無気力彼女に捧げる冒険譚

第1話プロローグ

 あれは、僕がまだ田舎を出てばかりの頃立ったと思う。

 初めて出会った不定形の魔物であるスライムに殺され掛けていた時、彼女と僕は出会ったんだ。んで持って僕が騎士を目指すきっかけになった出来事でもある。


 彼女…いや、君は知らないかも知れないけど、一目惚れだったんだよ?

 そっから命懸けで君と肩を並べられるぐらい強く成ろうとした。

 僕にとって君は、憧れだったんだ…。


 なのに…なんで、なんで…っ。


「今はこんなにぐーたらしてんだよおおぉぉぉ」


「うわっ、ビックリするじゃないか。折角の私の読書時間を邪魔しないでおくれよ。あっあとコーヒー飲んじゃったから、新しいの下さい」


「舐めとんのかぁぁぁああ」


僕の怒号が王都の町の隅っこの方の小さな屋敷の中に響き渡る。音に驚いた鳩たちがバサバサァっと飛び立つ。新記録更新かもしれない。飛び立つ数の。

…そんな事より。なんで彼女は平日の朝からぐーたらしているのだろう。

僕もうそろそろ騎士団に出社しなきゃ行けないんだけど…。

そんなに時に目の前でくつろがれたらイライラっとくるよね。と言うわけで怒っているのだけれど…。


「いい加減見せつけるように寛ぐのやめろよぉぉ!!働く気失せるんだよっ」


「そんなこといったって、『貴方を一生楽できるように守り、働くので僕のお嫁さんになって下さい』と声を上擦らせながら言ってきたのは君だよ?あぁ、あのときの君は可愛かったなぁ。それに比べて今は…」


 彼女はそう言ってわざとらしくその銀髪に憎たらしいほど似合っている焦げ茶色のモコモコしたセーターの袖で目の端を拭う振りをする。


……というか恥ずかしいからプロポーズしたときの事を言うのは止めてほしい。

 今でさえたまに思い出して任務中に悶えたりするんだから。部下からの視線が痛いんだよ…。


「あのときの事は引き合いに出すなよ。止めて。マジで。……チッまぁ取り敢えず仕事行ってくるから。寄り道せずに帰ってくるから大人しく待ってろよ」


そういえば時間がそんなに無いことを思い出した僕はそう言って靴をはき玄関のドアを開け…


「ああ、ちょっと待って」


…ようとしたのだが、何を思ったのか彼女は最早からだの一部と言っても過言ではないソファーからおり、トタトタと駆け寄り、


僕の頬に唇を落とす。


そしてニコリと微笑むと、いってらっしゃいと僕を見送った。

最後に一言。


「今日は私のためにご飯を作りに早く帰って来てくれよ。今日はさっぱりしたものがいいな」


余計なことを付け足した。

この嫁は…っ最後の一言さえなければ完璧なのにっ。



僕の嫁が可愛すぎる件。

でも、ぐーたら過ぎてウザイ件。


これが僕と彼女の日常。

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