第350話珠理奈の両天秤(9)

新宿支店の融資案件の点検調査は、特に支店長の息子が持ち込んだ株や先物関連の案件に集中して実施された。

案件が多いことから、本店検査部だけでは人数が不足し、本店融資部まで動員しての点検調査となった。

結果として、新宿支店長は担保不足の融資を、故意に、かつ大量に実施した責任を問われ、懲戒解雇となった。

また、支店長の息子も、系列の証券会社であったことから、すぐに通報され、父親と同じ、懲戒解雇処分である。


そんな騒ぎの中、珠理奈と玲奈は、昼休みに、また喫茶店の個室に入った。


珠理奈

「支店長は特別背任だって」

玲奈

「そうだね、担保不足の融資を実施した時点でそうなる」

「それに支店長も管理職で経営者の一員なので、特別背任だね」

珠理奈

「それでも、ホッとしたかなあ」

玲奈

「うん、いつかはわかる話」

珠理奈は、少し疑問があった。

「あなたとか融資部長は、去年のうちに何で本店に報告しなかったの?」

玲奈

「うん、しようと思ったけれど、支店長に察知された」

「私が、一度、稟議書にどうしても印鑑を押せないって言ったら、すごい顔になった」

「もうね、怖いのなんのって・・・」

「結局、印鑑は押していないけれど、結局支店長は融資が実行されれば、後は稟議書は見ない」

「それに、検査部に知り合いもいなかったし、その時点では危険」

珠理奈

「危険って?」

玲奈

「あの邦男がね、何をしてくるのかわからない」

珠理奈

「意味が・・・」

玲奈

「彼は半分はスジ者さ、新宿で証券会社にいて、業績をあげるとなると」

「まともな客ばかりではない」

「邦男に、ちらっと言われたの、夜道は怖いとか」

「私、西武線だから歌舞伎町の駅になるし・・・」

珠理奈

「邦男から他には?」

玲奈

「ああ、ラインは着信だらけ、教えていないんだけど、支店長が漏らしちゃった」

「ゴルフの誘いから飲み会から、もう、すごかった」

「でも、全部断った」

珠理奈

「玲奈ちゃんが断ったから私が呼ばれたの?」

珠理奈は、どうしても聞きたかった。

玲奈

「うん、おそらくね、若くて少々可愛ければ、って自分で言うのも何だけどさ」

「誰でも良かったかもしれない」

「夜の街に繰り出す時の真面目そうなお飾りさ」

「そして、絡め手で、邦男の嫁にする」

「そんなの、まっぴらゴメンさ」

「スジ者まがいの嫁なんて、ロクなもんじゃない」

玲奈の口調も目もさめている。

珠理奈は、もう一つ聞きたいことがあった。


珠理奈

「ところで、圭君とは?」


すると、さめていた玲奈の表情が変わった。

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