第186話ほどほどの懸想(5)堤中納言物語(完)

頭中将は、かつて姫君の父宮が存命中のことを思い出します。

花や紅葉、名月などの折々に、宮邸には何度も伺っていたのです。

様々なことを思い出し、「こういうことが世の常なのだろうね、花は毎年咲くけれど過去には戻れない」などと、ついつぶやいています。

そのうえ、ご自分の身とて、実は定まったお方もおらず、危ういものと思っています。


結局は、頭中将はまるで惹かれるように姫君とは結ばれたものの、なかなか幸せは感じなかった様子。

ますます、世の中をつまらなく思い、姫君に恋の物思いを歌に詠んで差しあげたことさえ、一時の気持ちの乱れとまで思い、後悔なされているとか・・・


                                   (完)


※堤中納言物語中の「ほどほどの懸想」を舞夢なりに訳してみました。

ほどほどの懸想とは、三つの階層の男が、ほど(階層の程度)に応じて、それぞれにふさわしい階層の女に恋をする意味。

小舎人童から始まり、その上役の若い色好みの男、そして頭中将になります。


・小舎人童と若い娘の場合

 葵祭を舞台に目一杯のお洒落をする若い娘と、そんな彼女を探す小舎人童の若々しくも愛らしいカップルです。


・上役の若い色好みの男と故宮邸の女房たち

 色好みの男も女房たちも、面白半分、暇つぶしの「お遊びの恋」。


・頭中将と姫宮の場合

 頭中将は世の中の無常を感じ、姫宮を手に入れても、なかなか憂いは晴れない。また姫宮の様子も描かれていないことから、恋そのものが精気を感じない。

 普通の話であれば、めでたく恋が成就し、幸せな生活を送るとか、そういうことになるのだろうけれど、この作者は、その結末にしていない。



なんとなく浮かんでくるのが、源氏物語の宇治十帖。

この頭中将の暗さは、どこか薫に繋がるものがある。

姫宮の境遇も落ちぶれていた宇治の八の宮の姉妹にも、似通っている。

そうなると、最初から宇治十帖のパロディとして、作られた話なのかもしれない。


そうなると少舎人童は、匂宮。

色好みの恋を遊戯とする男は、源氏の君なのかもしれない。


まあ、諸説はあるけれど。



「堤中納言物語」

平安時代後期に書かれたと思われる短編集。

10篇の物語と1篇の断章を含む。

作者も編集した人も、不明。

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