第230話鬼のくれた美女(1)

図書館で中世物語集「長谷雄草紙」を読んでいた。


中納言にして技芸百般、世間の評判の高い長谷雄は、ある日の夕方、内裏への参上をしようとする前に、不思議な目をした男に出会った。

その男が言うのに、

「どうにも暇なので、双六をして遊びたいのですよ」

「なかなか、相手になってくれる奇特なお方もいません」

「しかし、長谷雄様なら、十分なお相手です」

「是非、どうでしょうか」


長谷雄としては

「これは怪しい奴だ」

そう思うのだけど、

「まあ、これも一興、どこで打つ?」

ついつい、遊び心が起きてしまった。


その怪しい男は

「そうですか、それはありがたい」

「では、私の住まいにて」

「長谷雄様のお屋敷では、差し障りもあるでしょうし」

と言うので長谷雄としては

「まあ、それもそうだ」と答え、牛車にも乗らず、供人もつけず男についていく。


たどり着いたところは、朱雀門の前。

「この門の上に」

怪しい男は言うけれど

「登れそうにもない」

長谷雄は困惑する。


しかし、理由はわからないけれど、長谷雄は男の手助けで、するすると朱雀門の上に昇ってしまう。

怪しい男は、双六の盤と道具を持ち出して

「さて、賭物は何に?」

「私が負けたら、長谷雄様の好みそのものの美女をあげましょう」

「長谷雄様がお負けになれば?」

そう聞いてくるものだから長谷雄は

「ああ、そうなったら私の持つ全ての財宝かなあ」

と答える。


「それならば」

怪しい男と長谷雄の話はまとまった。

そして、早速双六を打ち始める。



・・・ここまで、読んだ時点で、隣の席に違和感。


「あれ?美佳?」

いつのまにか、美佳が座っている。


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