第158話返せない歌

神保町の三省堂書店で、同じクラスの圭子にバッタリ。


「何探しているの?」

って聞かれたから、「新古今時代の和歌とか歌人とか」と答えたら、

圭子に腕を引っ張られた。


そのまま、古典文学研究部に拉致されてしまった。


なんとも数多の蔵書に囲まれた古めかしい部室。


それでも見つけた式子内親王様の和歌集の中に



「生きてよも

      明日まで

           人もつらからじ

                   この夕暮を

                        とはばとへかし」


圭子が「訳せるっ?」て聞いてきたから



「生きていても 明日までにします。


そうと知ったなら あなたはもう 辛くはあたらないでしょう。


気まぐれでも 訪れてくれるのなら


この美しい夕暮れ時に 訪れてください。


この世の せめてもの 思い出に」



同学年の、圭子が、覗き込んできた。


「ほーーー・・・・すごい歌だねえ・・・」圭子


「うん、こんな訳し方でいいかなあ」


「うん だいたい そんなもの」圭子


「よかった」


「ふむ・・・」圭子


「ふむって?」


「私が その歌を あなたに 送ったら?」圭子


「・・・答えられないって・・・こんな怖い歌に・・・返せないって・・・」


「ふん、そんなだから、ちゃんと彼女も見つからないの」圭子


「・・・」

大きなお世話だと思った。

「圭子だけはゴメンだ」と思ったけれど、怖くて言えなかった。











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