第347話珠理奈の両天秤(6)
珠理奈は玲奈からのラインで「早く手を打とう」という意味を考えたけれど、それについては、玲奈としっかり話をしないとわからないと判断した。
玲奈へのラインには
「明日、詳しくお願いします」とだけで返した。
玲奈も単純明快。
「了解」とだけ返ってきた。
翌朝、いつもより早く出勤して、「支店長の御子息邦男」が持ち込んだ書類を見ていると、玲奈も出勤してきた。
珠理奈が玲奈に少し頭を下げると玲奈が寄ってきて
「うん、メチャクチャでしょ?」
と難しい顔をする。
珠理奈
「同じことされたって?」
聞き返すと
珠理奈
「私は渋谷支店だった」
「でも、ここの支店長のお気に入りということで、一年前に新宿支店に来たの」
顔色も変えずに答えてくる。
ただ、珠理奈とて、同じ都銀の行員、玲奈が一年前に渋谷支店から新宿支店に異動になったことは社内報で知っている。
ただ、知らなかったことは、「共通する新宿支店長のお気に入り」という点である。
珠理奈は確認をしてみた。
「あなたも邦男さんと面談を?」
玲奈は、嫌そうな顔で頷く。
「ああ、ひどい目にね、最低の男」
珠理奈は、「ひどい目の実態」は聞かなかった。
というのは、他の行員も出勤してきたから。
余計な話題は、もう少し人がいない場所でしなければならないと思ったのである。
だから、仕事だけの話題に留めた。
珠理奈
「既に融資完済案件なんだけれど、部長と支店長の印しかないけれど」
それでも、小声になる。
玲奈
「わかるでしょ?とても押せないって・・・」
「でも、支店長は融資さえ実行されれば、細かい書面には無関心だから助かっているの」
玲奈の気持ちはすぐにわかった。
そんな書面に印を押してあれば、発覚した場合の責任問題になる。
玲奈の「とても押せない」という意味は、そこになる。
珠理奈
「・・・それで、手を打つって・・・どうするの?」
「私たちは、あくまでも新宿支店長の部下だよ」
まだまだ、小声しか出せない。
玲奈は、そっと耳打ちしてきた。
「だから・・・圭君に」
珠理奈
「え・・・内部通報?」
珠理奈の膝が震えている。
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