第3話 ごめん
今夜は久々に職場の飲み会
いつもは断っているのだが
今回は絶対に参加するようにと医局長より釘を刺されている
医局長は父の同期で昔から知っているだけあって監視されている様で
たまに息苦しい
父よりは温和で話はしやすいのだが・・・
麻耶子は私服に着替え携帯を確認する
栞からメール
”今日は遅くなるの?
部屋で待っててもいい?”
2時間以上前に入ったメール
”待っていてもいいけど
遅くなるかも
もし明日早いなら
こないほうが良いかもよ”
麻耶子は返信する
そしてタクシーに乗り込み集合場所のお店へ急いだ
おしゃれなイタリア料理屋
こんな所で・・・・・・珍しい
だいたいは料亭や個室の取れるダイニングバーなのに・・・・・・
麻耶子が店に入るとウエイターが笑顔で寄ってきた
「★★病院の・・・」麻耶子
と小さな声で言うと
ウエイターはさらにニッコリと笑顔になり
「こちらでお待ちです」ウエイター
麻耶子はウエイターに案内されて半個室になっている部屋に入る
中には医局長と同僚の医師である斎藤先生(33)が二人
麻耶子は一瞬戸惑う
まわりをキョロキョロ見るが
残された席はあと一つ
どういうことなのか?理解できていない
医局長は立ち上がり
空いたた席を指して
「麻耶子先生 座って下さい」医局長
麻耶子はぽかりとした顔で頷き席に着いた
「あの・・・・・・これはどういう?」麻耶子
すると
医局長は咳払いをし改めて言った
「じつはね
今日は斎藤先生と麻耶子先生との親睦会ってことで
普段はなかなかプライベートな話をすることも無さそうなので
こういう機会に・・・・・・ね」医局長
麻耶子はまだ理解出来ずに
「どういうことでしょうか?」麻耶子
医局長は席を立ち
「じゃ今日はしっかり仲良くなって!」医局長
そういい残し部屋を出て行った
そうこうしている間に
料理が運ばれてきた
すごいご馳走
「さ 食べましょうか?せっかくですから」斎藤先生
そうすすめられてフォークを持った
「今日は医局の親睦会だって聞いていました」麻耶子
斎藤先生は少し考えて話し始めた
「すみません
正直にお誘いしたら断られそうだったので
この様な形で行こうと
渋澤先生(麻耶子の父)と医局長との間で話が持たれたようで・・・・・・
実はお見合いというか引き合わせというか
その様な会なんです」斎藤先生
「そんな・・・・・・どおりで・・・・・・
医局の誰も今日の話をしていないから珍しいと思っていました
しかし
こんなやり方をするなんて
父も父だし医局長も!!」麻耶子
少しムッとする麻耶子を見て
にやける斎藤先生
「えっ?」麻耶子
「すみません
麻耶子先生のそんな可愛い表情始めてみたので」斎藤先生
麻耶子は赤面する
「せっかくなので食事を楽しみましょうよ」斎藤先生
麻耶子は小さく頷いた
すると斎藤先生は手際よく麻耶子の皿に料理を取り分ける
「嫌いなものは?」斎藤先生
「オリーブと辛いものは苦手です」麻耶子
「では アラビア-タは避けておきましょうね」斎藤先生
麻耶子から見ても始めてみる斎藤先生
こんなに優しい笑い方するんだ・・・
少し見とれてしまう
普段は大きな声で研修医を怒る事もある少し怖い人
若いのに優秀らしく
院内でも一目置かれた存在
ナースの中には斎藤先生ファンは居るらしいが
そのクールさで近づけないといううわさを聞いたことがある
もちろん
同じ医局に居ながら麻耶子自身もあまり会話をしたことはなかった
父と医局長に騙される形で来ては見たけど
意外なことに麻耶子は嫌な気持ちはしていなかった
それはきっと
斎藤先生が思っていたより話が上手で
笑顔が優しかったことを発見できたからだと思う
二人はいろんな会話を楽しみながら
ご馳走を完食した
お店を出た二人は大通りまで歩く
少し白ワインを飲みすぎたせいか?
ひんやりした風が気持ち良い
斎藤先生は麻耶子のタクシーを拾う
「本当はもう一件誘いたいけど
はじめての食事だから今日は解散します
でも
次は直接誘いますから・・・宜しくお願いしますね」斎藤先生
そう言うとタクシーに麻耶子を乗せて運転手さんにお金を預ける
「大切な人なので部屋の下まで必ず送ってください」斎藤先生
そしてドアを閉めニッコリ笑って手を振った
麻耶子は小さく会釈しながら斎藤先生を見た
タクシーが進み斎藤先生が見えなくなった頃
さっき斎藤先生が運転手さんに言っていたことを何度も思い返した
大切な人・・・・・・
大切な人・・・・・・
大切な人・・・・・・
さりげなく言ったその言葉がなんだかドキッとした
タクシーの中で
携帯を見る
もうすぐ23時
栞からメール
”遅くなっても良い
部屋で待ってる”
けっこう前に入っていたメール
食事をしている間
一度も携帯を見なかったから気が付かなかった
少し罪悪感
マンションの下でタクシーを降りて
急ぎ足で部屋に入る
リビングからテレビの音がしている
「遅くなってごめん!」麻耶子
麻耶子はそう言いながらドアを開けると
栞はソファーにもたれかかり眠っている
まるで小さな子供のような寝顔
テーブルには飲みかけのストレートティーと食べ終わったお弁当の空がコンビニの袋に入れておいてあった
きっと待ちくたびれて眠ってしまったんだろう
「栞・・・・・・栞くん・・・・・・」麻耶子
何度か声をかけるが全く起きないので
麻耶子はブランケットを持ってきて栞にかけた
すやすやと眠る栞の顔を見ながら
心の中で”ごめん”と呟いた
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