第78話雪から生まれた子供
真面目な商人がいた。
いつも財産を増やそうと、面倒を厭わず、商品仕入れを目的に、方々への旅に出ていた。
さて、その商人には、遊び好きの妻がいた。
その妻は、亭主がいない時が好きだった。
何故なら、妻が商人と結婚した目的は、商人の財産にあるし、出来れば商売の旅から帰ってきてほしくない(つまり、途中で死んでもかまわない)と思っていたからである。
その商人は2年間という仕入れ旅行を行うことになった。
すると、その妻は、これ幸いとばかりに、若い男を家に誘い込み、とうとう、その若い男の子を宿してしまった。
商人が2年の旅を終え、家に戻ると妻が赤子を抱いている
商人は妻に仔細を尋ねると、妻は
「ああ、この子はね、あなたを想ってバルコニーから遠くの空を見つめていた時に、つい寂しくて私は泣いてしまったの」
「そうしたら主なる神が憐れんだのか、雪がヒラヒラと落ちてきて、私の口の中に入って来たのですよ」
「本当に甘く、あなた自身の愛情を、主なる神が知らせてくれたのだと、本当に感激しました」
「この子はね、そのあなたの愛情がこもった雪のひとかけらで身ごもったのですよ」
「ねえ、本当に主なる神とあなたに感謝です」
まあ必死に、上手に釈明をする。
すると、その商人は答えた。
「それはそれは、ありがたいことだ、主なる神の御考えだろう」
「この子を私たちに与え、育てよとな」
「確かに後継ぎもいなかった」
「神様のご加護で、きっと立派な人間になるだろう」
商人はそこまでは言ったが、決して本心ではない。
この子供は、丸々と元気に成長したが、商人は、いつも、この子の出生の秘密を知りたく、注意を怠らなかった。
そして「ある程度の確かな情報」も得ていたが、あえて妻と子供には黙っていた。
さて、子供が15歳となったある日、商人は妻を呼び出し、告げた。
「私は明日から、この子を連れて商いの旅に出ようと思う」
「ああ、この子にも、大事な後継ぎとして、商売を学ばせるためだ」
「それは、大切なことなのだ」
妻は本当に不安だった。
しかし、商売の修行となれば、商人が死んでしまえば、仕事は子供に任せる他はない。
子供とて、商売の仕方を間違えれば、財産が目減りする、あるいは全て無くすこともある。
妻としては、胸のはりさける思いであったが、送り出す以外はなかった。
さて、商人は当初は、子供を連れ、幾多の地方で仕入れを行っていたが、ある日馴染みの小麦商人にバッタリと出会った(あるいは計画的だったかもしれない)。
そして、とうとう、その子を小麦と引き換えに売ってしまった。
そして、その小麦商人は、その子を奴隷商人に売り、奴隷商人は他国へ旅立っていった。
妻の子供を売った商人は、いっそう商売に力を入れ、諸国を回り多額の取り引きで財を成し、自分の家に戻った。
しかし、連れ帰らなかった息子のために、妻は本当に悲しみ、商人に事情の説明を求めた。
商人いわく
「ああ、それぞれ人には生きる道があるようだ」
「二人して、暑い国に行ったのさ」
「まあ、ギラギラと照り付ける光さ、それが子供には辛かったのだろう」
「何しろ、お前の息子は、雪から生まれたらしいからな、結局その光の熱であっという間に溶けてしまったよ」
「周りの人は驚いていたけれど、私は事情を知っていたから驚かなかったけれどなあ・・・」
妻は、息子が溶けたなどと言う話を聞いて、商人が自分をだましていると気づいた。
そして、自分が商人をだましていたことが、知られていたことも今になって分かった。
隠し通せると思っていた妻の計略は見事に失敗し、損失を招く結果となった。
妻は深く反省したが、夫が恥を受けることもなかった。
その後、妻は商人が仕入れ旅行中に、かつての若い愛人と痴話喧嘩の最中に、殺されてしまった。
商人は、妻に財産を取られることも無く、新しく貞淑な妻を迎え、その後は幸せに暮らしたとのことである。
※フランス民話より 一部ストーリーは変えてあります。
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