第85話VS野球部のエース

良夫は甲子園も有望な当学園野球部のエースにして四番バッター。

その精悍なルックスと引き締まった身体で、学園内外の女子学生の人気をほぼ、独占状態である。

何しろ良夫が歩けば、女子学生が後を歩く。

良夫が声をかければ、どんな女子学生も「ホイホイ状態」で、デート成立になる。

良夫としては、そんなことで、「まさに順風満帆」な高校生活を送っていた。


ところが、その順風満帆なはずの良夫の顔が、最近浮かない。

それどころか、少しイラついている。

その原因は、「一年生の新聞部、美少年の史」である。

「あのガキに、取材をされると、女どもが皆夢中になる」

「格闘系の女どもも、あいつを追っかけているらしいなあ」

「自称警護団とか作って」

「下手にアイツに文句を言うこともできないなあ、あいつ自体が悪い事しているわけでもなし・・・格闘女の警護団も厄介だ」

「そうは言っても、俺の周りの女どもが、日々減っている、それが気に入らない」


そんなことを、ブツクサ考えていると、野球部女子マネージャーの洋美が部室に入って来た。

「あの、良夫さん、新聞部の史君から取材依頼が来ているんですけど」

「甲子園を目指してって題ですが・・・」

「良夫さん、忙しそうですから、私が取材受けましょうか?」

その洋美の顔は、少し赤らんでいる。


「何?史?」

良夫は、少し焦った。

さっきまで史のことを考えていたことと、女子マネージャー洋美の赤ら顔からである。

「洋美まで・・・俺の女だと思っていたのに・・・」

「洋美だって、史からみれば、年上じゃねえか・・・史だって選ぶ権利もあるのに」

「そもそも何で、そんなにあいつがいいんだ?」

「あんな生白いガキが・・・」

「俺も受けてみるかなあ、変なこと言ったら、どやしつけちまおう」

良夫は、アセリはともかく、取材を受けてみることにした。

何より「甲子園をめざして」の取材なら、断るわけにはいかないし、女子マネージャー洋美を取られてしまうのも、不安があった。



三日後、野球部部室に、史が取材に来た。

事前に質問する内容も考えてあるらしく、粛々、丁寧に質問をしてくる。

「現在の調子、練習の主眼、警戒する相手校、絶対勝ちあがるための決意、学園内の応援に期待すること・・・」

全て、良夫の目をしっかりと見て、丁寧にきれいな字でメモを取る。


「・・・やば・・・こいつ可愛い、弟キャラとか妹キャラ・・・妹キャラかも・・・」

最初は、洋美をはじめとして、「ファンの女どもをとられてしまう」アセリがあった良夫は、別の感覚が生じてきた。


「聞きだし方も、なんか、ハンナリホンノリだし、つい本音を言っちゃうなあ」

「話していると、変な力が抜けて来るし、素直に練習もしたくなる・・・あれ?」

「今までの新聞部のインタヴューじゃ感じなかったなあ、こんなこと」

「何か、ずっとしゃべっていたくなった、聞きだし上手だなあ」

ここで、史への警戒感は全くなくなった。


そこで、横に座る洋美を見ると、案の定「真っ赤かつウットリ状態」

ただ、洋美のそんな状態を見ても、良夫にアセリや不快感はない。

むしろ、かえって、史のほうが心配になった。

史の人気の原因も、およそわかった。


「まあ、顔は超美少年で、聞きだしも超上手、顔と聞きだしで、心を溶かす」

「そうかといって、俺のように、女に積極的ではない」

「むしろ、引いている」

「でも、それだから女を引き付ける、でも、あまり集まっちゃうと、倒れる・・・こいつ、身体も心も超繊細かも・・・」

良夫がそんなことを考えていると、取材は終わりになった。


史は「ありがとうございました、良い記事になりそうです、甲子園頑張ってください!」

きちんとお辞儀して、良夫にさっと握手である。


「うん、史君、すごく楽しかった」

「また、来いよ!キャッチボールぐらいは教えるよ」

良夫も上機嫌である。


史もニッコリである。

「わあ!楽しそうです、よろしくお願いします!」

史は、また丁寧にお辞儀、部室を出て行った。


洋美が真っ赤な顔のまま、良夫に詰め寄った。

「私も握手したかった、私もキャッチボールしたい」


良夫は、洋美の目をじっと見た。


「あのさ、ライバル多すぎだぞ」

「手を握ってもらいたいとか、キャッチボールだとか」

「・・・難しいなあ・・・」


キャプテンは、部室のカーテンをさっと開けた。


「ほら!」


史は、今度はグラウンドで陸上部女子に囲まれている。




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