流浪の旅語り

漆屋 正

第1話 ラルゴ・ウィンダム

俺の名前はラルゴ・ウィンダム。まぁ、特に取り柄もない旅人だ。

生まれ故郷のガラシ村を出て風の吹くまま気の向くままに旅を続ける。

実家はボロい喫茶店だ。幸い、村人の好意で常連客に恵まれている。

弟のテルゴに店を任せて飛び出してきた。

喋る鳥のギアも連れている。こいつにまたがってあちこちを回る日々だ。

金がないから釣りや採取で食べ物を探す。

たまには安宿に泊まりもするが、そんなことは滅多にない。

日雇い仕事で路銀を稼ぎ、月に一度だけ安酒を飲む。

今の目的は嫁探しだ。叶うなら、白髪の似合う女性に会いたい。

・・・といった具合は表の顔。

裏の顔は『影』を除霊することだ。やりごたえのある仕事。

俺の魔法は時と風を操るもの。幻想を奏で、未練を残した『影』たちを癒す。

一度に入る額は中々なもんで、実家への仕送りに役立っている。

まぁ、旅に大金は追いはぎを寄せるだけだ。もっているだけしょうがない。

『影』たちは悪霊のような者だ。しかし、幽霊とは少し違う。

この世界には『影の母胎』と呼ばれるものがいる。

これが影の破片を産み落とす。破片が未練を残した幽霊と契約し、悪霊もどきの『影』となるんだ。なんで幽霊たちと契約するのか、なんでわざわざ悪事を働くのかは分からない。ただ、八つ当たりの手伝いをしているだけなのかもしれない。

いづれにせよ、『影』はひどく厄介なものだ。魔法で強引に倒すこともできないし、倒すべきでもない。未練を聞いてやる必要があるんだ。

八つ当たりでも理由がある。不満不平、恨みを知ってやらねばならない。

もっとも、未練を代行してやるかは別の話だ。俺に出来るのは癒すことだけ。

心を落ち着かせる薬を造るだけだ。時を紡いで相手の思い出を呼び寄せる。

風で流して幻想に仕上げる。そうしてやると、悪霊たちも静まっていく。

医者で例えるならヤブかもしれない。その場をしのがせて去らせるのが仕事なのだから。それでも、悲劇を連鎖させてはいけない。世俗は正義と呼んでくれるが、心境は中々に複雑なものだ。『俺が同じ立場になったなら?』なんて考えると胸が痛む。必死に叫んでも厄介払いされるだけなんて辛いだろうから。それでも、人の心は自分の幸福以外に目がいかないものだ。向けたところで苦しいだけだから。俺の仕事は正しいものか、妥協なのか。そんな思いを巡らせながらギアにまたがり荒れ地を進む。次の街までどれくらいか?本音を言うと知らないし考えてもいない。街につくより寝床を見つける方が先だ。今食えるものを食って、飲めるものを飲み、眠れるうちにぐっすり眠る。考えるべきはその時々だ。しかし、人のにぎわう場所を求める。街で見世物でもみて、賭け事をして、特産のものを食らう。それが楽しみだし、楽しむべきものだ。そうでもなければ旅は続かない。生まれた村に帰りたいと願ったことは数えきれない程にある。それでも旅を続けたい。旅人であるうちだけは束縛にあわずに済むから。人に好かれる弟に煩わされることもない。孤独が好きなわけではない。でも孤独にならざるを得ない。まぁ、ギアとの二人旅だから一人になることはまずないがね。


「しっかしひどい砂漠だな・・・眠れる場所なんてあるのかねぇ」

「ラルゴ、なくても寝るのが旅人ですよ」


ギアに正論を吐かれる。分かってるけどよ、この暑さはちと辛い。

生き物一匹いやしない。今夜はサボテンの実くらいしか食えそうにないな。

ギアには物足りないだろうが仕方がない。

食い物に困るのは日常茶飯事だ。食う物がないけれど・・・・。

さてさて、次はどんな街につくかねぇ・・・。

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