第160話聞こえてきた笛の音(1)(今昔物語)

かなり古いお話になりますが


奈良の都に、一人の若い娘がおりました。

容姿も気持ちも美しく、両親も大切に育てておりました。


さて、その奈良の都に、河内の国から、一人の青年が宮仕えをするために、のぼってまいりました。

その青年は、なかなかの美形にて、また、笛を上手に吹いたので、上司や同僚に、大変喜ばれたそうです。


そのうち、この青年は、かの娘の話を伝え聞き、恋文をおくり、熱心に求婚をするようになったとのこと。

娘の両親も娘も、しばらくは、そんな話を聞き入れないでいたのですが、青年のあまりの熱意に、結婚の運びとなりました。


青年と娘の仲は、前世からの深い縁もあったのか、本当に仲睦まじく、暮らしたそうです。


そして、そんな幸せな生活が三年ばかりした頃です。

この夫は、ふとしたことから病にかかり、数日間床についていただけで、あっけなく亡くなってしまったそうです。


妻は、本当に嘆き悲しみ、夫恋しさに心も狂わんばかりとなりました。

そんな妻には、奈良の都の若者たちが、事情を知って、さかんに恋文を届け、言い寄るのですが、妻はまったく聞き入れようとはしません。

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