好きなひと

大野おおのつつみのことが好きなの?」


「は?」



 前の席の女子が突然振り返って顔を寄せてきた。

 いや近い近い。健全な高二男女の距離じゃない。背を伸ばしてさり気なく距離を取りつつ小声で返す。



「ちょっとなに言ってるのか分からない」


「だから。大野は堤が好きだよね?」


「堤は男だね?」


「うん」



 うん、じゃねえよ。



「なんなの。佐藤さんはそういうのが好きなの?」


「うん♡」



 うん♡じゃねえよ。

 まあ知ってたけど。



「ご期待に添えなくて恐縮ですが、俺は別に好きな子がいます」


「えー。……木村きむら?」


「だからなんで男なんだよ」


「それ以外の選択肢があるの?」


「佐藤さんの頭んなかゴキゲンだな」


「ありがとう!」



 いや褒めてねえ。分かれよ。


 俺の机に肘を突いて、佐藤さんがううんと唸る。



「逆になんでダメなの? 二人とも優しいし賢いしイケメンだよ」



 そいつは男の敵だな。爆ぜればいい。



「大野欲張りだなー。いったい誰ならいいのよ」



 お前だよ!




 って。


 言えたらなあ。

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