400文字。
早瀬翠風
いつものカフェで
そのひとのことを私は知らない。
その「おじさん」は、いつもコーヒーショップのテラス席に座っている。
朝の通勤時間帯、慌ただしく行き過ぎる人波から切り離されたように、ゆったりと座っている。
テーブルの上には、どっしりとしたマグカップと、小さなノート。
青いインクで書かれた文字は、通りを歩く私に読み解くことは出来ない。
何が書いてあるのだろうか。
何を想っているのだろうか。
そのひとは、いつも同じテーブルに座っている。
私はいつも、そのテーブルに視線を引かれる。
けれどこれは、恋ではない。
だって、
年が違いすぎる。
そのひとのことを何も知らない。
ときどき、おじさんのいない日がある。
誰もいないテーブルに、私はそれでも視線を引かれる。
けれど断じて、恋ではない。
いつものテラス席におじさんが座っていた。
テーブルの上にはマグカップがふたつ。
おじさんが優しい顔で笑っている。
笑顔を初めて見た。
けれど、これは失恋ではない。
決して。
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