れちゃって・・・・・・急に麻耶ちゃんに会いたくなった」栞
栞は真っ直ぐな目で麻耶子を見つめる
綺麗な瞳
「好きだよ・・・・・・麻耶ちゃん」栞
麻耶子は小さく頷く
麻耶子の表情をみて栞は満足気に麻耶子の髪を撫でキスをした
久しぶりのキス
体中に血が巡るのが分かった
栞の柔らかい唇が気持ちいい
少し目を開けると栞と目が合った
はにかむ栞
麻耶子はギュッと栞を抱きしめる
”良かった・・・・・・右を選ばなくて”
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