目覚め

さわと吹く風が乱れた髪を撫でてゆく

暖かい毛布に包まれた体はその変化を厭う



放っておいて、私のことなんて──



心地好い眠りを手放すのは嫌だ

柔らかい毛布に守られた肌は弱くて脆い

大切に大切に温めなくては

決して傷つかぬように守らなければ



それなのに風が吹く

さわさわと

乱れた髪を楽しげに踊らせて

晴れた空の匂いを、美しく咲く花の香を

運んでくる



まだ目覚めたくない

暖かく優しい温もりに包まれていたい

どうか惑わせないで




毛布を少しだけ下げてみた

瞼の向こうに光が揺れる

木々を揺らす風の嘶き

蜜を運ぶ虫たちの羽音

頰に触れる陽の温み




暖かく守られた眠りはしずかだ

暗く落ち着いて決して私を傷つけない

けれど




片手を突いて半身を起こす

さらりと

柔らかな温もりが滑り落ちてゆく

さわと吹く風が脆い肌を撫でる

纏いつく空気は暖かくて冷たい


引き返すなら今だ

暗い毛布のなかは冷たさとは無縁なのだから




それでも

私は立ち上がる

覚束ない足取りで歩き出す



ゆっくりと──

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