第80話コンサートの後で(1)

とにかくメチャクチャに疲れたコンサートだった。

何しろシューベルトの交響曲第9番、曲が長いなんてもんじゃない。

それに長いだけなら、まだ我慢できるけれど、同じフレーズが延々と続く。

管楽器なら時々休みがあるけれど、ヴァイオリン奏者の俺には、全く休みがない。

その上、指揮者は超几帳面である。

少しでもいい加減な弾き方をすれば、あのギロッとした眼で、睨んでくる。

「だいたい、何でこんな、長ったらしい曲書いたんだ!」

シューベルトへの文句の一つも言いたくなる。


「さて、打ち上げも、なんだか面倒だ、今日はパスする」

どうも、コンサートの打ち上げパーティーは好きじゃない。

今日の演奏がどうのこうの、次は何とかとか、真面目な厳しぶった顔とか、希望に満ちあふれたエへラエヘラ顔の集団はゴメンだ。

OBが出て来て「俺たちの時代は何とか」も、聞きたくない。

結局、出不足料2千円払って出て来てしまった。


「口直しじゃない、耳直しにジャズでも聴くかなあ」

オーケストラ奏者だし、クラシックは好きだけど、何しろシューベルトの曲が長すぎた。

結局ヴァイオリンを持って、いつものジャズバーに入った。


「あら、史君!」

美由紀が、にっこり笑ってお出迎え。

年は二つ上がハッキリした。

この間、強引に祥子がついて来てしまった時があった。

そして、そのスタイルの良さに祥子がメチャクチャ反発した。

今夜も、わりとボディを強調するドレス風を着ている。

何しろ、胸あきだし、谷間もクッキリだ。


「ほい!」

「最初は、水割りでいいや」


「あれ?今夜はコンサートでしょ?終わったの?」

美由紀は、少し前かがみで、水割りと、ピーナッツのお通しを置く。

ますます、谷間がクッキリ・・・ちょっとドキンする。


「ああ、終わったし、打ち上げ嫌いだから出てきた」

「何より、美由紀さんが見たいしさ」

少しはお世辞を言わなければならない。


「私が見たいの?」

「私、あの子よりおばさんだって」

「へえ、史君って年増趣味なの?」

「そうだったんだあ・・・笑える!」

美由紀が笑うと、ますます、ブルンブルンと揺れる。

コンサートで疲れた目には、まさに「目の保養」だ。

いや、少し「目の毒」かもしれない。


「・・・で、今日、彼は?」

少しドギマギしながら、いつもピアノを弾いているタケシがいないことに、話題を変えた。

そういえば、オーディオだけからの曲で、この店のウリの生演奏がない。


「ああ、今日風邪だって、残念だけど、他にも声をかけてなくてさ」

「でもさ・・・」

美由紀は、突然、イタズラっぽい顔になった。


「え・・・何ですか・・・」

ますます慌てた。


「史君、何かアドリブで弾いて!私、伴奏する!」

「史くんって、クラシックのジャズアレンジ上手だしさ」

美由紀は割と強引である。

手まで握って来た。


その時である。

「ガチャン」

ジャズバーの扉が開いた。


「え?」

振り向くと、祥子が立っている。

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