10:独りで生きていくんです!
からからからから………………。
音を立ててキャリーバックを引き摺って、途方も無く歩いていた。
昨日の今日で、カップルや家族連れが多い。
告白が上手く行った人たちが早速、ラブラブしているんだ。
本当だったら、私も佐和田くんとラブラブ出来てたかもしれないのに。
こうなったのは、会社まで行ってしまった私が悪いんだ。
ぐぐぐぐぐ~~~、と物凄い音をさせてお腹が鳴り、足を止めてお腹を擦る。
すると、その音に通りすがりの男性が驚いて振り返って私を見るので恥ずかしくって、小走りに通り過ぎた。
「うう~、心もお腹も寂しいよ~」
家を出てからもう2時間。
昨日のお昼から何も食べていないし、そろそろ何か口に入れときたい。
キョロキョロと辺りを見渡せば24時間営業のファミレスが。
独りファミレスなんてした事が無いから、ちょっと恥ずかしいけど…。
「暫く考える時間も必要だし…。よし」
そう決心し、私は独りファミレスをする事とした。
幸い奥のボックス席が空いていて、そこに座る。
メニューを見ているとバイトの子だろうか。
注文を聞こうとしているのか、男の子が机の側から離れない。
これって、早く注文しろって事だよね。
「あの、注文いいですか?」
「は、はい!」
「えっとですね、このランチとBセット。ご飯じゃなくってパンで。それと、ドリンクバー1つ」
「か、かしこまりました!あ、あの、デザートなどは!」
「あ…、ランチ食べてからまだ食べれそうなら頼みますね」
入りたてのか、緊張しているバイトの子が可愛くって思わず笑ってしまうと、顔を真っ赤にして頭を下げ厨房の方へ行ってしまった。
「ふふふふふ…。これで、長時間居ても文句は言われないよね。…さて、これからどうしよう。実家に帰ると心配するから帰れないし、だからと言って友達の処も…。いやいや、甘えちゃダメ。独りで生きて行かなきゃ」
独り言を言いながら手帳と財布をカバンから取り出してテーブルに置いた。
所持金は50万円。(親が貯めてくれてた預金通帳は手を付けたくないのでカウントせず)
アパートを借りる頭金とかって足りるのだろうか。
足りたとしてもその後の生活の事を考えると、心許無い。
「独りで生きていくって決めたんだから、泣き事言っちゃダメ。あ、よく旅館とか住込みの仕事ってあったよね…。あれってどうやったら分かるんだろう。求人出るのかなぁ」
そういった求人があるのか見てみよう、とスマホを触って私は目を丸くした。
大量の不在着信とメール。
不在着信は佐和田くんと嬉ーちゃんだった。
そういえば、出産予定日近かったような気がする。
「生まれたのかなぁ…」
電話ばっかりだったから、久し振りに嬉ーちゃんに会いたい。
でも、会ったら今回の事とか言っちゃいそう。
産まれて少し落ち着いたら連絡あるだろうし、それまではこちらから連絡するのは止めておこう。
それにしても佐和田くんが電話掛けてくるなんて。
何かあったんではないだろうか、と不安になるが、もう、私は佐和田くんの奥さんでは無いんだ。
未開封のメールを開けようとしたその時、タイミング良く着信が入った。
習慣と言うのは恐ろしいもので、無意識に通話ボタンを押して耳にスマホを当てていた。
「はい、もしもし」
『っ、野乃華!?』
「っ!?さ、佐和田くん!?え?え?仕事中じゃないの?」
『馬鹿野郎!誰が離婚届なんか置いて出て行ってんだ!今、どこだ!』
「え、あ…その、」
『どこに居るか言え!』
「駅近くのファミレス…」
『出て駅前の本屋で待ってろ!5分後には着くから。ブツ、ッー、ッー、』
一方的に電話を切られて私はポカン、とした顔でスマホを見詰めた。
仕事中なのに、何故、離婚届の事を知っているのだろう。
「家に戻ってるって事?お仕事は?…って、5分後に本屋!?」
わたわたと手帳とスマホをカバンに突っ込み、立ち上がる。
そして、レジにいたウェイトレスさんに注文のキャンセルを伝え、1000円札(多分足りない)を押し付けて店を飛び出した。
けたたましい音を立ててタイヤが鳴るが、そんな事構っていられない。
5分で本屋まで行かなければ。
涙目になりながら、必死で本屋を目指す。
会うのが怖いのに怒ってくれた事が、探して迎えに来てくれた事が嬉しくって、息を切らせ走った。
本屋に着き、キョロキョロとしていると見慣れたスーツ姿の男性がこちらに向かって歩いて来るのが分かり、動きを止める。
すると反対にスーツ姿の男性、いや、佐和田くんの方が走って来て、数秒後には抱き締められていた。
「莫迦野郎、いきなり居なくなるなっ。ずっと俺の側に居させてくれって言ったのは野乃華の方だろぅ。約束、破んなよっ」
震える声とは反対に抱きしめている腕には力が籠められる。
「さ、佐和田くん、お仕事、」
「お前がいないのに、仕事出来るか!」
大好きな佐和田くんの胸に顔が押し付けられ、嬉しくって涙が溢れる。
それだけで嬉しくって私は、必死で躰を抱き締め返していた。
「…昨日は悪かった。あんな言い方した俺が悪い。折角、俺の好きなチョコ作って来てくれたのに」
「私こそ、ごめんなさいっ。約束守れなくって」
「それはそうと! あの手紙!お前の事が嫌い?どんな勘違いしてんだ!こんなに、好きなのに!お前以外の女なんて目に入らないのに!」
「え…?」
「お前はどんどん綺麗になっていって、他の
初めての愛の告白に驚いて、勢いよく顔を上げる。
しかし、大好きな旦那様の顔は変わり果てていて
「何で顔が腫れてるの!?」
素っ頓狂な声をあげた。
※次回、最終話です。
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