第201話侮蔑と真心(4)

ジャンの回復には、ほぼ一ヶ月を要した。

ジャンが口をきけるようになって驚いたのは、ジャンのいる所が修道院であること、それなのに、ジャンの世話をするのが、ジャンよりも若いニケという娘だったことだ。


「あの、どういうことかな?」

修道着を着た初老の男も、中年の女性も、ほとんど顔を見せないのだから、ジャンとしては、ニケに聞くことになる。

そのジャンの質問に対し、ニケは本当に明るい顔と声で答える。

「うん、ここは修道院なんだけれど、ここの領主様個人で持つ修道院なの」

「だから、男女の何とかって言う、厳格な仕切りは作ってないの」

「もちろん、不貞な行為はだめだけどね」

ニケはクスッと笑いながら、話を続ける。

「私は、ジャンの街でジャンを助けた修道僧のフランシスコの姪で、ジャンをここにかくまう決定をした領主様のお世話係なの」


「え・・・」

ジャンは、驚いてしまい、全く返事ができない。


そんなジャンに、ニケは話を続ける。

「私のおじさんのフランシスコがね、ジャンの手を見たんだって」

「そして、すぐにわかったんだって、これは優秀な家具職人の手だと」

「おじさん自身が、有名な家具職人だから、わかったのかも」

「だから、もう少ししたら、仕事を言われるかもしれないかなあ」


「へえ・・・それで・・・」

ジャンは、少し安心した。

家具職人フランシスコの名前は知らないけれど、とにかく身の安全もあるらしいし、仕事もあるようだ。


ホッとした顔のジャンに、ニケが笑いかける。

「手始めに、私の椅子も欲しいな」


「え?」

驚くジャンにニケは、近づく。


「だってね、ジャンの寝ぼけ顔が好きなの」

「顔の傷が取れたら、けっこう男前だしさ」

「それをジャンの作った椅子に座って、毎日見たいの」

ニケの顔は、窓から入り込む夕日のせいだろうか、赤く輝いている。

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