第2話
そもそも、接点などあるはずもなかった俺たちに何があったのか。話は、二週間前に遡る。
「なあなあタカキ、あれってどうなってんだ?」
「んー、どうってなにが?」
昼休み、いつもは適当に囲んでくる女子から受け取った弁当を食べていたが、今日は部活の昼練がないという斉藤健と、屋上でパンをかじっていた。ちょっと派手な見た目のせいで、高校内では男女関係なく「王子」呼びされるのだが、唯一斉藤だけは自分のことを名前で呼んでくれる、タカキにとっては貴重な友人だった。
「お前、早乙女タカキって名前もイケメンだな」
入学早々、女子に囲まれてへらへらしながら内心困惑していたタカキは、突然目の前の席の男子に話しかけられて正直ほっとした。初対面のはずなのにきゃあきゃあと自分に騒ぐ女子の扱いに困っていたからだ。
「んーそうかなー、君の名前は?」
「俺は斉藤健!よろしくな、タカキ」
今までのらりくらりと当たり障りない会話をしていたタカキが斉藤と話をはじめたのを見て、囲んでいた女子たちは、王子また話そうね、と名残惜しそうに声をかけてちりぢりになっていく。
「わり、なんか邪魔したか?つかお前王子ってなんだよ、俺も王子って呼ぼうかな」
ぷくくと笑いをもらして肩を震わせる坊主頭を軽くはたいて、
「笑わないでよ、普通にタカキって呼んで」
その日初めて、タカキは心からの笑みを浮かべた。
すらりと伸びた手足に、モデルのような八頭身。ふんわりとかかったウェーブの栗髪に、甘い目元をした俺はイケメン、らしい。自分ではいまいち軽薄そうで好きじゃない顔だが(もっとガタイの良いゴツい漢になりたい)、小さい頃から女子(やその母親の奥様方)に囲まれ、イケメン王子とちやほやされてきたため、自分の顔の受けがいいことは嫌でも十二分に理解せざるを得なかった。そんなタカキはこれ幸いと言い寄ってくる女子を食いまくっている――――という噂はまったくのデマであり、過去に何度か女性に無理やり迫られた経験もあって(そのへんの男子には羨ましがられるだろうが)、女子が苦手なのだった。しかしながら、家庭で幼少期より鍛えられたイエスマン根性(三人の姉に逆らえたことは一度もない)と、面倒くさがりな性格から、基本女子に囲まれてもへらへらしてしまい、噂に拍車がかかるという悪循環だった。
それから、常に女子に囲まれているタカキに関わってくれる男子は斉藤だけになり、タカキは斉藤のことをひそかに唯一の親友として全幅の信頼を寄せるようになったのだった。
斉藤は野球部に所属しているため、朝から夜まで練習に忙しく、こうして昼休みにのんびりと昼食を共にできるのもテスト前の部活動禁止期間のみのつかの間の貴重な時間だ。
「どうって、あれだよ、お前のファンクラブ。なんか最近過激化してるってもっぱらの噂だぜ」
「ファンクラブ?」
「……お前ってつくづくそういうヤツだよな」
斉藤はコロッケパンをむしゃむしゃと咀嚼しながら器用にもタカキに説明をはじめた。曰く、タカキには入学早々ファンクラブが創設された、曰く、ファンクラブには鉄の掟があり、抜駆け厳禁、曰く、最近では制裁まで行われている、などなど。
「俺にファンクラブ?っていうか制裁ってなに」
「お前まじで知らねえの?全校で有名だぜ、早乙女タカキ親衛隊。校内の女子の半分は入ってるって噂で、最近じゃタカキに拒否されないのをいいことに、本人公認だなんだ暴走してタカキに関わった女子生徒片っ端からしめてってるらしいぜ」
ひゅう、と口笛をならしながら斉藤は女子ってやることえげつねえよなあとぼやく。
「親衛隊ってどこぞのファシズム政権だよ…。俺は正直毎日毎日囲まれるのに迷惑してるし」
きれいな眉根を寄せてはあ、と溜息をつくタカキに、斉藤は、あれ、と声をあげながら問いかける。
「タカキでもお前、親衛隊の登下校ローテとか弁当ローテとか移動教室ローテとかとくに文句言わずに付き合ってんだろ?それで親衛隊も本人公認だって調子のってんじゃねえ?」
「なんだよそんな恐ろしいローテ…。俺は囲んでくる女子の言うことに従ってるだけだよ…。昔一回断ろうとしたら、何で自分じゃ駄目なのかって廊下の真ん中で泣き喚くから、仕方なくだよ」
「お前、なんかまじで不憫だな……」
斉藤は遠い目をタカキに向けて、ほらよ、と購買のクリームパンを差し出すと、タカキは柔らかく目を細めてありがとう、と眩しい笑顔を斉藤に向けた。
「まあお前見てたら女子が群がるのも仕方ないっちゃ仕方ないよなー、お前まじでイケメンだし」
「俺は斉藤と一緒にいるほうがずっと楽しいよ?」
「お前な…そんなん他で言うなよ、お前をホモにしたって俺が制裁くらうから」
斉藤は俺が守る、と無駄にイケメンな友人を放っておいて斉藤はうんうんと唸った。いまはまだ制裁とは言ってもささいな嫌がらせ程度だが、こういうことはエスカレートするのがはやいのだ。
「なあ、タカキ」
「なにー?」
「お前、彼女つくれば?」
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