未来創造部

からめる

始まりor終わり

このニュースを見るのは何度目だろう。


『先月、高校生2人がトラックに撥ねられるという事件がありました。高校生2人は依然として意識不明の重体。そしてトラックの運転手は行方を眩ませています。』


ホントに何度目だよ。なんて、この呟きは目の前にいる彼には届いていないのだろう。


「待ってんだよ。1ヶ月だぞ。あいつも待ってんだよ。」


涙を噛み締めながら放ったこの言葉も恐らく届いてはいない。山から流れてきた冬独特の白色の風が冬に似合った白で統一された病室の窓を叩いてる。


同病院の近くの病室で、似たような事を眠っている女子に向けて語りかけている人がいた。


「きっとあの人も待ってますよ。早く、目を覚まして。」


この人の言葉も目の前の彼女には届いていない。思いは言葉にしなければ伝わらない。しかし言葉にしても伝わらないとなると、尚更辛い。なら、思わなければいいではないか。伝えようとしなければいいではないか。しかし、そんな辛さよりも側にいて笑って、話して、分かち合うことが出来ない方が苦しい。だから彼等は彼等に伝える。伝えようとする。


届け、届けと言葉をぶつける。思いをぶつける。涙を犠牲に、悲しみを殺して。


しかし届かない。ならどうすればいいのだろう。流星に願うことも神に祈ることも、意味をなさない現実で、奇跡をどう起こせばいいのだろう。


今までは二人といて幸せだった、そんなの当たり前だといえる程、幸せだった。今は眠る彼等に襲いかかった悪夢が憎い。そして逃げている犯人も憎い。何もかも憎い。そんな感情が少し自分を支配しようとしている。


自分は何も出来ないことくらい知っている。しかし何かできないかともがいている。これはもしかしたら今まで彼にした事に報いようとしているのかもしれない。そんなことは不可能だと理解しているはずなのに。


彼等は幸せだった。それが羨ましかった。離れていく2人に嫉妬した。離れていくことに恐怖した。


眠っている彼等の関係を壊そうとした自分たちが、彼等の人生を壊した人を怨むなんてこと筋違いだって、自分たちが一番分かっているはず。それなのに自分たちは無意識のうちに償おうとしている。


「「ごめん、・・・早く、目を覚まして」」


二つの病室から放たれた願いは冬特有の乾いた夕焼けに吸い込まれていった。


翌日の早朝

同じ二つの病室から同じ言葉が放たれた

「「ここは・・・私は・・・」」

この時から2人の新しい物語がよくやく始まった。




真っ暗なそこは寒かった。冷たかった。悲しかった。辛かった。寂しかった。2人で楽しく遊びに行った帰り、僕は突然独りになった。


今まで側にあった温もりが消えた。なんでこんな事になったんだろうか。いつも通り歩いていただけだった。それから気が付いたらここにいた。そして段々冷静になっていったら思ったことがある。


ここはどこだろう。

恐らくクラスメイトによるドッキリの可能性が高い。タチが悪いほど良く作られている。光の漏れが少しもない。ここまで来ると人間技ではないようだ。


いつこのドッキリは終わるだろう。僕はここに何分間居たんだろう。わからない。感覚がない。


今、あいつはどうしているだろうか。助けに来ないことを考えると、過去にあったことと同じ目にあっているんだろうか。だとしたら助けに行きたい。また、酷い目にあうかもしれない。それだけはさせたくない。


この暗闇に入ってからかなりたってから、地面が光出した。いや、そもそもそこに地面があるのかすら危ういから、足元というのが正しいのだろう。


足元が発光し、何も感じられなくなるほど白い世界が目に焼き付いた。そして恐る恐る身を見開くと、そこも白い所だった。白い所だったのには変わりないのだが、先程までいた所とは違うようだ。


しかし、なにか他にも大事なことを忘れている気がする。


その大事なことが思い出せない。忘れるべきではない、自分が物凄く大切だと思っていたものだったと思う。それしか分からない。


取り敢えず落ち着いて状況を理解することにする。まず僕は誰だ・・・・・・瀬角、瀬角せすみ千尋ちひろ。それは大丈夫。他には・・・高校一年生、男、四人家族、友達は、色々。特に仲良かったのは・・・。そこで違和感を覚える。


僕には昔から一緒に過ごしていた人がいる。その人は・・・・・・。思い出せない。何故かその人が頭の中から消えている。顔も声も性格も容姿も。何も覚えていない、ただ居たということは覚えている。


その人はとても大切な人だった。大切?親友だということだろうか・・・それとも・・・。


そう自分の記憶を漁っていると部屋をノックする音が聞こえる。無意識に身構えるのが分かる。ここがどこか分からない上では正しい反応だろう。果たしてドアを横にスライドして入ってきたのは制服をきた男子だった。

その男子は・・・記憶によれば確かよく遊んでいた、所謂幼馴染というものにあたる人だった。名前は、そう、佐嶋さしま勝博かつひろだったはず。

どうやら彼は容姿は整っていて派手やかだが、性格は見た目とは裏腹に真面目なようだ。


「おはよう。」


何故か泣きながら僕に向けて挨拶した彼のくしゃくしゃな顔と弱弱しい声が心の奥に染み付いた。





「それで千尋はしっかり全部おぼえてるんだな。」


たぶん、覚えている。でも・・・

「何か忘れているような違和感があるんだ。」


「それが些細な事ならいいんだけどな。ことによっては大問題だからな・・・」


しかし、忘れるようなことだ、たぶんそんな大事なことじゃない。

「瀬理奈との思い出とか忘れてたら最悪だよなー。」


ん?聞き覚えの無い名前が出た。






















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未来創造部 からめる @caramel_amama

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