シュガーフラワー・シークレット

「自分の名前の由来(ゆらい)を知ろう!」

y市立西見台小学校西棟2階3年2組4列目の教室の机に設置されたワラバンシに浮かぶ明朝体。下に少し小さい時で由来とは・・・と以下文字が延々細々と続く。

周囲の賑やかと黒板の空間圧迫の中、この冷えた文字は無駄に映えていた。とても無駄。嫌だった。

「おうちの人に聞いてきてね。今週の木曜日までに提出です」

宿題らしかった。やっぱり、嫌だった。


4階の玄関を潜るとウインナーと玉葱の臭いがした。チャーハンのようだった。某の公園で某の花が咲いた地域のニュースを読むアナウンサーの無機質な声が八畳間と木製の安物のコタツの滑らかな机上をつやつや滑る。

私は靴を後ろ向いていったん並べ、どしどし廊下を進みリビングにつきランドセルをカーペットに盛大にスライドをさせる。

「つかれたー」

「あら、はな、お帰り」

母親の声が部屋にこだまする。

「今日は焼き魚よ」

確かに魚を焼いたような臭いがする。臭いがする、気がする。

ばふっ、ソファーにたおれこむ。私をうけとめずぶずぶ沈むソファーは優しい。人工革の冷たさがもたらす安心感から視線をそらして、壁時計を見ると4時。ああ6時からエレクトーンがあったはず。私はそれまでにご飯を食べなきゃいけない。小学四年生は四年生で年齢相応に忙しい。

宿題を終わらせなきゃな。

ぼんやりした頭でぼんやり思う。算数のドリルと、ワラバンシ。

とりあえず算数から着手することにした。

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