第20話純愛

奈良の長谷寺の観音様を見に行こうと思った。


懸命に長い階段をのぼっていると、年老いたおばあさんが


階段を「よしよし よしよし」と 唱えながらのぼってくる。


「おばあさん、何でまた そんなこと 言いながらのぼるの?」

思わず聞いてしまった。


しかし、おばあさんは応えない。


「よしよし よしよし」と 唱え続けて、長い階段をのぼっていく。


もう一度 聞いてみた。

ようやく、おばあさんは応えてくれた。


「うるさいですよ・・・あの子が子供のころから寒くなると、よしよしって言って抱いて寝ましたのさ」

「あの子は今・・・東京に一人で住んでいて、本当に寒いと思う」

「私の大切なあの子が、風邪でも引いているんじゃないかと、どうしても心配なので、毎日観音様に願をかけているんです」


おばあさんは、息を切らしながら、また「よしよし」とつぶやきながら、懸命に長い階段をのぼっていく。


最初聞いた時は、よくわからなかった。

でも、おばあさんの「よしよし」という声と、背中を丸めてのぼる姿に、ジンときてしまった。




人が人を思う心って・・・美しい

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