第6話 KISS

麻耶子が23歳の頃のクリスマスのその後の話し


熱が下がり

本調子になったらもう年末だった


怒っているからか?収一からも音沙汰がなかったので

”ごめんなさい”はあってから言いたかったから

麻耶子も連絡はしていなかった


麻耶子は久々に大学へ

今年最後の授業に出れなかったので

ゼミの先生の部屋に挨拶へ行った


先生も体調を気遣ってくれて


「渋澤くん(麻耶子)は優等生だから頑張りすぎたんだな

でも 医者になろうという人が自分の体調も管理できないのはいけないよ」ゼミの教授


そう言ってくれた


12月もあと1日で終わるということで

大学にはほとんど学生は居なかった


麻耶子は鞄から携帯を取り出し

収一にメールをしようとする


”今 どこに居る?

今日 会えないかな?”


送信しようとしたとき大きな風にあおられて

一瞬ふらっとした

髪を整え前を見ると・・・・・・


遠くだがしっかり分かった

目を疑う場面を目の当たりにする


収一が女の子と歩いている

ただ歩いているのではない

女の子は少し背が低いからか?収一にぶら下るように腕を組んで

収一もデレデレした笑顔で彼女を見つめながら歩いている


理解ができない


二人だけの世界にいる収一と女の子はどんどんこちらに近づき

立ち尽くす麻耶子の目の前に来てにはじめて気が付く


収一は明らかに動揺している

見たことないほどコミカルな驚き方にアッケにとられる麻耶子

女の子は何かに気が付いた様で急いで絡みついた手を解いて小さく頭を下げて逃げていった


収一は何歩か前に出て追いかけようとしたが

立ち止まり麻耶子のほうを見た

麻耶子にはまだ理解できない

呆然としている


すると収一が話し始める


「病気 治ったの?」収一


頷く麻耶子


「どうして今日はここにいるの?」収一


「教授にご挨拶できていなかったから・・・・・・来てた」麻耶子


「そっか・・・・・・」収一


「あの・・・さっきの子は?」麻耶子


収一はばつの悪い顔をして

言葉を選ぶように話し始めた


「最近 彼女ができた」収一


「彼女?最近?」麻耶子


つい大きな声で復唱してしまう麻耶子


「24日に麻耶子に振られて落ち込んでるときに彼女が慰めてくれて

もったいないから一緒に★★パークに行った

っで付き合い始めた」収一


今の収一の話には疑問なことがいくつもあった


24日に麻耶子に振られて?

そこで私達・・・・・・終わっていたの?


落ち込んでいる時に彼女が慰めてくれてもったいないから一緒に・・・・・・

その日のうちに違う子と会ってそんな話して

★★パークではしゃいだの?


っで付き合い始めたって・・・・・・展開速くない?


私達の約4年間はたった1日で終わって

たった数時間で次へ進むことができるほど軽々しいものだったの?

と麻耶子は心の奥で叫んだ


麻耶子は別れたつもりは全くなくて

今日にでも会ってちゃんと謝って仲直りしようって・・・・・・

お詫びのキスでもしようかなって・・・・・・馬鹿みたい


収一はいろいろと言い訳のようなことを話していたけど

もう麻耶子には何も聞こえなかった


「もう分かったから・・・・・・サヨナラ」麻耶子


頭はパニックで

心はボロボロで

帰り道 どうやって帰ったのか?


気が付いたら自分の部屋に居た


服を部屋に脱ぎ捨てて

毛布に包まって転がったら

涙がポロポロこぼれた


息が苦しい

どうしていいかわからない

振られたことが悔しいのか?

知らないうちに終わっていたことが悔しいのか?

ただただ情けないのか?

よく分からなかった


「麻耶ちゃん!」


その声にビクッとして毛布から顔を出すと

そこに立っていたのは・・・悠介の友達の栞


麻耶子は涙を手で拭きながら起き上がり平然を装って髪を手ぐしで整える


「どうしたの?栞ちゃん」麻耶子


明らかな涙声


栞はスタスタと麻耶子に近づく

しゃがみこみ目線を合わせた

じっと見つめる大きな黒目が愛らしく

不覚にもドキッとする

麻耶子は目をそらす


栞は四つん這いになるようにベットに両手を付き麻耶子に近づき

そっとキスをした


”えっ?”


またもや

よく分からない展開

麻耶子は固まる


栞のふっくらとした柔らかい唇が麻耶子に一瞬触れて

その優しい感覚が伝わった瞬間

麻耶子の頭の中は真っ白になった


直ぐに我に返り麻耶子は避けるように離れる

”ガタン”

と音がなるっほど壁に背中を打った


「何?どうしてここにいるの?今 何したの?」麻耶子


悠介の所に遊びに来ていたのだろうけど

ここにいる意味が分からない

キスしている意味が分からない


明らかに動揺して何を言っているのか分からない麻耶子に栞は微笑みながら


「麻耶ちゃんの部屋の前通ったら

重症っぽかったから・・・・・・」栞


栞はそれを言い残すと部屋を出て行った


麻耶子はすっかり涙は止まっていた


高校生のくせに

ちょっと優しかった

高校生のくせに

妙に色っぽかった


栞の不可思議な行動ばかり考えていた

ドキドキとした鼓動は

しばらく鳴り止まなかった


その夜

栞は麻耶子の家で夕食を食べて帰ることになった

悠介の親友だし

いつも遊びに来ているから

そんなことはよくあることだったけど

その日の麻耶子は気が気ではなかった


だけど栞はいつも通り


「悠介のお母さんのしょうが焼き大好き~」栞


とニコニコガッツリ食事している

母もそんな素直な栞がお気に入りでニコニコ


「悠介も栞ちゃんみたいに可愛く美味しいって言ってくれたらママは嬉しいのに」母


「いわね~よ!そんなお世辞 子供が言ったら逆に気味悪いだろ!!」悠介


「お世辞じゃないけどな」栞


いつも通りの食卓


麻耶子は少し食べて

箸をおいた

感情が混戦していて上手く食べられない


みんな不思議そうな顔でみる


「どうしたの?麻耶ちゃん?」母


「ゴチソウ様」麻耶子


「姉ちゃんおかしいんだよ今日

さっき部屋で一人で騒いでたよね?」悠介


ドキッとする

「えっ?いつ?何?」麻耶子


思わず栞を見てしまう

栞は何事もなかったように知らん振りで食事をしている


「ね 変でしょ?勉強しすぎなんだよ!

なんだか必死だから頭がおかしくなったんじゃないの?」悠介


母が麻耶子のおでこに手を当てて熱をみる


「もう熱はないみたい」母


麻耶子は顔を真っ赤にして自分の部屋に上がっていった

母は首をかしげながら


「年頃の娘を持つと・・・・・・」母


そういって小さくため息をついた



数日後

色んな人から色んな話を聞いた 


収一のこと


あの小さい彼女は看護科の2年生で

前々から収一に告白したりしていた子らしい


断られても断られても懐いてきて

収一は優しいから

友達としてメールしたりしていて

最近では麻耶子との恋愛相談なんかもしていたって


そして今回のことで・・・・・・急接近したって

全くそんな事知らなかった

そんな子が近くにいたなんて事も全く


友達は衝撃的な失恋の後で

麻耶子があまりに悲しすぎて振り切れてしまったと思っているようだが


あの日あの瞬間はひどく傷ついたけど

今はどうでもいい


収一のことも小さな女の子の事も

何とも思わなかった


今はあのキスの事が頭から離れない

高校生とのキスなんて口が裂けても誰にもいえないけど・・・・・・

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