第52話ジャズバー(1)

JR御茶ノ水駅前の夜は、けっこう寒い。

風も強めに吹いている。


「ねえ!どこに行くの!」

後ろで祥子が怒っている。


「どこって・・・目の前っていうか、ここの地下だよ」

雅は祥子のケンマクに押されている。


「・・・ってここって、ジャズバーじゃない!」

「アヤシイって!」

祥子はガチガチのクラシック派、他の音楽など「汚らわしい、アヤシイ」って言い張り、全く聞かない。

おそらくお嬢さん教育そのものを、ガチガチに受けてきたんだと思う。


「そう?」

「じゃあ、今日はここまで」

「さよなら、気を付けて!」

雅は、ある意味「サッパリ」した。

これで、好きなジャズが思う存分、気にしないで聴けるのである。

そもそも、クラシックだけ聞いて育ったわけではない。

ロックもポップスもソウルもジャズも何でも好き。

嫌いなのは、演歌だけ。

その意味で、祥子と共通するのは「演歌嫌い」になる。


「あのさ!」

階段を降りる雅の頭上から祥子の怒り声が降って来る。

「もしかして、そこのジャズバーとやらに、アヤシイ女っているんでしょ!」

「そんなの認めないんだからね、アヤシイ女に連れ込まれて風邪ひかれたら困るんだからね、絶対ダメダメ・・・」

なんだかんだいいながら、怒り声はだんだん近くなる。


「で、入るの?ジャズ聞くの?」

雅は、聞き返すしかない。


「うるさい!」

「雅さんの監視です!」

祥子は強引に腕を組んできた。


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