第181話悪夢(8)(完)

「それでね・・・美咲には、見せてないんだけど・・・」

由美の表情が変わった。

不安を強く感じる。


「もしかして・・・あれ・・残ってたの?」祥子の表情も変わった。


「亡くなった旦那が、ほんの冗談でいっただけなのに・・・」由美


「祥子さんの父さんと、母さん・・・呉服屋の主人まで、悪乗りしてさ・・」洋子


「え・・・何?何かまだあるの?」美咲


「うん・・・、ちゃんと写真館で、公家装束より、丁寧に撮ってもらったし」由美


「私にとっては・・・悪夢でした」

「どうして、あんなの着なくてはならないのか・・」

「顔まで、いろいろ塗りたくられて・・」

「そして写真まで撮られて・・まるで、おもちゃだし・・・」

「もともと、そんな趣味はないですし・・」


「何を今さら、文句言ってるのよ・・・」祥子

「すっごく綺麗だったし、それでいいじゃない・・・」洋子


「どんな写真なの?本人は嫌がってるみたいで、他の人は喜んでて」美咲


「うん、ちょっと待ってて・・・」

由美は、私にウィンクをする。

そのまま席を立って、しばらくすると、豪華なアルバムのようなものを持ってくる。

アルバムの素材そのものからして、呉服の生地でできているような、金銀の刺繍がふんだんに施されている。


「さて・・・」祥子のうれしそうな声に、ズキンとしてしまう。


「見せて!」美咲は、待ちきれないようだ。


「開けるよ・・・」祥子は、ゆっくりとアルバムを開けた。


「えーーーーーーーー!!きれい!まさか・・・」美咲


「うん、呉服屋の主人がどうしてもって言うから、この人に十二単着せてみたの。」祥子


「鬘はつけたけれど、ほとんどお化粧はいらなかった、肌が綺麗だったし・・」洋子


「この時期だけの、奇跡みたいな写真だと思うよ・・・」由美


「本当に、稀な男の子だった。」祥子


「実のこと言うと、無理やりだったんで少し悪いかなあって気持ちはあったの」洋子


「うん、でも、十二単を着て、写真に写った姿見ると・・・・・・・今でもゾクゾクしちゃう・・」由美


「・・・今でも、怒ってる?この写真、困る?」

祥子が少し不安そうな顔をして、聞いてくる。


「いや・・・怒ってはいません」

「ただ・・・これはあくまでも、現実ではない世界・・悪夢として・・・」


「まぁ・・・その小憎らしい口っぷり・・・」

祥子が、笑いながら頬をつねる。


確かに怒ったりする気持ちにはなれなかった。

ただ、どんな写真であれ、自分が写った写真で、彼女たちが喜んでくれている。

どうでもよくなってしまったのかもしれない。


「まあ・・・許しましょう」

思わず、口にしてしまった。


「わぁーーっ、写真の君!大好き!」

美咲がテーブル越しにいきなり、頬にキスをしてきた。


「あーーーーーっ、先を越された!」由美

「悔しいなあ・・」祥子

「何か、今夜は幸せ・・」洋子


自分でも、よくわからないが、長年の胸のつかえが流されたような・・・心の中にふんわりとした風が吹いていた。

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