第259話虫愛づる姫君(4)堤中納言物語

さて、姫様は虫たちを捕まえてくる男の子たちには、たいそう立派なご褒美やその子が欲しがるものをあげるので、子供たちも張り切って本当に様々で恐ろしく気色悪い虫を捕ってきては姫様に差し上げるのです。


それでも姫様は

「毛虫は本当に素敵だけど、数が少ないので物足りません」

ということで、カマキリ、カタツムリなどを取り集めます。

男の子たちは、カタツムリの歌を姫様に向かって大声で歌うので

姫様も

「カタツムリの角と角、争うのは何故?」と漢詩を歌います。


姫様は、男の子たちに名前をつけるのですが、「ありきたりでは何も面白くない」というので、虫の名前をつけるのです。

すなわち

ケラ男(カエル男)、ヒキ麿(ヒキガエル麿)、カナカガチ(カナヘビ)、いなご麿(イナゴ麿)、雨彦(ヤスデ)

そんな風に名付けてしまいます。



さて、とうとう、この姫様のことが世間に知れ渡ってしまいました。

どちらかと言えば、かなり悪い噂なのですが、なかには興味を持つ奇特な人もいるようです。


ある上達部(三位以上の最上級貴族)の御子様で、お遊びが好きで怖いものなしで相愛嬌のある顔立ちの君がいました。

その君が、この姫君の噂を聞きつけ

「まあ、珍しい姫様だけど、そうはいっても、これなら怖がるに違いない」ということで、

立派な帯の端を蛇の姿に似せて、そのうえ動くような仕掛けを作り、鱗模様の袋に入れます。

そして、それには、こんな手紙を結びつけます。

「這ってでも、貴方の周りにいたいものです、この蛇の長さと同じです、この私はずっと長く貴方を恋い焦がれているのですよ」


さて、こんな袋と手紙を受け取った侍女は、何も考えず姫様の御前に持っていくのですが、どうにも様子がおかしいのです。

侍女

「うーん・・・ただの袋だけど、何か変」

「あけるのも、妙だけれど、重たいなあ」

と思って引き開けると・・・


例の蛇が鎌首を持ち上げているのです。

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